65 / 72
第7章 忘れられぬ結婚式を
65、親心が伝わる
しおりを挟む
「先日から、レベッカ様の夢である服飾店を二人で経営しております。
売り上げは上々で、今後も続けていきたいと思っております」
「ああ、聞いたよ。すごい人気みたいだね。レベッカは昔からおませでお洒落な子だったからなぁ」
父上は嬉しそうにレベッカの肩を叩き、ニコニコと笑っている。自分の娘の店が世間の評判がよく、鼻が高いとでも言うように。
クロードは緊張しながら、決意した言葉を伝える。
「……お父上さえよろしければ、レベッカ様と婚約させていただき、私がエイブラム家の家業のお手伝いをさせていただければと思います」
父上は、ポカンと口を開け、急なことに驚いたようだった。
時間にすれば数秒だが、その無言の時間がとても長く感じる。
「お願いします、お父様。エイブラム家の存続と、私の店という夢と、両方叶えたいのです」
レベッカも自分の想いを切実に告げ、頭を下げる。
クロードとレベッカの顔を見比べ、口を閉じていたが、エイブラム侯爵は目尻の皺をくしゃくしゃにして寄せ、笑った。
「もちろんだよ! こんな老いぼれしかいない屋敷の仕事なんて、退屈かもしれないけれど。二人がそれでいいなら」
父上の言葉に、クロードとレベッカは表情を明るくさせ、目を合わせて笑い合った。
その様子を見て、侯爵も感慨深そうに頷く。
「そうか、よかったなぁレベッカ、うんうん」
レベッカの肩を優しく叩き、クロードに語りかける。
「私の妻、この子の母親は病弱で、この子を産んですぐに死んでしまってね……。
男の跡取りがいないため、女なのに家業を継ぐ重圧で、幼い頃から苦労をかけてしまった。
父親として、申し訳ないことをしたと思っているんだ」
目尻に刻まれた皺は、最愛の妻を亡くし、愛娘に苦労をかけまいと長年努力した侯爵の苦労を現していた。
父一人子一人で学園まで通わせるよう教育してくれた、父の想いを感じる。
「気が強いと誤解されがちだが、責任感が強いだけの、とても優しい子なんだよ」
父親は愛おしそうに、悪役令嬢レベッカの手を握る。
愛に溢れた、温かい言葉が胸を打ち、自然とレベッカの目に涙が浮かぶ。
「存じ上げております」
クロードは、誰よりも身近にそれを知っていると、強く頷いた。
「きっとお父上のお優しさを継いだのでしょう。
彼女の強い意志と気遣いができる優しさには、私もいつも助けられています」
お世辞ではないというかのように、クロードの言葉は二人の心に響く。
「うんうん、そうかそうか。ありがとう」
侯爵は、安心したように何度も何度もクロードに礼を言った。
「幸せになるんだよレベッカ。父さんの願いはそれだけだ」
「……はい……っ!」
誰よりも娘の幸せを願っていると、父からの想いが伝わってきた。
エイブラム侯爵と和やかに話したあと、名残惜しいが他の方々にも挨拶をしなければいけないから、と恰幅の良い体を揺らし去っていった。
その姿を見送り、クロードはふう、と息を吐く。
「素敵なお父上だな。これからも君の味方になってくれるだろう」
「そうですわね、よかった」
クロードとも気が合いそうで安心した。
婚約の挨拶をして緊張したらしきクロードが襟元を緩めながら、近くのテーブルに置いてあったグラスの水を飲む。
もうすぐユリウスとリリアの挙式が始まるということで、大広間は祝福ムードで活気付いている。
ドレスを着た令嬢の中には、学園に通うクラスメイトの姿もちらほらいて、目が合うとお互い小さく挨拶をした。
「こんなに沢山の方が集まるなんて、凄いですね」
「ああ、皇太子の結婚だからな。国を挙げての祝い事だ」
そう言ってグラスの水を飲んでいたクロードの視線が、ある一点で止まった。
表情が固まり、みるみるうちに青ざめていく。
どうしたのかとレベッカがその視線の先を追うと、十数メートル先に、顎ひげの紳士とドレスを着た夫人が立っていた。
「……父上、母上」
クロードは、小さな声でうわごとのように呟く。
彼の人生に大きな影を落とした、その原因の二人が、綺麗に着飾って笑い合っていた。
売り上げは上々で、今後も続けていきたいと思っております」
「ああ、聞いたよ。すごい人気みたいだね。レベッカは昔からおませでお洒落な子だったからなぁ」
父上は嬉しそうにレベッカの肩を叩き、ニコニコと笑っている。自分の娘の店が世間の評判がよく、鼻が高いとでも言うように。
クロードは緊張しながら、決意した言葉を伝える。
「……お父上さえよろしければ、レベッカ様と婚約させていただき、私がエイブラム家の家業のお手伝いをさせていただければと思います」
父上は、ポカンと口を開け、急なことに驚いたようだった。
時間にすれば数秒だが、その無言の時間がとても長く感じる。
「お願いします、お父様。エイブラム家の存続と、私の店という夢と、両方叶えたいのです」
レベッカも自分の想いを切実に告げ、頭を下げる。
クロードとレベッカの顔を見比べ、口を閉じていたが、エイブラム侯爵は目尻の皺をくしゃくしゃにして寄せ、笑った。
「もちろんだよ! こんな老いぼれしかいない屋敷の仕事なんて、退屈かもしれないけれど。二人がそれでいいなら」
父上の言葉に、クロードとレベッカは表情を明るくさせ、目を合わせて笑い合った。
その様子を見て、侯爵も感慨深そうに頷く。
「そうか、よかったなぁレベッカ、うんうん」
レベッカの肩を優しく叩き、クロードに語りかける。
「私の妻、この子の母親は病弱で、この子を産んですぐに死んでしまってね……。
男の跡取りがいないため、女なのに家業を継ぐ重圧で、幼い頃から苦労をかけてしまった。
父親として、申し訳ないことをしたと思っているんだ」
目尻に刻まれた皺は、最愛の妻を亡くし、愛娘に苦労をかけまいと長年努力した侯爵の苦労を現していた。
父一人子一人で学園まで通わせるよう教育してくれた、父の想いを感じる。
「気が強いと誤解されがちだが、責任感が強いだけの、とても優しい子なんだよ」
父親は愛おしそうに、悪役令嬢レベッカの手を握る。
愛に溢れた、温かい言葉が胸を打ち、自然とレベッカの目に涙が浮かぶ。
「存じ上げております」
クロードは、誰よりも身近にそれを知っていると、強く頷いた。
「きっとお父上のお優しさを継いだのでしょう。
彼女の強い意志と気遣いができる優しさには、私もいつも助けられています」
お世辞ではないというかのように、クロードの言葉は二人の心に響く。
「うんうん、そうかそうか。ありがとう」
侯爵は、安心したように何度も何度もクロードに礼を言った。
「幸せになるんだよレベッカ。父さんの願いはそれだけだ」
「……はい……っ!」
誰よりも娘の幸せを願っていると、父からの想いが伝わってきた。
エイブラム侯爵と和やかに話したあと、名残惜しいが他の方々にも挨拶をしなければいけないから、と恰幅の良い体を揺らし去っていった。
その姿を見送り、クロードはふう、と息を吐く。
「素敵なお父上だな。これからも君の味方になってくれるだろう」
「そうですわね、よかった」
クロードとも気が合いそうで安心した。
婚約の挨拶をして緊張したらしきクロードが襟元を緩めながら、近くのテーブルに置いてあったグラスの水を飲む。
もうすぐユリウスとリリアの挙式が始まるということで、大広間は祝福ムードで活気付いている。
ドレスを着た令嬢の中には、学園に通うクラスメイトの姿もちらほらいて、目が合うとお互い小さく挨拶をした。
「こんなに沢山の方が集まるなんて、凄いですね」
「ああ、皇太子の結婚だからな。国を挙げての祝い事だ」
そう言ってグラスの水を飲んでいたクロードの視線が、ある一点で止まった。
表情が固まり、みるみるうちに青ざめていく。
どうしたのかとレベッカがその視線の先を追うと、十数メートル先に、顎ひげの紳士とドレスを着た夫人が立っていた。
「……父上、母上」
クロードは、小さな声でうわごとのように呟く。
彼の人生に大きな影を落とした、その原因の二人が、綺麗に着飾って笑い合っていた。
5
あなたにおすすめの小説
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。
困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。
さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず……
────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの?
────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……?
などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。
そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……?
ついには、主人公を溺愛するように!
────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる