量産型勇者の英雄譚

ちくわ

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二章 量産型勇者の一歩

二章四話 『剣狩り』

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 次の日、目を覚ましたルークは息苦しさを感じていた。
 外部からの力によって心臓を圧迫され、呼吸を邪魔されているような感覚。まぁ、何が言いたいかと言うと、自分の体の上で寝るティアニーズの重さで目を覚ましたのだ。

「……勘弁しろよ、お前から迫って来てんじゃん」

 ティアニーズは依然として熟睡中。ルークの胸を枕にして寝息を立てている。無防備も良いところで、昨夜の罵詈雑言が嘘のように安心しきった寝顔である。
 このまま目を覚ましたらどうなるか、なんてのは分かりきっているので、

(ゆっくり、ゆっくりとコイツを退かすんだ。焦らず慎重に、そして確実に)

 何度も自分に言い聞かせてから行動開始。
 まずは肩に触れてみる。肌に直に触れるので、多少の懸念はあったが起きる気配はない。
 そして第二段階へと突入。

(コイツを退かすんじゃなくて俺が下から移動する、落ち着け……!)

 ティアニーズの下から抜け出そうとした時、それがはからずして目に入ってしまった。二つの山、つまり胸の谷間である。
 何か柔らかいなぁとか感じていたけれど、実際に目にした瞬間に体が固まり、思わず生唾を飲み込んだ。

(い、いかんいかん。俺はお兄さん、こんなガキに興奮なんてしない。俺の好みは巨乳のお姉さんだ)

 とか思いつつも、ルークの視線は谷間から離れない。男として仕方のない事なのだが、今は気をとられている場合ではないと必死に意識を他のところへと持っていく。
 渇いた唇を下で湿らせ、

(起きるな、起きるなよ。振りじゃねぇかんな)

 ゆっくりと確実に、ただならぬ緊張感の中でするりとティアニーズの下から抜け出す。
 数秒間呼吸を止めながら何とか半分ほど移動。一旦呼吸を整えたところで、


「うちの野菜は安くて美味しいよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 多分、外の市場でおっちゃんが客引きしているのだろう。とんでもないボリュームで繰り出された声は閉められた窓を通過し、部屋の中でこだまする。
 ルークの瞳から、涙がこぼれ落ちた。

「……ん、ぅん……え?」

 当然、寝ていた人間はゆっくりと瞼を持ち上げる。
 寝ぼけながらごしごしと目を擦り、それから状況把握のために辺りを見渡す。
 そして、二人の視線がドッキング。
 みるみるうちに瞳が開かれ、それと同時に顔が真っ赤になってーー、

「な、なななな……変態!!」

 叫び、大振りの右ストレートがルークの顎を的確にさらった。
 ティアニーズと入れ代わる形で、ルークは強制的に眠りへと落ちていったのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ッたく、思いっきり殴りやがって」

 それから一時間後、宿での会計を済ませた二人は町へと繰り出していた。
 ルークの頬は痛々しく腫れ、ちょっと触っただけで電撃が駆け抜ける。不服そうに呟くも、前を歩くティアニーズは更に不機嫌そうに、

「貴方が悪いんですよ。まったく、あれほど忠告したのに」

「だから、何度も言ってんだろ。お前が勝手に乗って来たの、俺はお前に触れてすらいねぇの」

「そんな嘘が通用すると思っているんですか? だらしない顔で私の……む、胸を見つめてたくせに」

「……それは素直に認めようじゃないか。お兄さんは立派で良いと思うよ」

「気持ち悪いです、どこのエロ親父ですか」

 清々しいほどの気持ち悪い発言に、ティアニーズは自分の胸を隠しながら冷たい目を向ける。
 顛末はともかく、今のはエロ勇者が悪い。

「そんで、どこ行くんだよ。もう出発すんのか?」

「いえ、いくつか寄りたいところがあります。私の魔道具に魔力を装填するのと、あとは服ですかね」

「装填って、そんな事出来んの?」

「本来なら自分でやるんですが、私には魔力がありませんから。魔道具屋で魔力を装填しないといけないんです」

「ふーん、なるほどね」

 魔法についての知識が乏しいルークは、とりあえず分かった風に頷いてみる。とりあえず、やるべき事がいくつかあるらしいので、今はそれに着いていくしかないのだろう。
 ルーク達は町の活気に煩さを感じながら、目的地である魔道具屋を目指した。

 魔道具屋に到着すると、ティアニーズは店の中をふらふらと歩き回る。それからブレスレットを一つ手にとってカウンターに行くと、

「すいません、この魔道具を下さい。あと、私の籠手に魔力をお願いします」

「はいよ、希望の魔法はあるかい?」

「ブレスレットには火の魔法を三発。籠手には火と氷の魔法を三発ずつお願いします」

「りょうかい、少しのお待ちを」

 店主のおばちゃんは籠手とブレスレットを受け取り、自分の手をかざし始めた。それに反応するように籠手が輝き、触れた場所が白く光を放つ。

「あれで装填出来んの?」

「はい。才能ある人間からすれば、魔法の使用は箸を持つのと変わらないらしいですよ」

「はいよ、二つとも完了したよ」

 あっという間に魔力の装填が終わったらしく、おばちゃんは少し疲れたように二つの魔道具を差し出した。
 ティアニーズは騎士団のツケとして支払いを済ませ、二人は足早に店を後にした。

 店を出たティアニーズは、籠手の感触を確かめるように慣らしている。それから購入したブレスレットを取り出すと、

「これは貴方が持っていて下さい」

「俺? 使い方分かんねぇんだけど」

「念じれば勝手に魔法が発動します。折れた剣ではまともに戦えないでしょう? いざという時のためです」

「はいはい、ありがたく貰っときますよ」

 よく分からないながらも受け取るルーク。腕にはめてみても普通のアクセサリーと変わらず、言われなければ魔道具とは分からなかった。
 とりあえず魔道具屋での用事を済ませ、二人は次の目的地へと移動。

 次に訪れたのは普通の服屋である。普通といっても、衣服に興味のないルークが訪れるのは初めてだった。
 村に居た時は所持している服のバリエーションは三通りしかなく、お洒落とは無縁だったのだ。

「うーん、あまり無礼ではなく、なおかつ目立たない服……難しいです」

「どれも同じだろ、服なんて着れれば良いんだよ」

「今まではそれで良かったとしても、これからは勇者としてそれなりの振る舞いをするべきです」

「勇者じゃねぇ。つか、服に気を使ってない勇者だっていっぱい居んだろ」

「隣に立つ私が嫌なんです。そんなボロ布みたいな服では」

「誰がボロ布だ。これババアの力作だかんな」

 一応、川で洗濯したので汚れは目立たないが、年期や戦闘によってボロ布とかしている。
 ティアニーズは唸り声を上げながら服を吟味し、適当に見繕うと、

「はい、これを試着してみて下さい」

「いや、別に着る必要ないだろ。買えば良いじゃん」

「ダメです、サイズが違ったらどうするんですか」

「……女って本当に面倒だな」

「面倒で結構です。ささ、早く着替えて」

 ティアニーズに背中を押されながら試着室へと入る。
 嫌々ながらも渡された服に着替えて外に出ると、

「中々良いですね。私の目に狂いはありませんでした」

「モデルが良いからだろ。俺を褒めろや」

 全体的に黒と白をメインとした装飾の施されていないシンプルな服。良し悪しは分からないが、これで決定したらしい。
 店員に話しかけ、

「すいません、これを下さい。このボロ布は捨てて構いませんので」

「ババアの力作をゴミ扱いすんな。あとで怒られてもしらねぇぞ」

 ルークの着ていた服とはここでおさらば。
 会計を済ませ、着なれない服に若干の違和感を感じながら服屋を後にしようとするが、ルークの剣を見た店員が慌てて話しかけて来た。

「兄ちゃん、良い剣もってんねぇ」

「あ? いや、俺のじゃないんですけど。あげねぇよ?」

「別にいらねぇよ。それより、気をつけた方が良いぞ? ここいらで最近剣を持った奴が襲われる事件が多いんだ。それで死人も出てるし、俺は剣の良さは分からねぇけど、その宝石を見りゃ高いって事は素人でも分かるぜ」 

「へー、でもまぁ、俺達直ぐにこの町出るんで関係ないっすよ」

 一応の忠告として胸に止め、服屋を出ようとする。が、騎士団としての本能が働いたのか、それとも彼女の正義感なのか分からないが、事件と聞いてティアニーズの顔色が変わった。

 嫌な予感がし、ルークは慌ててティアニーズの耳を塞ぐ。しかし、そんな事をしても時すでに遅く、

「その話、詳しく聞かせていただけますか?」

「まてまて、王都に行くのが先決だろ。こんな所で無駄に時間食って良いのかよ」

「それはそれ、これはこれです。困っている人を見過ごす事は出来ません」

「はぁ……お前本当に面倒な奴だな」

 ドラゴンの時で学んだが、やる気に火がついたティアニーズを止める事は相当に難しい。
 諦め、そして厄介事に巻き込まれたと悟り、ルークは自分の不運に改めて肩を落とした。

 店員からひとしきり事件の話を聞くと、二人は服屋を今度こそ後にしたのだった。

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