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第7章 忘れられぬ結婚式を

63、皇太子の結婚式

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そうして、テイラー王国の皇太子、ユリウス・テイラーとリリア・ルーベルト令嬢の結婚式は開かれた。

空は快晴。天候にも恵まれ、国を挙げての祝福ムードに包まれていた。


 城下町の公園には食べ物の出店から良い香りがし、花壇は色とりどりの花で飾られている。

 子供達は風船を持ちながら駆け回り、大人達も往来で酒を飲んだり着飾った姿で談笑していた。

 挙式が開かれるテイラー城の広間には、王国中の貴族が集まっている。

 華やかなお祝いムードで盛り上がり、ドレスアップした貴婦人や紳士達は片手にシャンパンを持ち、シャンデリアが輝く中、会話を楽しんでいる。

 舞踏会や社交界の集まりでもよく見る光景だ。お互いの近況報告もしているが、中には家で扱っている商品の売り込みや投資の誘いをしている者もいる。

 適齢期の息子や娘を婚約者にしないかと売り込んでいる親もいた。

 華やかなだけでなく、陰謀も渦巻くのが貴族界の常識である。

 そして広間は、扇子を持つ気位の高い夫人と、口髭を蓄えた紳士の姿もあった。


 ライネル公爵家当主――クロードの両親である。



*   *      *


 
「すっごい可愛いです! お似合いですよ、リリア様」


 挙式の前、控え室にて。

 純白のドレスを着たリリアを前に、レベッカは感激して拍手をした。

 何日もかけてリリアの理想のドレスを聞き、彼女の体型や肌質に合う物を考え、皇室御用達の由緒正しき服飾店から買い付けたものに、レベッカがさらにリメイクし刺繍を施した。

 世界で一つだけの、リリアのためのドレスだ。


「うふふ、ありがとうございます、レベッカ様」


 小柄で華奢な彼女には、あまり胸元が空いていないシルクドレスを。

 しかし綺麗な鎖骨は見せ、そこにダイヤのネックレスをつけ輝かせる。

 肩から腕にかけては細かいレースの刺繍がされた袖がついており、肌見せはせず上品だが、腰から足元には大きくフリルがついていて、リリアの可愛らしさを強調させた。

 胸元と裾には、花の刺繍とスパンコールの飾りをつけて、キラキラと輝くように仕上げた。


「靴はまた転ばぬように、ヒールの低い白のパンプスにしました」


 レベッカがそう言うと、以前廊下で転んでしまい、代わりの靴をもらったことから仲の良い関係が始まったのを思い出したのか、リリアは恥ずかしそうに頷く。

 ピンクのセミロングの髪はウェーブをつけ、三つ編みのハーフアップにする。

 薔薇の髪飾りをつけ、華やかで愛らしい印象付ける。

 メイクもして欲しいと頼まれたので、ファンデーションを塗り、ノーズシャドウで影をつけ、アイシャドウは金のゴージャスな色にした。

 今日は大勢の客が遠くから彼女達の姿を見るのだから、特別目鼻立ちを華やかにするように努める。

 そして、頬はブルベ夏の彼女に似合う、ペールピンクにし、ぽんぽんと叩いていく。

 口紅はコーラルピンクで、ぷっくりと厚みを持たせる。

 レベッカが手際よく施し、手鏡を渡すと、リリアは驚いたように瞬きをしていた。

 どうやら、主賓の新婦に満足いただけたようだ。


 その時、コンコン、と控え室の扉が鳴った。


「やあ、準備できたかい? 入っていいかな」


 返事をすると、新郎のユリウスが顔を覗かせてきた。

 彼も金髪のサイドを固め、晴れの日に相応しい白いタキシードを着ている。

 中のベストは彼の髪の色と合わせ金だが、派手にならず着こなせてしまうのがさすがである。


「おお、世界で一番可愛いよ、リリア!」


 白い手袋をしたユリウスが、着飾った最愛の妻を見て嬉しかったのか、その手を握る。


「ゆ、ユリウス様……ありがとうございます」


 レースのウェディングドレスを纏ったリリアは、照れながらユリウスを見上げた。

 初々しさの残る二人の触れ合いを微笑ましく思いながら、レベッカは化粧道具をしまう。


「レベッカも、準備に付き合ってくれてありがとう」

「ふふ、お二人の大切な結婚式のお役に立てて、光栄ですわ」


 ユリウスから感謝の言葉に、恐れ多いと、レベッカは会釈をする。

 そんな彼女の謙虚さを見て、ユリウスは笑う。


「クロードは本当、いいパートナーを見つけたよな。
 どんなことがあっても手放しちゃダメだぞ、って俺からも言っておいたから」


 白いタキシードを着たユリウスは満面の笑みで、親友の背中の後押しをしたとレベッカに伝えてきた。


『何度も何度も、君と結ばれるために、俺は人生をやり直していたんだ』


 苦しみながら、結ばれるために何度もレベッカを求めていた、クロードの声が耳の奥で聞こえた気がした。


「……ありがとうございます。
 私もユリウス皇子とリリア様を見習って、クロード様に愛想尽かされないよう努めますわ」


「ああ。あいつ、誤解されやすいし、すぐに悩みを溜め込むけど、本当にいい奴だから。支えてやってくれ」


 ユリウスの言葉に、レベッカは強く頷く。

 不器用な銀髪の冷徹公爵は、自分の幸せを一番に考えてくれている、優しい人なのだと、身に染みてわかっていたから。
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