量産型勇者の英雄譚

ちくわ

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二章 量産型勇者の一歩

二章十六話 『本当の敵』

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「めっちゃ疲れた……この剣燃費悪すぎんだろ」

 一気に押し寄せた疲労に、ルークは肩を落としてため息を漏らす。
 喜びもなければ達成感もなく、魔元帥を倒したという偉業の凄さをこの男はこれっぽっちも理解していなかった。
 そもそもの目的が違うので仕方なく、ルークにとってこれは寄り道でしかないのだ。

「ルークさん!」

「桃頭、生きてたんか」

「ティアニーズですっ。それより、大丈夫なんですか?」

 駆け寄って来たティアニーズを見て、ルークはヒラヒラと手を振る。腕はともかく、他の箇所は大事ないようだった。
 呑気な顔で手を振るルークを見つめ、ティアニーズもため息を溢した。

「凄いです、そして助かりました……でも、何でそんなに格好悪いんですか」

「いきなりなんだよ、そこそこの容姿してんだろ」

「そういう意味じゃありません! 威厳と言うかなんと言うか……魔元帥を倒したのに『俺が勇者だ!』の一言くらい言えないんですか!」

「いやだって勇者じゃねーし」

 勇者であるかないかではなく、立ち振舞いについて指摘いるのだろうけど、このアンポンタンが気付く筈もない。
 死闘の後だというのにその余韻など一切ないルークに、ティアニーズは身を乗り出して掴みかからんとする勢いで、

「貴方は自分がどれほどの功績を成したのか分かっているんですか!? 魔元帥を倒したんですよ、人類で初めて魔元帥に勝ったんですよ!」

「うるせーよ、たまたまだっての。始まりの勇者だって魔王に付きっきりじゃなかったら倒せてたんだろ? だったら、別にそんな凄い事でもねぇだろ」

「凄い事なんです! 勝てます、魔獣を滅ぼせますよ! 中身はさておいて、ルークさんはやっぱり勇者なんです!」

「中身をさておくな。中身も容姿も含めて褒めろや」

 折れている腕など関係ないようにその場で飛びはね、ルークの手を握り締めるティアニーズ。ドラゴンの時と同様に、彼女は羨望の眼差しをルークへと向けている。
 悪い気はしない、悪い気はしないけれど、どことなくバカにしている感が強い事に本人は気付いていないのだろう。

「つか、何でお前ここに居んの?」

「あの魔元帥に連れ去られたんです。それで、あの盗賊の方と協力して魔元帥を倒そうとしたんですけど……」

「なるへそ、また勝手に突っ込んでやられたと……ダサ」

「む! ダサいとはなんです! 私達が奮闘したから人質を解放する事が出来たんですよ!」

「いやいや、めっちゃボロボロだっだじゃん。俺が来なかったら死んでただろ」

 嫌みったらしく目を細め、挑発するように声のトーンを上げるルーク。
 ピクリとティアニーズの眉が反応するように動き、羨望の眼差しから一変、強がりを見せて顔を逸らすと

「ルークさんだってボロボロじゃないですか。格好つけたくせに直ぐにやられてた」

「は? やられてから反撃するって王道のパターンを演出してただけだし。本気出してたらもっと早くに決着ついてたし」

「剣折れてる事本気で忘れてましたよね? アレ、凄くダサかったです、思わず笑ってしまいました」

「アレも演出の一つだし、油断させて隙をつくためだし。お前こそ、実は俺が来て嬉しかったんじゃねーの?」

「べ、べべべ別に嬉しくありませんよ! 私のあげた魔道具がなかったら危なかったくせに!」

「あれくらい余裕で避けれたけどせっかくだから使ってやっただけだし! 見せ場を作ってやった事に感謝しろ!」

「な、何を! ピンチに駆け付けるっていう格好いい状況を作り上げたのは私です! 貴方ではなく私のおかげで格好良く見えただけです!」

 良く分からない強がりを言いながら張り合う二人。どちらの発言も少しばかりズレているし、論点は何故かどっちが格好良かったかというものになっている。
 この二人は何時でも通常営業なのだ。

 しばらく終わりのない討論を続け、酸欠によって頭がクラクラし始めた頃、タイミングを見計らったようにビートが現れた。
 呆れたように頬を掻き、

「元気なこったなぁ。殺しあいの後だってのによ」

「おっさん、無事だったんだな。あの二人は?」

「応急措置は済ませてある。後はあのガキの魔法でなんとかなんだろ」

「……そういや、なんであの二人が居るんだ」

 瓦礫の山の向こうに、倒れているアンドラに付き添うアキンの姿が見えた。意識は戻っているようで、涙を流すアキンを励ますように笑いかけていた。
 そこまで気にはならないが、生きているなら問題ないと納得し、

「おっさんの言う通り、呼んだら直ったぞ。この剣なんなんだよ」

「だから何べんも言っただろうが。それは……まぁいい、そのうち知る事になるだろうからよ」

「教えろよ、そこまで言いかけて止めると気になるわ」

「俺が言ったところで今のお前じゃ理解出来ねぇよ。せめて剣の本当の姿を取り戻してからだ」

「本当の姿って、これじゃねぇの?」

「少なくとも俺が知ってるのとはちげぇな」

 ルークは剣へと目を向ける。あれだけの戦闘しながら、刃こぼれはおろか汚れ一つついていない。
 始めに見た錆びた剣とは違い、この美しい姿とも違い、また別の姿があるというが、これ以上変化するとなるとどうなるのだろうかとルークは考える。

 しかし、剣への興味も数秒考えただけで消え失せ、宝石の残数が八つとなった鞘へと戻した。
 鞘を見たビートは考えるように顎に手を当て、

「その鞘、そして宝石……まさかとは思うが……」

「あ?」

「いや、何でもねぇ」

 要領をえない言い方にルークは首を傾げる。
 そんな二人のやり取りを見つめていたティアニーズが、何か思い出したように突然声を上げ、

「あの、ビートさんってもしかして前の戦争に参加したあのビートさんですか?」

「どのビートが分からねぇが、戦争には参加してたぞ」

「やっぱり! 前線で戦っていたビートさんですね! 母から少しだけ話を聞いた事があります!」

「母親から? お前名前は?」

「ティアニーズ・アレイクドルです。父の名前はアルクルス・アレイクドル、ビートさんと同じく戦争に参加していました」

「アレイクドル……あぁ、あのアレイクドルか。バカみたいに熱い野郎だったぜ」

 ティアニーズの顔を見つめ、少し首を傾けた後に頷いた。
 しかし、戦争に参加しているという事はティアニーズの父親がどうなったのかを知っているという事で、僅かに目を伏せると、

「残念だった、アイツが生きてりゃ騎士団の部隊長くらいにはなってただろうに……」

「……はい、私にとって父は誇りです。悲しいですけど、父のやり残した事を私がやり遂げる……そのために私は騎士団に入りました」

「そうか、まぁほどほどに頑張れよ。だが、お前歳いくつだ? アイツと俺が戦争に参加したのは二十歳の時だぞ」

「あぁ、えぇと、私は母の再婚相手の子供なんです。私を産んで母は直ぐに亡くなりました……もう一人の父が私を育ててくれたんです」

「複雑な事情があるみてぇだな、深くは聞かねぇよ。あの戦争で死んだ奴は数えきれねぇ……戦争が終わっても悲しみはいつまでも残るもんなんだ」

 しんみりとした空気が流れ、ティアニーズとビートは黙りこんでしまった。
 こんな時にこそ空気の読めない勇者の出番なのである。
 大きな欠伸をし、興味が無さそうにぐるぐると肩を回すと、

「昔の事なんか話てたって何も変わらねぇだろ。それよか今は飯食って寝たいんだけど」

「……空気読んで下さい、女性にモテませんよ」

「うるせ、俺のタイプはボインのお姉さんで心の広い人だ」

「前に聞いたのと少し違う気が……まぁいいです。仕方ないですけど、もう一日この町に泊まりましょう。この傷で旅を続けるのは不安ですからね」

「おし、んじゃとっとと戻ろうぜ。後は憲兵とかに任せときゃ良いんだろ? 面倒だからあの盗賊が倒したって事にしといてくれ」

 足早に瓦礫を飛び越えて宿へ向かおうとするが、その前にティアニーズが立ち塞がる。
 呆れ顔から強張った表情へと変化し、

「これは貴方の功績です、貴方が勇者だと国王に信じさせるにはこれほど強力なものはありません。それを捨てろと?」

「何度も言わせんな。俺は勇者じゃない、魔元帥を倒したなんて知れたらそれこそ面倒になんだろ。適当に話でっち上げろ、俺は早く村で普通に暮らしたいんだ」

「無理ですよ、どれだけの人数が貴方の行いを見たと思っているんですか。他はともかく、私は絶対にこれを国王に報告します」

「……勝手にしろ。剣は直ってんだ、これで俺が死刑になる事は絶対にない。つまり、俺は王都に行く理由がなくなったって事だ」

「ふふん、甘いですね。私が何も考えていないとお思いですか?」

 待ってましたと言わんばかりにティアニーズの表情が笑顔で満たされ、ルークは何とも言えない不安に包まれる。
 ティアニーズは人差し指を立て、ドヤ顔で説明するように、

「魔道具、宿代、服代、そして壊れた屋敷。このお金は誰が払うと思います?」

「……まてまて、魔道具と宿代と服はともかく、屋敷は俺関係ねぇだろ」

「私の発言でどうにでもなります。彼らは犯罪者ですのでほとんどの証言は信用されない、つまり私の話が一番信頼性があるものとみなされるのです」

「テメェ、さっきと言ってる事真逆じゃねぇか。他の奴らの証言があるから俺は勇者になるんだろ?」

「時と場合によりますね。私のさじ加減でどうにでも」

「桃頭……テメェ相変わらず性格わりぃぞ。それでも騎士かよ」

 要するに、ティアニーズの発言一つで牢屋送りになるという事なのだろう。とんでもない職権乱用だが、人質達はティアニーズの顔を覚えているだろうし、デストの仲間はほとんど死んでしまっている。
 アンドラやアキンはいるが、彼らは盗賊だ。
 唯一味方になってくれそうなのはビートだけなのだが、

「俺はこの嬢ちゃんの味方だぜ」

「クソじじいが、老眼で距離感分からなくてこけて骨折しろ」

「さ、どうします? 私と共に王都へ行くのか、それとも牢屋で快適な生活を送るのか。心配しなくても大丈夫です、毎日面会に行くので」

 味方はゼロ。清々しい笑顔で迫るティアニーズに、ルークは今日一番のため息をもらした。
 魔元帥なんかよりもよっぽどの強敵である。

「わーったよ、行くだけだかんな。剣渡して直ぐに帰るかんな」 

「はい、また一緒に旅をしましょうねっ」

 ティアニーズの満面の笑みを見て、ルークはいつか必ず酷い目にあわせてやると心に誓う。
 一気に押し寄せる疲れを癒すため、ルークはおぼつかない足取りで宿へと戻るのだった。

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