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四章 王の影
四章四話 『四者面談』
しおりを挟む「早く開けろよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。久しぶりなので緊張してるんです」
「んなもん知るかよ。俺はさっさと終わらせて休みてぇの」
「そんな事言ってもダメです……ふぅ、落ち着かないと」
ルーク達が訪れたのは普通の一軒家である。
特にへんてつのない、それこそ普通の家。
恐らくこれがティアニーズの家なのだろうが、先ほどからチャイムに手を伸ばして引っ込めてを繰り返している。
トワイルの話では二ヶ月振りとの事なので、いくら親といえど緊張するものなのだろう。
しかしながら、親を知らないルークにとってそれは理解出来ず、今から村に戻ったとしても緊張などはしない。
なので、やらないなら俺がやると言わんばかりにチャイムへと指を伸ばす。
「ちょ、ちょっとなにしてるんですか!」
「お前がいつまで立っても押さねぇからだろ。どうせ押すんだからさっさとやれ」
「もう少し、もう少しだけ待って下さい。今気持ちを整えますから……」
「いーちにーいさーんよーん」
「カウントしないで下さい! 余計に緊張してしまいます」
「バカたれ! 変な方に曲げんじゃねぇよ!」
掴んだルークの指を握り締め、おかしな方向へと曲げようとするティアニーズ。
ルークは痛みに屈し、とりあえずは彼女が自ら押すのを待つ事にした。
それから数分後、
「……あのさ、まだ押さないの?」
「今押そうとしてたんです! ルークさんのせいで精神統一が乱れました」
「なんじゃそりゃ、今勉強しようとしてたのに、みたいに言うんじゃねぇ」
「事実ですもん、今から押します。ルークさんは黙って見ていて下さい」
ティアニーズに人差し指を握られたまま、ルークは再び待つ事になる。時折彼女の手が震えているようにも感じられるが、それほどまでに緊張しているのだろう。
ソラは既に飽きているのか、ただルークの後ろから見守っているだけだ。
「…………」
「…………」
「……見つめないで下さい!」
「どうすれば良いのかな俺は!」
「向こう向いていれば良いんです!」
「見てても押さねぇだろーが! 面倒くせぇんだよ、俺が押す!」
突然の理不尽に襲われ、ついにルークは耐えきれなくなり声を上げた。ここまで我慢出来ただけでも立派と言えるだろう。
指を握る手を無視し、ルークは手をチャイムへと伸ばすーー、
「さっきから誰ですか?」
その時、ガチャリという音と共に扉が開き、一人の男が姿を現した。
冴えないという言葉がピッタリな男である。
これといった特徴もなく、唯一上げるとすれば垂れ下がった瞳だけだろうか。
数秒間沈黙が流れ、男は三人を見渡した後、ティアニーズの顔をマジマジと見つめると、
「ティ、ティアニーズかい?」
「う、うん。お父さん、久しぶりだね」
「あ、あ、あ、あぁぁ……本当に良かったよ! 無事だったんだね!」
「ちょっと、お父さん……!」
瞳から一気に涙が溢れだしたかと思えば、男は両手を広げてティアニーズに抱きついた。あまりの勢いに体勢を崩し、横転してしまいそうになる。
当然、指を握られているルークも巻き込まれる事となり、三人が揃ってその場に倒れ込んだ。
「本当に良かった、ずっと心配していたんだよ! 君にもしもの事があったら僕は彼女になんて言えば良いのか……いや、そんな不謹慎な事は考えたらダメだよね。だって戻って来てくれたんだから!」
「わ、分かったから、一旦落ち着いて。ちゃんと帰って来たよ、怪我とかも全然ないから」
「うん、うん! 良かった、本当に良かった!」
感動の対面というやつなのだろうか。
男はティアニーズを強く抱きしめ、無事を祝うように何度も頷いている。鼻水を垂らしてろれつも上手く回ってはいないが、彼にとって彼女はそれだけの存在なのだろう。
その大袈裟な反応に押され、先ほどまでの緊張していた影はどこにもなく、ティアニーズは慌てながらも抱擁を受け入れていた。
そして、一方の巻き込まれたルークさん。
大の字に寝転び空を見上げていた。右隣では親子が感動の再会をしているけれど、正直そんな事どうだって良い。
空を見上げていると、精霊のソラがひょっこりと顔を出し、
「災難というやつだな。まぁ、長い間離れ離れになっていた家族との再会なんだ、少しくらいは我慢してやれ」
「……お前ちゃっかり逃げてたよな」
「人の気配がしたのでな、嫌な予感がして退散させてもらった」
「ちょっと来て」
「なんだ?」
さっきまでソラはルークの後ろにいた。しかしながら巻き込まれていないという事は、咄嗟に逃げたからだろう。
そんなソラを手招きし、頭上に顔が迫ったところで全力のデコピンをぶちかました。
とんでもない八つ当たりなのだが、横の親子を邪魔しないだけでも良しとしようではないか。
それから数分後、落ち着きを取り戻したティアニーズの父親に案内され、三人は家の中に足を踏み入れていた。
暖炉の設置されている大部屋に案内されると、ティアニーズと父親、その前に机を挟んでルークとソラという形で腰を下ろした。
「いやぁ、情けないところを見せてしまったね。あまりの動揺で取り乱してしまったんだ、すまない」
「大丈夫っすよ。めっちゃ気にしてますけど、もう気は済んだんで」
「そうかい……? それなら良かった。僕はサリー、知ってると思うけどティアニーズの父親だよ」
ルークの横で額を真っ赤にさせているソラが気になったようだが、サリーは頭をかきながら自己紹介。
一応の礼儀はわきまえているつもりなので、ルークもつられて頭を下げた。
「ルークです」
「ソラだ」
「あぁ、よろしくね。ええと、変な事を聞いて悪いんだけど……ティアニーズのお友達かな?」
「違います」
サリーの問いかけに、ルークは食いぎみで即答。
ティアニーズはルークを睨み付けて不服そうに頬を膨らませ、それからコホンとわざとらしく咳をした。
「この方達は私の……お仕事仲間? かな」
「仕事仲間? それじゃあ騎士団の方達なのかい?」
「ううん、ちょっと違うよ。そこの変なルークさんは……勇者なの」
一瞬だけ躊躇する様子を見せたが、ルークを見つめて言葉を繋いだ。
見つめてくるサリーに対して軽く頷き、ルークは悪意のある紹介に若干苛々。
ここでそうですと言わないのは、いくら勇者と認めたとはいえ、自ら名乗る事はあまりしたくはないからだ。
「……ほ、本当なのかい? 本物の勇者なのかい?」
「うん、そうだよ。まだ世間には公表されてないから秘密だけど、この人は本物の勇者だよ」
「そ、そうか……やったんだね! 流石ティアニーズだよ!」
「だからお父さん! いきなり抱きつかないでよ!」
プルプルと肩を震わせ、噛み締めるように勇者という単語を呟くサリー。そして次の瞬間、収まりかけた涙を放出し、そのままティアニーズに抱きついた。
自分の娘がやってのけた偉業を、自分の事のように喜んでいるのだ。
そんな二人を見て、
「なぁ、なんかバカップルみてる気分ですげームカつくんだけど」
「バカップルというか……父親が一方的に溺愛しているように見えるぞ」
「これがリア充爆発しろってやつなのか。俺来た意味あった? ただ苛々してるだけだよ」
「それに関しては私も同意しよう。人間の愛情には興味ないが、ここまで見せつけられると腹が立つ」
完全に茅の外に放り出された二人は、親子を見て眉をピクピクと痙攣させていた。
親子の仲が良いというのは微笑ましい事なのだが、それを素直に喜べないのがルークなのである。
再び数分後、サリーは無理矢理ティアニーズに押し退けられ、
「いやぁ、本当に申し訳ないね。娘の事になると直ぐに周りが見えなくなってしまうんだ」
「喜んでくれるのは嬉しいけど、人がいる時は恥ずかしいから止めてよね」
「あぁ、これからは自重するよ。でも、本当に凄いよ、本物の勇者を連れて帰って来るなんて!」
「まてまて、そのままだとまた抱き付く流れだろ。一旦落ち着いて下さい」
「うん、すまないね。こういう時こそ冷静にならないと」
嫌な流れを察知し、ルークは直ぐに一刀両断。
サリーは自分を落ち着けようと大きく息を吸い込み、優しい笑顔を浮かべてルークを見つめた。それから首を傾げ、
「それで、今日はなにしに来たんだい? ティアニーズに会えて嬉しいけど、勇者を連れ帰ったなら直ぐにでも王に報告するべきなんじゃないのかい?」
「トワイルさんがお父さんに会って来なって言ってくれたの。久しぶりだし、きっと心配してるだろうからって」
「そうなのか、わざわざありがとう。トワイル君にもちゃんとお礼を言わないとね」
「あの、俺達居ない方が良くないっすか?」
「そんな事ないよ! 娘が連れて来た初めての男の人が勇者だなんて、親としてはその顔をちゃんと見ておきたいしね」
「そ、そうっすか」
見た目はなよなよとしているけれど、サリーもやはり親なのだろう。その喜びは他人であるルークでも感じられるし、ティアニーズ本人も今までにないほど感情が溢れて出していた。
とはいえ、居心地が悪いのは変わらず、
「そんじゃ、俺達はここら辺で行きます。やる事あるんで」
「もう行ってしまうのかい? もう少しゆっくりしていったらどうだい。時間はあるだろう?」
「うん。王宮で合流する事になってるし、トワイルさんはゆっくりしてって言ってたから」
「そうか、それは良かった。なら、久しぶりにティアニーズのアップルパイが食べたいな」
「アップルパイ? 良いけど、久しぶりだから上手く出来るか分からないよ?」
「良いんだ、娘の作った物が食べたいんだよ」
(……どうしよ、すげー殴りたいけど帰りたい)
今のやり取りは、親子というより恋人同士と言った方がしっくりくるだろう。
怒りを心中で漏らし、ルークはソファに深く腰を下ろした。
ティアニーズは立ち上がり、早速台所へと向かう。
「ふむ、私もティアニーズを手伝ってこよう。味見くらいは出来るしな」
「まて、俺をこの人と二人きりにすんな」
「まぁまぁ、つもる話もあるだろう。邪魔者は消える事にするよ」
ニヤニヤと不安感を煽る笑みを浮かべ、ソラはティアニーズの元へと行ってしまった。
残されたのはルークとサリー。
重苦しい沈黙がその場を支配し、ルークもティアニーズの手伝いをするという理由をつけて立ち上がろうとした時、
「ルーク君、だよね?」
「え、あ、はい」
「変な事を聞いても良いかな? 別に深い意味はないんだ」
「ど、どーぞ」
先ほどまでとはうってかわり、サリーの声が嫌に低く感じる。心なしか表情も燐としており、冴えないという第一印象が既に崩れさっていた。
サリーはルークの瞳を真っ直ぐに見据えてこう言った。
「君、ティアニーズの付き合っているのかい?」
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