量産型勇者の英雄譚

ちくわ

文字の大きさ
24 / 102
二章 量産型勇者の一歩

二章九話 『チョロい盗賊』

しおりを挟む


「おし、良いかアキン。俺達は今から剣狩りの奴らのアジトに乗り込む。そんで大量の武器を手に入れてもっと大きい組織を作りあげる」

「は、はいお頭。もっともっと友達を増やしましょう!」

「いや友達じゃねぇよオイ。仲間な」

「友達ですね!」

 物陰に隠れ、お頭ことアンドラはアキンの純粋さに呆れていた。
 騎士団に襲われた直前、たまたま歩いていたのを誘拐し、たまたま二人だけ逃げられたのだが、それからアキンは心底なついている。

 盗賊がどういうものなのか分かっていない訳ではないだろうが、恐らく悪い事をしているという実感はないのだろう。
 ただ単にアキンを信じて指示に従っているといった感じだ。

「それで、どうやって乗り込むんですか? 僕の魔法で扉ごと壊しますか?」

「バカ言うな、向こうの人数が何人か分からねぇだろオイ。ここは慎重に忍び込んで人質をとる、それから奴らと交渉すんだよオイ」

「さ、流石お頭です! 僕はそんな方法思いつきませんでした!」

「ほ、褒めんじゃねぇよオイ」

 アキンの言葉を聞いて、アンドラは照れたようにもじもじと体をねじる。おっさんの照れた姿など需要皆無だが、アキンはそんな姿を見ても目をキラキラと輝かせている。

「アキン、俺の指示があるまで絶対に魔法を使うなよ。お前の魔法は俺達の切り札なんだからなオイ」

「勿論です。でも、切り札なんて照れるなぁ……なんか勇者みたいで格好いいですよね!」

「お前勇者に憧れてんのかオイ」

「は、はい。いつか僕も誰かを救えるような人になりたいです。お頭みたいに!」

 今度はアキンが照れたように夢を語る。
 アンドラがアキンと出会った時、フラフラと今にも死にそうな様子だった。勘違いしているようだが、善意で助けた訳ではなく仲間として働かせるために助けたのだ。

 しかし、アキンは自分を救ってくれたアンドラを崇拝し、まるで神様を見るような目で見ている。
 いくら極悪非道の盗賊と言えど、そこまで純粋な瞳を向けられれば罪悪感が沸いてくる。
 ただ、アンドラは褒められると調子に乗るタイプなので、

「俺が勇者か……盗賊勇者ってのも悪くねぇな。よし、今日から俺の肩書きは盗賊勇者だオイ」

「盗賊勇者……凄く格好いいです! お頭にピッタリです!」

「そうか、そうだろ! 今日この日から俺は軍団を手に入れ、盗賊勇者の名が世界に広がる事になるんだぜオイ!」

「そしたら僕はその弟子ですね!」

 純粋無垢な目で気持ちを昂らせている二人だが、やろうとしている事と言っている事は犯罪である。
 バカ二人が集まっても誕生するのはバカであり、そこから天才的な発想が生まれるなんて奇跡はおきない。

 その場でしばらく勇者談義に花を咲かせていたが、アンドラは本来の目的をようやく思い出す。
 剣狩りのアジトである館へと目を向け、

「やっぱ正面から入るのは無理か。裏口を探すぞオイ」

「そう言うと思ってました! 僕が裏口を探しときましたよ!」

「お、中々やるじゃねぇか。まぁ盗賊勇者の弟子なんだならそれくらいやってもらわねぇとなオイ」

 腕を組んでガハハと汚い笑いを浮かべるアンドラ。
 アキンは褒められた事に頬を染め、言われるがままに裏口へとアンドラを案内した。
 裏口には見張りが一人しかおらず、警備が手薄で簡単に侵入出来そうだった。

「よし、俺がアイツを締め落とす。お前はちゃんと見て学ぶんだぞオイ」

「だ、大丈夫ですか? 間違って殺したりしないですよね? お頭ほど立派な人が……」

「た、たりめーよ! 俺今まで一人も殺したり事ねぇよオイ! 俺ほどの実力者ともなると手加減とかも絶妙だからよ!」

「で、ですよね!」

 全くの嘘である。こんなちゃらんぽらんな感じではあるが、アンドラは幼い頃に両親に捨てられ、人を殺して物を奪う生活を繰り返していた。
 負い目はあるが、生きるためには仕方ないと自分に言い聞かせているのだ。

 呼吸を整え、息子に良い所を見せたいお父さんの気持ちになるアンドラ。隙をついて飛び出そうとするが、突然どこかへ行っていた集団が帰ってきた。
 アンドラは先頭に立つ男の肩に抱えられる桃色の髪をした少女に目を奪われ、

「あの桃色の髪の女……昨日の奴か?」

「そうみたいですね。少しおかしくないですか?」

「おかしいってか、多分誘拐だろうな。剣狩りをやるような奴らだ、誘拐の一つや二つしててもおかしくねぇよオイ」

 普通に考えれば寝ている少女を肩に担ぐなんて事はあり得ない。動けないとか怪我をしているとかなら別だが、相手が相手なので今回は違うだろう。
 アキンは誘拐という言葉を聞いて肩を震わせ、

「そ、そんな、誘拐なんてダメです! 僕とお頭であの人を助け出しましょう!」

「い、いや、お前も誘拐された側だぞオイ」

「何言ってるんですか? お頭は途方にくれて歩いていた僕を保護してくれたんです。誘拐じゃなくて保護ですよ!」

 ここまで来ると、お人好しというよりバカなのだろう。
 疑いのない信用を押し付けられ、アンドラは言葉を失う。しかし、格好いい大人を見せてやらねばという虚栄心が働き、

「そうだな、あのガキを助ければ騎士団に借りを一つ作れる。よし、ついでにあのガキを助けるぞオイ」

「流石お頭です! 二人であの人を助けて悪い人達をやっつけましょう!」

「ちょいと目的がズレてるぞオイ。ま、たまには人助けも良いかもな」

 集団が扉の中に消えた後、アンドラは隙をついて物陰から飛び出す。盗賊としてそれなりの経験を積んでいるので、相手が一人ならお手の物である。
 あっという間に見張りをしている男を気絶させると、扉を少しだけ開けて中を覗き込む。

 外から見た雰囲気通りなら、恐らく中の造りはいりくんで迷路のようになっている筈だと推測。
 一直線に伸びる通路の先を歩いていた集団が消えたのを確認すると、二人は突入を開始。

「良いか、泥棒の極意を教えてやる。一つ目は絶対にバレない事だ。そんで二つ目は、もし見つかったとしても冷静さを保つ事だ」

「う、うっす。見つかった場合はどうすれば良いんですか?」

「そんなの殺……直ぐに気絶させるんだよオイ」

 口から出かけた物騒な言葉を呑み込み、アンドラは足音を殺して姿勢を低くして進む。
 アキンも真似をしているが、慣れていないという事もあり不恰好である。

「で、でも僕大きな魔法しか使えません……出来るかな……」

「そこは俺に任せろ。そのために俺が居るんだからなオイ」

「そ、そうですよね。お頭にばっか危ない事を任せてすみません……」

「何言ってんだオイ。お頭ってのは先頭切って危険に飛び込む奴の事を言うんだ。つまり、イケテる俺って事だな」

 危機感の欠片もなく、顎に指を当てて決めポーズをとるアンドラ。
 アキンもアキンで、音が鳴らないように拍手をしている。
 これでも一応有名なのだからビックリだ。

 しばらく一直線に進み、T字に別れた突き当たりまでたどり着く。先ほどの集団は右に曲がって行ったので、恐らく桃色髪の少女もそちらに居ると思われる。
 アンドラは行く先に人が居ない事を確かめ、

「よし……アイツらの姿は見えねぇ。このまま一気に行きてぇところだが、ここで油断するのが素人だオイ」

「おぉ! お頭はどうするんですか?」

「そんなの慎重に進むに決まってんだろオイ。誰にもバレずに侵入、そして誰にもバレずに抜け出すのが真の泥棒ってもんだ」

「ぼ、僕にも出来ますかね……? 魔法以外取り柄がないから……」

「俺の教えに従えば誰でも一流の泥棒になれるぜオイ」

 またまた歯を光らせて決め顔を作るアンドラ。しかしながらその技は相当なもので、視界に入る扉を手当たり次第に音もなく開けて行く。鍵が閉められていようが、懐から取り出した針金を器用に使って。

 道なりにしばらく進み、再び現れた分かれ道を勘を頼りに歩いて行く。人の気配がした瞬間に部屋へ飛び込み、息を殺してやりしのぐ。
 危なげもなく順調に屋敷内を探って行く姿は、流石のお頭である。

「居ませんね。さっきの女の人、どこに連れて行かれたんでしょう」

「あのガキだけじゃねぇな……。この屋敷には沢山の女が閉じ込められてる。多分奴隷として売るつもりなんだぜオイ」

「なんて酷い事を……! どうして分かったんですか?」

「色んな部屋を開けたが、女性物の下着がいくつか落ちてた。まだ綺麗だったし、剣狩りの一味じゃねぇと思うぜオイ。さっきの集団見ただろ? どいつもこいつもボロ臭い服着てやがった」

「気付きませんでした。お頭の洞察力には驚きです! まだまだいっぱい教えて下さい」

 アキンに見られないように、ついでに盗んだブラジャーをポケットにねじ込むアンドラ。
 部屋を物色し終え、扉に手をかけた所で外から声が聞こえた。

「さっきの女、ありゃ上玉だぜ。俺も色々と遊びてぇもんだな」

「バカ言え、いつも通りにあの人が楽しむだけだ。俺達は終わった後に奴隷として高値で買ってくれる奴を探す、毎度の事だろ」

「はぁ……俺も女が欲しいぜ」

 外から聞こえる男の会話を聞くに、恐らく桃色髪の少女の事だろう。アンドラは扉に耳を押しつけて聞き逃さないように集中していると、ポツリとアキンが言葉を漏らした。
 拳を握り締め、表情に怒りを浮かべて。

「許せない……女性は道具じゃありません……!」

「ア、アキン落ち着けオイ。さっき言っただろ、どんな時でも冷静にって」

「許せない!」

 アンドラの制止も聞かず、アキンは勢いよく扉を開いた。目の前に居た男を弾き飛ばし、物騒な会話をしていたと思われる二人に指を向け、

「女性は道具じゃないぞ! お前らみたいな悪党は僕とお頭が成敗してやる!」

「……誰だテメェら」

 二人の男はアキンの顔を見て首を傾げる。通路に響いた声を聞いたのか、ぞろぞろと奥から大量の男達が姿を現す。
 瞬く間に退路を塞がれたが、アキンはさした指を下ろす事はしない。

 アンドラは気付いた。
 この少年は、盗賊には向かない正義感を持っているのだと。

「……逃げるぞオイ」

「え? いやでもーー」

「良いから逃げるんだよオイ!」

 アキンの言葉を遮り、アンドラは目の前に居た男に向かってドロップキック。ドミノのように倒れて行く男達を踏みつけて道を作ると、アキンの手を引いて走り出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...