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第5話 矢の作成
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天使様たちは野宿か教会の屋根裏で寝ると仰っていたが、侍女用の寮にある私の部屋に泊まっていただくことにしてもらった。
「今日は失敗だったね」
「ですが弓矢の効果がわかりました。天界製の矢に当たった者は弓を引いた者のことが好きになるようです」
「その矢は使い果たしたわけだけど、アズラエルちゃんが言っていた良いニュースについての詳細を教えてよ」
「それにはエルゼの協力が必要です」
「あの、お二人とも、スープが冷めないうちにどうぞお召し上がりください。召使い用の食事で申し訳ありませんが」
「悪いね、エルゼちゃん。あとで食事代をミカエルに経費として請求するから」
「今日の糧に感謝します。領収書をください。それとチップは代金に含まれていますか」
「余り物ですのでどうかお気になさらず」
チップとは何だろう。天使様たちは黙々と食べ始めた。口に合うと良いのだけど。
「地上の食事は天界より美味しいね。どの世界の食事が一番美味しいかレビューしてグルメマップ作ろうか」
「天界の食事は果物かレーションが多いですからね。エルゼ、良ければ食べますか。天使に配布されるレーションです。袋の端にあるギザギザから破いて中身を食べてください」
「いただきます。ん……。これは恐ろしく甘いですね。ごほっ。喉が焼けるようです」
「食べすぎないようにわざと不味く作っているのです。それでエルゼに協力してほしいことが」
「何でしょう? ……なるほど、これはわざと不味く作っているのですか」
「私が死を司る天使であることはご存知ですね。あなたの想い人であるライゼットを明日殺そうと思います。それについての感想をお聞かせください」
「え……?」
何か私は天使様を怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。
「ア、アズラエルちゃん。天界のレーションが不味いのは天使ならみんな知ってるし。別に不味そうに食べたぐらいで怒るようなことは──」
「ガブリエルは少し口を閉じていてください。エルゼ、私は本気です。あなたの大切なライゼットを殺します。私が一言『即死』と唱えれば生命は活動を終えます。あなたはそれをどう思いますか?」
「あ、あの、アズラエル様。私は何か失礼なことをしてしまったでしょうか。それでしたら謝罪を……」
「さっきから聞いてればいくらなんでも悪ふざけがすぎるよ」
シュララ、シャキンッ。
ガブリエル様が腰に下げた鞘から剣を抜きアズラエル様に突き付けた。
「ほう、ガブリエル。私と戦う気ですか? 私が冥王の血族であることをまさか忘れたわけではないでしょう。私の力を行使すれば啓示の大天使の一族であっても簡単に生命を終わらせることができます」
「ど、どうかお二人ともおやめください! アズラエル様、どうしてですか!? なぜライゼットを殺さなければならないのですか!? どうかおやめください……。ううっ……、ひっく、ひっく、ぐすっ……」
私は混乱し思わず泣いてしまった。その時、アズラエル様の体が輝いた。
「冥界奇跡『霊魂の矢』。これは霊魂の力を矢に変える奇跡です。人は喜怒哀楽の感情を豊に持った生命であり感情が昂ぶると霊魂から力が漏れ出します。エルゼ、あなたに悲しい思いをさせたことを謝罪します。申し訳ありません」
私の胸に手を当てると光り輝く矢を作られた。私は涙を拭いた。
「そ、それではライゼットを殺すというのは嘘ですか?」
「はい。嘘偽りなく申し上げます。今のは全てフェイクであり演技です」
「も、もおー。アズラエルちゃんひどいよー。びっくりしたー。寿命が千年縮まったよー」
「私はあなたに斬られそうになって身がすくむ思いで精一杯虚勢を張りました。とにかくエルゼがライゼットを思う強い気持ちがこの矢に封じられています。これを愛の矢として使いましょう。これであれば弓を引いた者ではなくエルゼの愛に気がつくはずです」
「今日は失敗だったね」
「ですが弓矢の効果がわかりました。天界製の矢に当たった者は弓を引いた者のことが好きになるようです」
「その矢は使い果たしたわけだけど、アズラエルちゃんが言っていた良いニュースについての詳細を教えてよ」
「それにはエルゼの協力が必要です」
「あの、お二人とも、スープが冷めないうちにどうぞお召し上がりください。召使い用の食事で申し訳ありませんが」
「悪いね、エルゼちゃん。あとで食事代をミカエルに経費として請求するから」
「今日の糧に感謝します。領収書をください。それとチップは代金に含まれていますか」
「余り物ですのでどうかお気になさらず」
チップとは何だろう。天使様たちは黙々と食べ始めた。口に合うと良いのだけど。
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「いただきます。ん……。これは恐ろしく甘いですね。ごほっ。喉が焼けるようです」
「食べすぎないようにわざと不味く作っているのです。それでエルゼに協力してほしいことが」
「何でしょう? ……なるほど、これはわざと不味く作っているのですか」
「私が死を司る天使であることはご存知ですね。あなたの想い人であるライゼットを明日殺そうと思います。それについての感想をお聞かせください」
「え……?」
何か私は天使様を怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。
「ア、アズラエルちゃん。天界のレーションが不味いのは天使ならみんな知ってるし。別に不味そうに食べたぐらいで怒るようなことは──」
「ガブリエルは少し口を閉じていてください。エルゼ、私は本気です。あなたの大切なライゼットを殺します。私が一言『即死』と唱えれば生命は活動を終えます。あなたはそれをどう思いますか?」
「あ、あの、アズラエル様。私は何か失礼なことをしてしまったでしょうか。それでしたら謝罪を……」
「さっきから聞いてればいくらなんでも悪ふざけがすぎるよ」
シュララ、シャキンッ。
ガブリエル様が腰に下げた鞘から剣を抜きアズラエル様に突き付けた。
「ほう、ガブリエル。私と戦う気ですか? 私が冥王の血族であることをまさか忘れたわけではないでしょう。私の力を行使すれば啓示の大天使の一族であっても簡単に生命を終わらせることができます」
「ど、どうかお二人ともおやめください! アズラエル様、どうしてですか!? なぜライゼットを殺さなければならないのですか!? どうかおやめください……。ううっ……、ひっく、ひっく、ぐすっ……」
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「はい。嘘偽りなく申し上げます。今のは全てフェイクであり演技です」
「も、もおー。アズラエルちゃんひどいよー。びっくりしたー。寿命が千年縮まったよー」
「私はあなたに斬られそうになって身がすくむ思いで精一杯虚勢を張りました。とにかくエルゼがライゼットを思う強い気持ちがこの矢に封じられています。これを愛の矢として使いましょう。これであれば弓を引いた者ではなくエルゼの愛に気がつくはずです」
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