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第11章 成婚?

情熱的なアプローチ

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そこから毎日、ルビオの猛アプローチが始まった。

 業務時間が終わった夕方に、彼は仕事場の扉をノックして現れる。


「そなたに会えないと夜が長く感じる。
 そうだ、明日は城で舞踏会があるのだが一緒に行かないか? 
 私の愛しの人だと皆に紹介したい」


「ええと、明日も仕事なので……」


「ふむ、その困った顔も可愛らしいぞ。
 そうか、それは仕方がないな。
 私は他の女とは踊らんから安心してくれ」


 そう言って、アリサに一本の薔薇を渡しながら一途宣言をするルビオ。


 また次の日には、


「そなたの笑顔はまるで天使のようだな。
 本物の天使や女神が嫉妬するだろう」

「ルビオ王子、今お仕事中ですので……」


 颯爽と現れ、カウンターに座り頬杖をつきながら仕事中のアリサをただ見つめている。


「今日の夜は会議があるので迎えに来られない。
 なので昼間にそなたの姿を目に焼き付けておこうと思ってな」

「昨日も会ったじゃないですか」

「一日たりとも、同じ日などない。
 今日のそなたも愛らしいぞ」


 そう言って胸元から薔薇を取り出し、カウンター越しにアリサに手渡す。


「恋愛スイッチの入った王子、情熱的ですね」

 今日は会議のため側近と共に同行したので、隣で二人の様子を見ながら一番驚いているのは、付き合いの長いクレイだ。

 以前アリサのセミナーの際に言われた、恋愛スイッチが入っているルビオの猪突猛進なアプローチに、驚いているようだ。


「……これほど想ってくれる人はそういないだろうし、君も応えてあげたらどうだ?」


 書類を持ったケビンが、カウンターの中ですれ違いざまにアリサに耳打ちする。

 気持ちは応援しているが、こう毎日来られてはさすがに業務の妨げだ、と言いたいようだ。


「おいケビン、私の愛しの天使と距離が近いぞ。
 ただの仕事仲間だろ、距離を取れ」

「はいはい、申し訳ございません王子」

「それともなんだ、アリサに気があるのか貴様。受けて立つぞ」

「いや俺、彼女いるんで……」


 不機嫌なルビオに、濡れ衣だとケビンが肩をすくめる。


(ストーカーと紙一重なしつこさで、他の会員の女性にしていたら注意しなきゃなんだけど……)


 アリサは薔薇を胸ポケットに差し、優雅に手を振るルビオに会釈した。

 自信のない自分にここまで想いを伝えてくれる人など、今までいなかった。

 アリサはまんざらでもない、と思いながらも、いやきっとすぐに飽きるはずだ、と自分を納得させるのだった。
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