【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

文字の大きさ
121 / 129
第六章 社畜と女子高生と二人の選んだ道

11.社畜といつまでもキレイな思い出

しおりを挟む


 理瀬と俺の関係を終わらせる理由として、篠田と結婚する。そんな話がまとまってしまった。全く予想していない展開だったが、もともとは篠田との結婚を真剣に考えていたこともあり、理瀬へ言い訳をするには最も適当な理由だと思われた。

 これで、篠田と一緒に理瀬のところへ行き、親権喪失の手続きを勧めればよいわけだが、理瀬と唯一接触できる伏見から、ゴーサインが降りなかった。


「まだ他の人とは会いたくない、って言ってます。宮本さんや篠田さんの名前を何度も出しましたけど、全然駄目です」


 伏見はそう言った。伏見とは問題なく会話できるらしいから、俺だけに会いたくないのかもしれない。いま俺と会っても、別れ話を進めるだけなのだ。

 俺や篠田の他に理瀬と接触できそうな人物はエレンくらいだが、「会いたいけど会ってくれない」との事で、理瀬はかつてのエレン全拒否モードに戻ってしまっていた。

 最後の候補として、俺は照子と話すことにした。

 照子がバイトをしているエレンの両親の店で、営業時間終了後、特別に飲みながら話をしてもいいことになった。

 店に入って、エレンや両親にも挨拶をした。照子はとても働き者で、今では欠かせない戦力となっている。おかげで自分がバイトに入る時間が減った、とエレンは喜んでいた。

 店の人たちが全員帰ったあと、照子と二人で、大きなウインナーをつまみに、ドイツビールを飲む。


「俺、篠田と結婚することになった」

「……ほんま?」


 照子はあまり驚かなかった。俺が何を言っても、もう興味がないのだろうか。


「ああ。篠田にやられたんだ。理瀬と俺との恋人関係を終わらせる、その手伝いをしてもらう代わりに、自分と結婚してくれった」

「ええー、篠田ちゃんなかなかやるなあ。それで剛は納得したん?」

「理瀬との関係を断ち切るにはそれくらい強い理由が必要だと思うし、将来理瀬を保護者として世話するなら、俺と篠田が夫婦でいたほうが後見人としてやりやすい」

「ふうん。剛はそれでええんやな。もう、それで決めたんやな」

「ああ。問題は、理瀬が俺と会ってくれないことだが」

「ええよ。だったら、まずうちが理瀬ちゃんと会って話したげるわ」

「お前が?」

「うん。女同士だったら話しやすいこともあるけん。うち、この前仲良くなった伏見さんともまだLINEしよるし、その気になったら一緒に理瀬ちゃんのところ、行けるよ」

「いいのか?」

「うん。うちは剛の力になれたら、ほんでええよ。逮捕された後やって、こんなに助けてもらったんやし」

「だが――」


 今はもう、全くそういう関係でないとはいえ、照子とは昔付き合っていた仲だ。別れた男の恋愛沙汰を処理する仕事なんて、頼んでいいものだろうか。


「うち、今回は剛がちゃんと決めたって、わかっとるけん」


 照子は、俺のそんな迷いを見透かしたかのように、語り始めた。


「ちょっと前、まだうちが理瀬ちゃんや篠田ちゃんのことを知らんかった頃、剛が急にもう二度と会わん、って言い始めた時あっただろ。あの時は、剛がまだ何か迷っとると思った。どんな悩みかはわからんけど、一人で抱えたまま、どっかうちのわからん遠い所へ行きそうな気がして、怖かった。力ずくにでも引き止めたかった。でも今回は違う。理瀬ちゃんとの関係は終わらせて、篠田ちゃんと結婚する。一人の大人として、剛はもうそれで納得したんやろ? うちと違って、剛は一回決めたらなかなか変わらんから、それで信じるよ」

「しかし――そのことで、関係ないお前に迷惑をかける訳には」

「関係ないこと、ないよ。篠田ちゃんも理瀬ちゃんもうちの友達やし、何より剛がこれで幸せになれるんだったら、うちはその手伝い、するよ」


 照子はドイツビールをぐっと飲み干し、自分で二杯目を入れ、戻ってきた。


「あんな……うち、剛のこと今でもやっぱり好きじゃ」


 視線はうつろだったが、照子の言葉は重く、強さがあった。


「たぶん高校生の時に好きになってから、別れた後も、今までずっと……剛のこと忘れたことないし、もとの関係に戻れたら最高じゃって、思うよ。でも、もう無理だろ。お互いに傷つけ合うことも多くて……一度傷ついたものは、二度と元の形には戻らん。たぶん、今からうちと剛が結婚できたとしても、昔みたいに幸せな仲にはなれん。そうだろ?」

「……」

「だったら、うちは剛がいちばん幸せになれるよう応援する。理瀬ちゃんのことが剛の悩みで、それがうちに解決できることなら、なんぼでも協力するよ」

「すまん……」

「べつに謝らんでええよ。うちの自己満足なんやけん」

「俺たち、なんでこうなったんだろうな。学生時代のバカな乗りのままで、就職して数年後に結婚して家庭持つとか、そういう普通の人生ならよかったのにな」

「それは、うちがプロの作曲家になりたい、って思ったけんじゃ」

「お前のせいじゃないだろ」

「ううん。うちがプロの作曲家になるためにすべてのエネルギーを作曲に使って、剛との関係をうまく考えれてなかった。そういうことじゃ」

「何もかも自分のせいにするなよ……!」


 俺はビールジョッキをどん、と大きな音を立てて落とした。

 照子は驚かなかった。長い付き合いなのだ。俺の性格くらいわかっているのだ。


「剛は優しいなあ」


 照子は冷たい水を用意してくれた。ビールくらいでは酔わないはずの俺が、今では酒に弱い照子よりもずっと酔っていて、まともに立って歩けないほどだった。

 俺は人生のかなり長い時間を使って照子と付き合い、彼女を傷つけてきた。しかし照子は、それを受け止め、もういい、と言ってくれている。最後まで俺の味方をしてくれている。

 裏切っても裏切っても、照子は裏切らない。こんなにいい人間がいることを俺は信じられないし、とても良いやつだとは言えない俺のそばにそんな人間がいるのも、なぜだろう、と思う。

 わからない。酔っていることもあり、どれだけ考えてもわからない。

 酔った俺は、そのまま眠くなって、船に乗っているような夢を見た。

自分の人生は、自分が動かしているように見えて、自分の周囲にいる照子のような良い仲間が、船の下のほうでオールを漕いでいる。みんながいるから俺が動いている。そういう姿を、俺はずっと夢に見続けた。

 翌朝、俺は店のソファ席でエレンに起こされた。


「あっ……すまん、寝てたのか」

「薬王寺さんから事情は聞きました。はい、あと一時間で開店なんで、早く支度して出ていってくださいね」

「……怒らないのか?」

「ちょっと呆れましたけど、それより驚きました。おじさんでも酔いつぶれることってあるんですね。そういう事しない人だと思ってました」

「そうだな。自分でもびっくりだよ」

「……理瀬とはちゃんと別れられそうですか?」

「ああ。昨日その話をしてたんだ。きっとうまくいく」

「わたしはいつもどおり理瀬から拒否られてますけど、おじさんなら会ってくれますよ。ヘンな話ですけど、わたしを拒否する余力があるってことは、理瀬の心に余裕があるってことですから」

「そうだといいんだがな」


 そんな雑談をして、二日酔いの頭を押さえながら家に帰り、翌日から仕事をすることにげんなりとしながら、その日の夜を迎えた。

 伏見からLINEがあった。


『理瀬ちゃん、宮本さんと話がしたいそうです』
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした

山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。 そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。 逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。 それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶 この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。 そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...