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第13話 追放騎士

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「あの奴隷犬士達とシスターダレンは知り合いなのですか? それでしたら話し合いで解決できると思いますが」
「そうですね、シスタールーフ。少し彼らと話してみます」
「あれがイエイヌ族の人なんだ。初めて見たよ。サラシンの南領の田舎には兵隊さんなんて全然いないし」
「シスターマリジットも奴隷犬士と話すと良いわ。大丈夫、噛み付きはしないから」

 私とマリジットは修道院の門に向かった。

「やはり、あの女はダリヤ王女だ。盲目なのが証拠だ」
「ああ、間違いない。辺境の修道院に送られたと聞いていたがまさかここにいるとはな」
「連れていけば皇帝陛下もさぞお喜びになるだろう」
「褒美も期待できそうだな」
「おい、僕は昔ダリヤ王女に仕えていた。手荒なことは許さないぞ」

 なんだか嫌な感じね。知り合いの奴隷犬士の子を除けば私を捕らえて彼らの皇帝への手土産にするような相談をしている。

「王女さんよ。あんたの一族はみんな牢に入れられたか、さもなければ死んだぜ。イアブーユ朝は滅亡したんだ。これからは俺たち奴隷犬士、いや、マルムーズの一族がこの国を支配する」
「ふーん、そう。さっきから王女王女言ってるけど、私はイアブーユ家から追放されてこの修道院に来て修道女誓願の儀式も済ませて、今はシスターダレンが私の名だからそこは覚えておいて」
「さっきから聞いてればお兄さん達は悪い人だね。私の友達を誘拐するつもりでしょ。この私シスターマリジットが相手になってあげる。野良仕事で鍛えた腕力を甘く見ないで」
「威勢の良い修道女の姉ちゃんだ。友達を庇うのは立派だが俺たちの邪魔はしない方が身のためだぜ? なんならあんたを看護婦として雇っても良い。よく見りゃ美人じゃねえか。ベールなんか脱いでもっと顔を見せてくれよ」
「私に触らないでください!」
「うわあ!?」
「こ、この女かわいい顔して人間離れした怪力を持ってやがる」

 マリジットにいたずらしようとした兵士が彼女に投げ飛ばされたようだ。

「お前らバカをやってないで中央に戻る支度をしろよ。ダリヤ王女殿下、いえ、シスターダレン。我々が立てたこの国の新たな王があなたとの面会を望んでいるのです。どうか僕と帝国中央の宮殿まで一緒に来てください。あなたの身の安全はこの僕が保証します」
「へー、新しい王様が私と会いたいって? ……交渉したら死霊教を国教にしてくれないかしら」
「失礼、今なんと?」
「何でもないのこっちの話。シスターマリジット、しばらく私は布教活動に行ってくるわ。あなたはこの修道院とシスタールーフを死霊の力で守ってあげて」
「それは構わないけど、また会えるよね?」
「うん、必ず」

 友人を残して修道院を離れ私は帝国中央領にある宮殿に来た。中央領は私の父の兄が治めていたが革命軍の兵士達の話を聞く限りでは恐らく生きてはいないだろう。帝都はあちらこちらにさまよう魂が見えた。やはり大きな内戦が起きたのだ。

「まったくこの世界はマジでマザーファッカーだな。地獄があるとするならここがそうだ。せめて俺がこの地獄の支配者となって自由にやらせてもらう」

 宮殿に連れて来られると聞き覚えのある声が聞こえた。あれは……。

「はっ。我らジョン陛下に忠誠を誓います」
「失礼致します陛下。ダリヤ王女をお連れしました」 
「ダリヤ、君に会いたかった。帝国中を探したぞ」
「革命を起こした異教徒の騎士ってあなただったのね、シャジャル。なんだか口調が凄く変わったわ。あなた本当にシャジャルなの?」
「ああ、正真正銘のシャジャルだ。耳も尻尾もある。だが、俺の本名はジョン・プレスター・マクガイアだ。ジョンと呼んでくれ。シャジャルと言うのは奴隷市場で名付けられたファックな名前だ」
「ジョンが本名なの? 変わった名前ね。ファックってのはどういう意味の言葉?」
「この世界には無い言葉らしい。まあ、大した意味はないから気にするな。それより俺はユナイテッドステイツからこの世界に来たんだ。アメリカって国に聞き覚えはないか?」
「メリケン?」
「メリケンじゃないアメリカだ。ユナイテッドステイツオブアメリカ。君はどこから来たんだ?  この世界に生まれる前の記憶はないか? 前世の記憶だ」
「えーと、たしか私はジパングという国にいたらしいけど」
「それはきっとジャパンの間違いだ。ニホン、ニッポンという国を覚えてないか? よく思い出してくれ」
「んー。この前死んだときに天使様に少し教わったわ。私はヨシエ・ヤマグチという人で、ジパングのナガサキというところでその世界の暦だと1945年に死んだらしいの。私自身はその記憶が全然無いけどね」
「1945年にナガサキ……。なんてことだ……。ああ、神よ……」
「どうしたの?」
「大統領は軍事基地か艦隊に落とすことを命じたのに戦争屋が拡大解釈して市街地にある軍事目標へ落として女子供を巻き添えにして吹き飛ばしたんだ。償え切れない罪だ」
「あなたが何を言ってるのかわからないわ」
「アメリカ戦略爆撃調査団はヒロシマとナガサキの犠牲が無くともジャパンは1945年末以前に降伏しただろうと最終報告書で述べている。戦争を終わらすために君が死ぬ必要は無かったんだ」
「良いから落ち着いて。あなたの言うことは一つもわからないから。そのジャパンという国の記憶は全く無いの。あなたは死んだときのこと覚えてるの?」
「すまない、取り乱した。覚えてるとも、俺もジャパンで死んだのさ。だが、西暦2020年に死んだんだ。空軍のパイロットだったが、ジャパンにあるヨコタベースからオキナワに飛行中、俺の機が操縦不能になってパシフィック海に墜落してしまった」
「西方のペガサスナイトか東方のドラゴンナイトみたいに空を飛んでて墜落して死んじゃったの?」
「ああ、正確にはエアプレーンのパイロットだがな。まだこの世界では発明されていない。それで話には続きがある。罪を赦され天国に行けるかと思ったら、サノバビッチな異教の神が『お前は砂漠に住む罪もない女子供を誤爆してナパーム弾で焼き殺した。永久に地球での輪廻転生から追放する。畜生道に落ちて半獣の奴隷として苦しめ。それがお前に課せられた天罰だ』とぬかしやがる。俺だって好き好んで民間人を殺したわけじゃないし心から悔やんでいたのにな。それでイエイヌ族へ転生した時に記憶も奪われていたが、君の回復の奇跡のおかげで全てを思い出したんだ」

 にわかには信じ難い話だけど、彼は異世界で暮らしていた人間の騎士で、罪を犯してその世界から追放され、私達のこの世界に奴隷のイエイヌ族として転生したらしい。彼が語る話にはところどころに異世界の言葉が混じっている。
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