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ランチタイムは君の声
しおりを挟む昼休み開始の15分後。
この学校では毎日、放送部の有志が昼の放送を行っている。
今日も全校のスピーカーを通して校内放送のジングルが鳴る。
『こんにちは!金曜担当の放送部2年、柳田龍司です。』
「キターーー!!!」
校内放送の1言目で、興奮を抑えきれず叫び、立ち上がり、勝利のガッツポーズ。
文学部1年、塩野 昴。俺は、校内放送金曜担当の柳田先輩に恋をしている。
入学して最初の金曜日、スピーカーから流れてきた美しくはっきりとした低音ボイスに恋に落ち、はや2ヶ月。6月に入り天気はどんより暗く今日も雨が降っていたが、そんなことは気にならないくらいに、柳田先輩の声は俺の光となり学生生活を照らしていた。
『本日の校内ニュースです。夏の総合体育大会が近づく中、全国的に雨でコートが使えず、運動部の部長は頭を悩ませています。そんな中、サッカー部顧問赤松先生は、部員に地獄の階段ダッシュを──』
「あぁぁ柳田先輩…!今日も楽しそうに原稿を読まれている…!素敵…!」
教室内で校内放送を聞いている人は1部のみ、皆一緒に弁当を囲む友人と談笑している。俺にも一緒に食事を取ってくれる友人はいるが、毎週金曜日だけは、隣にいるだけで、興奮して騒ぐ俺を放置してくれるようになっていた。
『本日もお便りをいただいています。ラジオネーム、流れ星さんから!いつもありがとうございます。』
「わー!来ちゃった来ちゃった!読まれちゃった!どうしよー!」
永遠に校内放送とでかい声で会話を繰り広げる俺を、教室の皆は温かく受け入れてくれる。俺、1年目のクラスが本当にこのクラスで良かった。
毎週金曜日に読まれるように見計らって放送部のお便り箱に入れているお便り。
お便りに質問を書いて柳田先輩のことをそれとなく知ってきた俺だが、それももう2ヶ月も続けている。
俺は昨日、ついに禁忌の質問を投函した。
『えー、〝先週金曜の校内放送で流れた、SIRIUSの『囁いて』を聞いて、好きな人を思って胸が痛くなりました。放送担当さんは好きな人はいますか?〟とのことです。ありがとうございまーす』
教室がざわめく。ついにやりやがった、と。
俺の柳田先輩への思いをクラスメイトは全員知っている。その恋が、この質問の回答によっては展開を大きく変える。放送に興味を持っていなかったクラスメイトたちの意識は、校内放送に集まった。
『好き…かどうかはまだわからないけど、気になっている人がいますよ』
どくん、と心臓が跳ねた。
柳田先輩とは、お便り以外に交流がない。柳田先輩に他に好きな人がいるなら、身を引くしかない。その覚悟を持ってこのお便りを届けたのだ。もう少し詳しい話を聞こう、とぎゅっと目を瞑って放送に集中した。
『校内放送ってね、孤独なんですよ』
急に話題が変わってしまって動揺する。
れ、恋愛の話はタブーだっただろうか…。
不安げな視線を友人に向けるが、友人とは目が合わず、友人もまた、放送に集中してくれていた。
『誰の顔も見えない放送ブースで、1人で話してるんです。誰かが聞いてくれているかどうかの確信も持てずに。それがなんだか、寂しくて』
柳田先輩の声は、いつものハキハキとした雰囲気と比べると幾分か落ち着いていた。
心地よい響きを聞いていると2ヶ月、柳田先輩を思って何度も何度もお便りを出していた日々が思い起こされる。
『だからこそ、お便りをいただけることがとても嬉しいんです。お便りがあることで、俺の声は確かに誰かに届いてるんだなって嬉しくなるんです。今日はお便りが届いているのかなっていつもワクワクして、受け取る度に、真摯に綴られた文字を見る度に、貴方に会いたいと思うようになりました』
しんと静まり返った教室に、柳田先輩の声だけが響く。真っ直ぐと、迷いなく、柳田先輩の紡ぐ言葉が俺に届く。
『流れ星さん、放課後、放送室に会いに来てくれませんか。俺は貴方のことが気になっています』
どっと教室は歓声に包まれ、友人は俺に抱きついてまで喜ぶ。当の本人である俺は、理解が追いつかず呆然としていたが、それでも確かに自分に向けた言葉を貰えた嬉しさに、胸は熱くなっていた。
先輩、柳田先輩、俺は貴方が好きです。
絶対に会いに行きます。
『というわけで、今日の曲はSIRIUSで『一番星を愛した日』どうぞ楽しいランチタイムをお過ごし下さい』
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