疼痛溺愛ロジック~嗜虐的Dom×被虐的Subの恋愛法則~

水沢緋衣名

文字の大きさ
7 / 28
Ⅱ. 

Ⅱ 第三話

しおりを挟む
 二人でフェンスを乗り越えて屋上の縁に立つ。
 日向がくれたコマンドなのに、怖くて怖くて仕方がない。
 けれどこの時に俺の隣に立った日向は、遠くを見ずに俺の事を見つめてくれた。
 
 
 前に言った死ぬまで一緒にいて欲しいなんて言葉を後悔しながら、日向と二人で見つめ合う。
 どうして俺は日向の闇に、気付いてあげられなかったんだろうか。
 どうして日向が抱えていたものを、ほんの少し背負ってあげられなかったんだろうか。
 自分の中に湧いて出る自分を責める言葉を噛み締めれば、日向が俺の唇にキスをした。
 
 
「ごめんね………」
 
 
 日向が俺にそう囁いて、頬に涙を一筋流す。この時に俺は日向の事をガラス細工みたいな人だと感じた。
 こんな脆くて壊れてしまいそうな人を、独りぼっちにしておけない。
 
 
「………愛してるよ」
 
 
 俺がそう囁けば、日向は感極まった目をして笑う。
 きっと俺みたいな人間なんて生きていたところで、何にも意味なんてない。だから今、日向と一緒に逝ってしまっても構わない。
 
 
「俺も、一希の事愛してるよ………!!!」
 
 
 日向としっかり手を繋ぎ、団地の縁からジャンプする。物凄い勢いで風を切りながらアスファルト目掛けて落ちてゆく。
 不思議と痛みなんて感じなかった。それどころかこの時に俺は、快楽さえも感じてしまっていたのだ。
 物凄い衝撃だけを感じてから、目の前が真っ暗になる。
 そして一瞬真っ白になったかと思えば、見知らぬ真っ白な天井が俺の視界に飛び込んできた。
 体中に繋がれた細い管のようなものと、均等に音を響かせている機械。
 俺の周りを囲んでいるかの様に、カーテンが天井に張り付けられていた。
 それに消毒液のツンとするような、嫌な匂いが漂っている。
 一体此処は何処なんだろう。日向はどうしたんだろう。
 そう思って起き上がろうとした瞬間、全身に激痛が走った。
 
 
「………っあ!!!!いってぇ!!!!!!」
 
 
 思わず大声を出した瞬間、ベッドを囲んでいるカーテンが開く。
 それと同時にナース服を着た女性と、白衣を着た男性が飛び込んできた。
 
 
「大丈夫ですか!!お名前言えますか!!!」
 
 
 この時に俺はこの場所が病院である事と、自分が死んでいなかった事を理解する。
 俺の頭の中は、日向で一気に埋め尽くされた。
 日向は何処にいるの?日向は何をしているの?日向は大丈夫なの?
 体中から一気に血の気が引いてゆくのを感じた。
 
 
「名前は、春日一希です……日向は、日向はどこですか……?」
 
 
 俺がそう囁いた瞬間に、その場の空気が凍り付く。その時に俺は日向が死んだことだけを確信した。
 頭が真っ白になった瞬間に、息苦しさに襲われる。
 ひき付けを起こして気を失わせたその時に、人生で生まれて初めてのSubドロップを経験した。
 この世にもう日向が居ない。これだけで俺の生きる意味はなくなったも同然だった。
 
 
 後から解った事だが、日向は俺を守るようにして死んでいたそうだ。俺を抱きかかえるかのように、日向は死んでいた。
 俺が目を覚ましたのは日向が死んでから一週間後。俺は日向の葬式にさえ出れないままで、白い病室に閉じこもっていた。
 この日以来俺は、死に憑りつかれるようになったのだ。
 
 
 死ぬよりも辛い事なんて、この世界中に沢山沢山落ちている。
 日向の死によって俺はそれを体感してしまった。
 それに死ぬ直前に感じてしまったおかしな快楽も、身体に染み込んでしまったのだ。
 このことを思い出してしまえば、パニックに陥ってしまう。だからこそ、それを抑える為に体中を傷つけた。
 生きているのが辛すぎて日向の所に行くために努力しても、一人で上手に逝くことが出来ない。
 そのうち自殺をすることが無理なんだったなら、誰かに殺してもらえれば丁度いいと思い始めた。
 だから俺は俺の事を、うっかり殺してくれるような人を探していた。
 
 
 長い間俺は死に狂ってしまっていたのだ。
 
 
***
 
 
 ゆっくりと目を開けば、遊歩の家の天井が視界に入る。それと同時に遊歩の声がした。
 
 
「おー、生きてた生きてた。死んだかと思ってた」
 
 
 ゆっくりと身体を起こせば、そこは遊歩の家のベッドの上だ。
 目の前には缶ビールを片手にした遊歩が立っていた。
 ほんの少しだけ不機嫌そうにしながら、バスローブ姿の遊歩がビールを一口飲む。
 この時にぼんやりとした頭の中で、Subドロップに陥っていた事を理解した。
 あの遊歩が俺をベッドの上に寝かせていてくれたことに驚きつつ、ズキズキ痛む身体を起こす。
 
 
「俺のことわざわざ遊歩が寝かせてくれたの?有難う……」
 
 
 俺がそう囁いた瞬間に遊歩が首を傾げる。そしてトンでもない一言を口にした。
 
 
「いや……?一希気絶したし、もうオナホにでも使おうかと思ってこっち運んだ……?」
「………最低だな!」
 
 
 思わず声を荒げて呆れれば、遊歩がほんの少しだけ何かを言いづらそうにする。
 それから頭を掻いて小さく囁いた。
 
 
「あのさぁ……日向って誰?」
 
 
 遊歩がそう言いながら俺を睨みつけた瞬間、思わず凍り付く。
 なんで遊歩が日向の名前を知ったのかと目を逸らせば、遊歩が更に言葉を続けた。
 
 
「ずぅっと言ってた。譫言で。そいつのこと」
 
 
 グレアの雰囲気を醸し出しながら遊歩が俺に歩み寄り、俺の上に覆いかぶさるかの様に乗り上げる。
 遊歩の冷たい視線が怖い。とてもとても恐ろしい。
 そして遊歩はとても不機嫌そうに命令コマンドを口にした。
 
 
Speakとっとと話せ
 
 
 全身毛が逆立つかのような感覚と、Subドロップにまた陥る寸前の恐怖感。
 この命令コマンドは許可なんて出していない、遊歩の身勝手な命令コマンドだ。
 思わず涙を流した瞬間に俺の唇から言葉が漏れた。
 
 
「………心中失敗した……死んだ恋人パートナー………。
一緒に死のうって命令されたのに、出来なかった………!!!」
 
 
 自分の声が涙声なのを感じながら、ズキズキ痛む胸を抑える。
 苦しい。辛い。このまま自分が決壊してしまいそうだ。
 こんな形で話なんてしたくなかったのに。こんな風に知られたくなんてなかったのに。
 そう感じた瞬間、遊歩が俺の身体を抱き寄せた。
 
 
「……ごめん」
 
 
 遊歩が謝るなんて、明日は雨でも降るんじゃないだろうか。
 思わず自分がSubドロップに陥っていたのも一瞬で拭い去り、遊歩の胸の中に顔を埋める。
 すると遊歩が俺の耳元で甘い声色で囁いた。
 
 
「……お前はね、今は俺のだから。俺がお前の命預かってるんだから、ね」
 
 
 抱きしめられた腕から途轍もなく包容力を感じた瞬間に、遊歩もDomなんだと再認識する。
 ゆっくりと顔を見上げれば、遊歩の綺麗な顔が近付いてきた。
 遊歩の柔らかな唇が俺の唇に重なり、思わず静かに目を閉じる。
 すると遊歩は俺の頭を抱え込む様に抑えて、更に深く口付けをした。
 
 
 遊歩の掌の温かさを感じながら、身体を完全に遊歩に預ける。
 まるで恋人同士がするようなキスを交わしたその後で、遊歩が俺に囁いた。
 
 
「もしもお前が先に死んだらさぁ、そいつのトコ行っちゃうよね?」
 
 
 絡ませた舌をゆっくりと離せば、深く絡まったキスの名残の唾液が細い糸を引く。
 遊歩が吐き出した意外な言葉に固まったままでいれば、遊歩が更に言葉を続けた。
 
 
「………やっぱさ、一緒に住も!!俺自分の玩具、あの世に取られるのやだわ!!!」
「は!?ちょっと待って!?なんで!?」
 
 
 遊歩の言葉に呆気に取られた瞬間に、俺の身体は乱暴にベッドに倒される。
 何もかも余りに早い展開で進んでいっているような気がした。
 遊歩が俺の首筋に噛み付きながら、傷痕をくっきりと残してゆく。
 
 
「……お前以上に楽しい玩具なんて、もう見付からないと思ってるから。
…………何処にもいかないで?」
 
 
 遊歩がそう言いながら、着ていたバスローブを脱ぎ捨てる。
 Subドロップの状態から一気にSubスペースに切り替わった瞬間に、遊歩がケラケラ笑いだす。
 
 
「………他の男の名前呼んでる一希なんて犯せなかったからさぁ、我慢した。ケツ借りんね?
次はちゃんと俺の名前呼んでー?」
 
 
 遊歩はそう言いながら、俺の中にまた入り込む。
 俺は遊歩の下で組敷かれながら、情けない声色で呟いた。
 
 
「…………っ、はぁい!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~

Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい 俺だけに命令して欲しい 俺の全てをあげるから 俺以外を見ないで欲しい 俺だけを愛して……… Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、 でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ 俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です! Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。 こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!

待てって言われたから…

ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

不透明な君と。

pAp1Ko
BL
Dom/Subユニバースのお話。 Dom(美人、細い、色素薄め、一人称:僕、168cm) 柚岡璃華(ユズオカ リカ) × Sub(細マッチョ、眼鏡、口悪い、一人称:俺、180cm) 暈來希(ヒカサ ライキ) Subと診断されたがランクが高すぎて誰のcommandも効かず、周りからはNeutralまたは見た目からDomだと思われていた暈來希。 小柄で美人な容姿、色素の薄い外見からSubだと思われやすい高ランクのDom、柚岡璃華。 この二人が出会いパートナーになるまでのお話。 完結済み、5日間に分けて投稿。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

十年越しの恋心、叶えたのは毒でした。

碓氷雅
BL
支配や管理で愛情を伝えんとするDomとそれに応えることで愛情を伝えんとするSub。 そんなDom/Subユニバースの世界。 十年、忘れることはなかった初恋の相手を、とある会場で見かける。 「ワインのすべてに青酸カリを入れた!」その一言でパニックに陥った中のことだった。その相手はワイングラスを傾けていて――?! ▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀▷◀ 第二章を書き終わりましたので小出しにしていこうと思います。

処理中です...