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第8章 マッチングアプリ

最後の難関

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ギルドの定休日のため、アリサも休日なのだが。なんだか気持ちが落ち着かないため、店に来て書類の整理や掃除をしていた。



(ケビンさんのデート、うまくいったかしら……)


 ほうきを持ちながら、いつも隣のカウンターに立っているケビンに想いを馳せる。

 陽は傾き、デートもそろそろお開きになる時間だと思うが。


 ピピピピ、ピピピピ。


 電子音が鳴ったので慌ててマップを見ると、ケビンからのコールだった。
 すぐさま通話ボタンを押す。


「もしもしケビンさんですか! 
 どうですかうまくいきましたかデートは順調でしたか!」


 思わず早口でまくし立ててしまう。


『あ、ああ。おかげさまで、また次も会えるよう約束できたよ』

「わあ、それは良かったです!」


 思わず拍手をしながら飛び上がってしまった。


『勇気が必要だったけど、目の傷のことも打ち明けた。
 彼女は受け入れてくれたよ』


 ケビンの声から、安堵の気持ちが伝わってくる。


『アリサ……ありがとう』


 その感謝の言葉に、アリサは思わず涙ぐんでしまった。


「いえ、トラウマやコンプレックスを乗り越えたのは、ケビンさんの心の強さです。
 私は後押ししただけですよ」

『ふふ、君らしいな』


 そう言うと、一言二言交わし、また明日と挨拶しコールを切った。


(良かった……ケビンさんが本音を出せる相手が見つかったのね。
 壁を乗り越えた人とは、きっとうまくいく……!)


 恋に悩んでいたケビンがマッチングアプリで相手を見つけ、安心するアリサ。

 エグゼクティブパーティーでは女性に話しかけられず、壁と同化していたり、相席居酒屋ではビールをジョッキで飲みセクハラ発言をしていた人と同人物とは思えない。

 ケビンの恋がどうか結ばれるように、アリサは強く祈った。



 そんな穏やかな時間を打ち砕く、うるさい足音が店の前の通りに響いていた。

 開いたままだったマップ上、緑のハートがギルドの前へと向かってきているのが確認できた。

 嫌な予感がする。

 慌ただしい足音と共に、乱暴に扉が開かれた。 


「おい、マップに出ているプロフィールの写真と全然違う顔の女が来たぞ! 
 年齢も聞いたら二十も上だった! 
 偽証罪として罰せよ、運営!」


 嫌な予感ばかり当たるものだ。

 アリサはため息をつきマップを閉じる。

 どうやら、前世でもよくあった、盛りまくった詐欺写真に騙されたらしいルビオが、怒り心頭で相談所へと乗り込んできた。


「あまりにしつこいから会ってやろうと思ったら、このざまだ。
 いい加減お前は私の運命の相手を見つけよ!」

「あー! またお前って言いましたね! 
 傷つきました、直してください!」



 運営のせいだと食ってかかるルビオに、負けじと言い返すアリサ。

 ファッション誌の表紙を飾れるほどの整った顔立ちの王子は、相変わらず神経質そうに眉間に皺を寄せている。


(最難関、ルビオ王子の成婚が、最後の課題ね……!)


 ああ、まだこのこじらせ王子が残っていた、とアリサはため息をついた。
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