【完結】王子が悪役令嬢との婚約を破棄したのは天使が愛の矢を誤射したためです

中島マリア

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第4話 天使の誤り

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 ガブリエル様は愛の弓矢を構え、その横ではアズラエル様が何か指示を出している。

「無風。標的の身長は6フィート。距離30ヤード。これ以上接近すると安全装置のため奇跡が正常に発動しない可能性があります。標的が動きを止めたら直ちに撃ってください」
「りょーかい。……30ヤードってメートルだといくつだっけ。ええっと、ええっと……」
「今です。ファイア」
「あっ、な、南無三!」

 ヒュンッ! ドスッ。
 ピンク色の光を曳きながらライゼットの心臓に矢が吸い込まれて消えた。

「うっ!?」
「あの、ライゼット卿。大丈夫ですか?」

 うめき声をあげて片膝をついた彼に手を伸ばす。これでライゼットが私の虜になるのだろうか。

「命中です。クリーンキル」
「えっ? 当たった? 一か八かで矢を放ったんだけど。やったね。目を閉じてても当たるとか私って弓矢の天才だったのかな」
「次は目を開けて撃ってください」

 天使様が喜んでいるようなので成功らしい。

 その時、ライゼットはすくっと立ち上がり空を見上げた。

「天啓が下った」

 彼は無表情でそう答えた。

「え?」

 私は困惑しながら彼を見つめる。今ここで婚約を申し込まれたらどうしようと身構えた。

「俺は啓示の大天使ガブリエルを信仰する。彼は角笛を吹き鳴らし地上に神の声を届ける者だ。エルゼさん、俺は礼拝堂で天使に祈ってくる。ではまた。このハンカチは洗って返す」
「え、ええ、また……」

 ライゼット卿は何かに目覚めたように突然去って行ってしまった。私のハンカチを持って。

 天使様の方を見ると何か揉めている。

「今あの人、私のことを彼って言った?」
「はい。この国の教会は天使を男性と教えていますからね」
「もう頭きた。教皇庁へ直接抗議してくる」
「待ってください。まず、なぜあの標的の男が急にガブリエルを好きになったのでしょう」
「それはもちろん私が彼のハートを射抜いたから……。この弓矢おかしくない!? 好きになってもらいたい本人が自分の手で相手を射抜かないとダメってこと!?」
「さらに悪いニュースです。矢は今のが最後の一本でした」
「予備の矢は!? ああっ、そうだ。私がミカエルに使ってしまったんだった。ああもう、私のバカ。でも、矢が二本しか無いのは予算少なすぎってもんだよ」
「これは試作品ですから矢も試作品で数を揃えられなかったのでしょう。しかしながら男同士でも愛の弓矢の効果は成立することがわかりました。あの騎士は男の天使であるガブリエルへの友愛に目覚めました。これは注目に値します」
「繰り返すけど私は女天使だよ。あの人に本当の性別教えたらどう反応するのかな」
「それはわかりませんが興味深い問題です」
「それで矢を使い果たしたけど、これからどうする?」
「良いニュースがありますよ。人間を使って奇跡の矢を作る方法を私は知っています。その矢を使えばエルゼの心を標的の男に届けることがおそらくできるでしょう」

 残念ながらライゼットを私の虜にする計画は失敗してしまったらしい。

「エルゼちゃんごめん、少し手違いが。明日再挑戦しよう」
「明日は間違いなく成功することでしょう」
「あの、天使様。今日はどこでお休みになる予定ですか?」
「あー、寝るとこ? てきとうに野宿でもするよ」
「または教会か修道院を探して屋根裏で休みます」
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