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第7章 忘れられぬ結婚式を
65、親心が伝わる
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「先日から、レベッカ様の夢である服飾店を二人で経営しております。
売り上げは上々で、今後も続けていきたいと思っております」
「ああ、聞いたよ。すごい人気みたいだね。レベッカは昔からおませでお洒落な子だったからなぁ」
父上は嬉しそうにレベッカの肩を叩き、ニコニコと笑っている。自分の娘の店が世間の評判がよく、鼻が高いとでも言うように。
クロードは緊張しながら、決意した言葉を伝える。
「……お父上さえよろしければ、レベッカ様と婚約させていただき、私がエイブラム家の家業のお手伝いをさせていただければと思います」
父上は、ポカンと口を開け、急なことに驚いたようだった。
時間にすれば数秒だが、その無言の時間がとても長く感じる。
「お願いします、お父様。エイブラム家の存続と、私の店という夢と、両方叶えたいのです」
レベッカも自分の想いを切実に告げ、頭を下げる。
クロードとレベッカの顔を見比べ、口を閉じていたが、エイブラム侯爵は目尻の皺をくしゃくしゃにして寄せ、笑った。
「もちろんだよ! こんな老いぼれしかいない屋敷の仕事なんて、退屈かもしれないけれど。二人がそれでいいなら」
父上の言葉に、クロードとレベッカは表情を明るくさせ、目を合わせて笑い合った。
その様子を見て、侯爵も感慨深そうに頷く。
「そうか、よかったなぁレベッカ、うんうん」
レベッカの肩を優しく叩き、クロードに語りかける。
「私の妻、この子の母親は病弱で、この子を産んですぐに死んでしまってね……。
男の跡取りがいないため、女なのに家業を継ぐ重圧で、幼い頃から苦労をかけてしまった。
父親として、申し訳ないことをしたと思っているんだ」
目尻に刻まれた皺は、最愛の妻を亡くし、愛娘に苦労をかけまいと長年努力した侯爵の苦労を現していた。
父一人子一人で学園まで通わせるよう教育してくれた、父の想いを感じる。
「気が強いと誤解されがちだが、責任感が強いだけの、とても優しい子なんだよ」
父親は愛おしそうに、悪役令嬢レベッカの手を握る。
愛に溢れた、温かい言葉が胸を打ち、自然とレベッカの目に涙が浮かぶ。
「存じ上げております」
クロードは、誰よりも身近にそれを知っていると、強く頷いた。
「きっとお父上のお優しさを継いだのでしょう。
彼女の強い意志と気遣いができる優しさには、私もいつも助けられています」
お世辞ではないというかのように、クロードの言葉は二人の心に響く。
「うんうん、そうかそうか。ありがとう」
侯爵は、安心したように何度も何度もクロードに礼を言った。
「幸せになるんだよレベッカ。父さんの願いはそれだけだ」
「……はい……っ!」
誰よりも娘の幸せを願っていると、父からの想いが伝わってきた。
エイブラム侯爵と和やかに話したあと、名残惜しいが他の方々にも挨拶をしなければいけないから、と恰幅の良い体を揺らし去っていった。
その姿を見送り、クロードはふう、と息を吐く。
「素敵なお父上だな。これからも君の味方になってくれるだろう」
「そうですわね、よかった」
クロードとも気が合いそうで安心した。
婚約の挨拶をして緊張したらしきクロードが襟元を緩めながら、近くのテーブルに置いてあったグラスの水を飲む。
もうすぐユリウスとリリアの挙式が始まるということで、大広間は祝福ムードで活気付いている。
ドレスを着た令嬢の中には、学園に通うクラスメイトの姿もちらほらいて、目が合うとお互い小さく挨拶をした。
「こんなに沢山の方が集まるなんて、凄いですね」
「ああ、皇太子の結婚だからな。国を挙げての祝い事だ」
そう言ってグラスの水を飲んでいたクロードの視線が、ある一点で止まった。
表情が固まり、みるみるうちに青ざめていく。
どうしたのかとレベッカがその視線の先を追うと、十数メートル先に、顎ひげの紳士とドレスを着た夫人が立っていた。
「……父上、母上」
クロードは、小さな声でうわごとのように呟く。
彼の人生に大きな影を落とした、その原因の二人が、綺麗に着飾って笑い合っていた。
売り上げは上々で、今後も続けていきたいと思っております」
「ああ、聞いたよ。すごい人気みたいだね。レベッカは昔からおませでお洒落な子だったからなぁ」
父上は嬉しそうにレベッカの肩を叩き、ニコニコと笑っている。自分の娘の店が世間の評判がよく、鼻が高いとでも言うように。
クロードは緊張しながら、決意した言葉を伝える。
「……お父上さえよろしければ、レベッカ様と婚約させていただき、私がエイブラム家の家業のお手伝いをさせていただければと思います」
父上は、ポカンと口を開け、急なことに驚いたようだった。
時間にすれば数秒だが、その無言の時間がとても長く感じる。
「お願いします、お父様。エイブラム家の存続と、私の店という夢と、両方叶えたいのです」
レベッカも自分の想いを切実に告げ、頭を下げる。
クロードとレベッカの顔を見比べ、口を閉じていたが、エイブラム侯爵は目尻の皺をくしゃくしゃにして寄せ、笑った。
「もちろんだよ! こんな老いぼれしかいない屋敷の仕事なんて、退屈かもしれないけれど。二人がそれでいいなら」
父上の言葉に、クロードとレベッカは表情を明るくさせ、目を合わせて笑い合った。
その様子を見て、侯爵も感慨深そうに頷く。
「そうか、よかったなぁレベッカ、うんうん」
レベッカの肩を優しく叩き、クロードに語りかける。
「私の妻、この子の母親は病弱で、この子を産んですぐに死んでしまってね……。
男の跡取りがいないため、女なのに家業を継ぐ重圧で、幼い頃から苦労をかけてしまった。
父親として、申し訳ないことをしたと思っているんだ」
目尻に刻まれた皺は、最愛の妻を亡くし、愛娘に苦労をかけまいと長年努力した侯爵の苦労を現していた。
父一人子一人で学園まで通わせるよう教育してくれた、父の想いを感じる。
「気が強いと誤解されがちだが、責任感が強いだけの、とても優しい子なんだよ」
父親は愛おしそうに、悪役令嬢レベッカの手を握る。
愛に溢れた、温かい言葉が胸を打ち、自然とレベッカの目に涙が浮かぶ。
「存じ上げております」
クロードは、誰よりも身近にそれを知っていると、強く頷いた。
「きっとお父上のお優しさを継いだのでしょう。
彼女の強い意志と気遣いができる優しさには、私もいつも助けられています」
お世辞ではないというかのように、クロードの言葉は二人の心に響く。
「うんうん、そうかそうか。ありがとう」
侯爵は、安心したように何度も何度もクロードに礼を言った。
「幸せになるんだよレベッカ。父さんの願いはそれだけだ」
「……はい……っ!」
誰よりも娘の幸せを願っていると、父からの想いが伝わってきた。
エイブラム侯爵と和やかに話したあと、名残惜しいが他の方々にも挨拶をしなければいけないから、と恰幅の良い体を揺らし去っていった。
その姿を見送り、クロードはふう、と息を吐く。
「素敵なお父上だな。これからも君の味方になってくれるだろう」
「そうですわね、よかった」
クロードとも気が合いそうで安心した。
婚約の挨拶をして緊張したらしきクロードが襟元を緩めながら、近くのテーブルに置いてあったグラスの水を飲む。
もうすぐユリウスとリリアの挙式が始まるということで、大広間は祝福ムードで活気付いている。
ドレスを着た令嬢の中には、学園に通うクラスメイトの姿もちらほらいて、目が合うとお互い小さく挨拶をした。
「こんなに沢山の方が集まるなんて、凄いですね」
「ああ、皇太子の結婚だからな。国を挙げての祝い事だ」
そう言ってグラスの水を飲んでいたクロードの視線が、ある一点で止まった。
表情が固まり、みるみるうちに青ざめていく。
どうしたのかとレベッカがその視線の先を追うと、十数メートル先に、顎ひげの紳士とドレスを着た夫人が立っていた。
「……父上、母上」
クロードは、小さな声でうわごとのように呟く。
彼の人生に大きな影を落とした、その原因の二人が、綺麗に着飾って笑い合っていた。
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