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Ⅳ.

Ⅳ 第一話

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Stayそのまま動かないで
Shush静かにしていて
 
 
 遊歩の命令に従えば、情け容赦ない拳が俺の顔の横に入る。
 一気に身体を吹っ飛ばされた瞬間に、遊歩が俺の顔を見下ろしながら囁いた。
 
 
「ふふっ、ほんと可愛い………。
俺、一希がこんな風に情けない表情浮かべてるとこ、見てるの本当に好き……」
 
 
 恍惚の表情を浮かべた遊歩が、嬉しそうに俺の髪を掴む。
 そしてそのまま俺の腹部目掛けて、強い蹴りを入れてきた。
 鳩尾目掛けて入った衝撃に、身体を動かしたい衝動に襲われる。
 けれど遊歩の出した命令コマンドを、破る訳にはいかなかった。
 
 
「え、すっごい。今日めちゃくちゃ頑張ってない?偉い偉い!!」
 
 
 遊歩がそう囁きながら、何時もの下衆な笑みを浮かべる。
 この男が本当に機嫌がいい時は、大体この笑顔で笑う事に最近気付いた。
 
 
Speak話していいよ
Goodよくできました
 
 
 遊歩からの命令コマンドを受け取りながら、満たされた気持ちで微笑む。
 最初に逢った時の遊歩のイメージは、もっと褒めないイメージがあった。
 けれど最近の遊歩は俺の事を良く褒めるし、俺の望みもちゃんと叶えてくれる。
 
 
「……遊歩って、めちゃくちゃ嬉しい時の笑顔、スゲー下衆だよね」
 
 
 今まで思っていた事を遊歩目掛けて投げつければ、遊歩がほんの少しだけ上の空になる。
 それからほんの少しだけ話しづらそうな雰囲気を漂わせ、小さな声で囁いた。
 
 
「あー……下衆じゃないけど、気持ち悪いってのはよく言われてた、かな……。
貴方の笑顔がもうトラウマだとか……」
 
 
 気持ち悪い。想像していたよりひどい事を言われていたことに、思わず小さく噴き出す。
 すると遊歩はほんの少しだけムッとして、ムキになったかの様に話し出した。
 
 
「だからちゃんと優しい笑顔とかする練習してるし!!ほら、見てよこのイノセントな笑顔!!」
 
 
 遊歩はそう言いながら、余所行きの爽やかな笑みを浮かべる。
 俺はそれを横目に遊歩とイノセントという言葉は、相反するものだと思った。
 
 
「わー、とってもピュアですねーえ?」
 
 
 全く心を籠めずに答えれば、遊歩が俺の後頭部を引っ叩く。
 思わず頭を抑えれば、遊歩がケラケラ笑いだした。
 
 
「なぁに一希?まだボコされ足りないのカナ?」
 
 
 わざとらしく指の関節を鳴らしながら、グレアの威圧を醸し出す。
 その余りの迫力に首を左右に振り逃れようとすれば、遊歩の長い腕は直ぐに俺を捕らえる。
 俺の髪を鷲掴んだかと思えば、壁に手を付かせてこういった。
 
 
Corner反省しろ
 
 
 壁に手を付いたままで後ろから、遊歩が俺の尻目掛けて蹴りを入れる。
 時折壁とキスをしそうになりながら、ひたすら痛みを耐え凌ぐ。
 完全に地雷を踏んだと思いながら、真っ白な壁を穴が開くほど見つめている。
 すると遊歩がグレアの空気を漂わせたままで、俺の背後から姿を消した。
 
 
 これはヤバイ。遊歩が本気で怒っている。
 ドアの閉まる音が響き渡り俺は更に凍り付く。多分遊歩はこのままで暫く帰らないつもりに違いない。
 
 
「遊歩ぉ!!!!ごめんって!!!!ほんとごめんってばぁぁぁ!!!!」
 
 
 俺の謝罪の声が遊歩に届いたのは、それから約三時間後の事である。
 この時に俺は初めて、遊歩の笑い方に関しては話をしてはいけない事を学んだ。
 
 
***
 
 
 さっきよりも大分マシにはなったものの、遊歩の状態はずっとグレアのままだ。
 遊歩の足元に座り込んだままで、俺はひたすら謝罪の言葉を述べていた。
 
 
「遊歩………本当にごめんね………?」
「あー?いいよもう、別に……苛々してるのお前のせいじゃないし………」
 
 
 遊歩はそう言いながら、俺の顔を一切見ずに携帯を見つめている。
 すると遊歩が深く溜め息を吐き出して、履いているボトムのジッパーを開いた。
 
 
Suckしゃぶれ
 
 
 やっと遊歩が命令コマンドをくれたと思いながら、遊歩のものを取り出す。
 遊歩のものは珍しく、一切反応して居なかった。
 あの万年チンコおっ起たせていてもおかしくない性欲魔神が、俺を目の前にして反応が無いとは一体どういう事だ。
 
 
 慌てて遊歩のものを口に含み、何時もより念入りに愛撫をしようと試みる。
 唾液の音を響かせながら舌を絡ませて舐め回す。
 俺が頭を上下に振れば、ぐぽぐぽと吸い上げる音が響き渡った。
 何時もよりも激しく舐め回しているせいなのか、遊歩が時折チラリと此方を見る。
 すると遊歩のものが、俺の口の中で一気に膨れ上がった。
 
 
「くふ………っ!!ん………!!!」
 
 
 自分から喉奥に突っ込むように舐め回せば、遊歩が小さく息を漏らす。
 そして携帯から手を離し俺の頭を押さえ付けた。
 
 
「ん!!!ぶ!!!」
 
 
 喉の最奥を蓋された状態で息を吸おうとすれば、遊歩のもので邪魔される。
 余りの苦しさにえづきそうになった瞬間、遊歩が俺の髪を物凄い勢いで鷲掴んだ。
 髪の毛が何本か千切れたような感覚と、涙で歪む視界。
 酸素の足りてない俺の頭を掴んだままで、まるでオナホールでも扱うかのように動かした。
 
 
「ぐ!!ぐぅ!!!」
 
 
 余りの苦しさに潰れた蛙のような声を吐き出し、ボロボロと涙を流す。
 すると遊歩は俺の頭を離し床に叩き付けた。
 ぐちゃぐちゃの俺の顔を見下ろしながら、ソファーに掛けた遊歩が笑う。
 そのまま遊歩は俺の頭を踏みにじって囁いた。
 
 
Goodもう気にすんな
 
 
 許して貰えた。そう思った瞬間に自然と涙が流れ出す。
 この時に俺は遊歩に嫌われるのを、とても怖いと思っていた事に気が付いた。
 ぐずる俺を見ながら遊歩が何時も通りにケラケラ笑い始める。
 そして遊歩は俺の身体を抱き起こし、自分の膝の上に乗せた。
 
 
「アハハハハ!!一希目茶苦茶泣いてる!!そんなに俺、怖かったぁ??」
 
 
 遊歩がそう言いながら、甘やかすようにキスをする。
 何時も通りの遊歩だ。いつもと同じ遊歩。
 向かい合うような体勢になりながら、目から溢れた涙を手で拭う。
 
 
「うん………怖かった。遊歩に嫌われるの……」
 
 
 俺がそう答えた瞬間に遊歩の顔が真っ赤に染まる。
 そしてほんの少しだけ照れ臭そうに、俺から視線を逸らした。
 
 
「そう…………俺が怖いんじゃないんだ?へぇ………」
 
 
 遊歩がそう言いながら俺に顔を見せないようにして、俺の身体を抱きしめる。
 その時に俺はやっと、自分が物凄く恥ずかしい言葉を口にしていた事に気が付いた。
 これじゃあまるで普通の恋人みたいじゃないか。
 遊歩の心臓の鼓動が自棄に大きく聞こえてくるのを感じながら、俺の心臓の音も遊歩に聞こえてしまっているのではないかと心から思う。
 すると遊歩が甘い声色で囁いた。
 
 
「一希、仲直りのセックス、しない?」
 
 
 仲直りのセックスなんて、完全に恋人同士のそれでしかないじゃないか。
 そう思いながら我に返っていれば、遊歩がほんの少しだけ照れ臭そうに微笑む。
 この時に俺は完全に遊歩の表情をみて、うっかりSubスペースに入ってしまっていた。
 
 
「………す、るぅ………!!!」
 
 
 誘われるかの様に囁いて、遊歩の首に腕を回す。
 すると遊歩は嬉しそうに微笑んでから、いきなりとても複雑そうな表情を浮かべた。
 なんで仲直りのセックスの話になっているのに、遊歩の表情は困っているのだろうか。
 不思議に思って首を傾げれば遊歩が言葉を漏らす。
 
 
「ごめん……俺やり過ぎたわ……」
 
 
 やり過ぎた?何時もの事じゃねえの?
 思わずそう思いながら下を見れば、異様なほどに髪の毛が散らばった床が視界に入る。
 この時に俺は遊歩に、髪の毛を引きちぎられたのを思い出した。
 
 
「ちょっと見てくれる……?」
 
 
 遊歩が携帯のカメラをインカメラにして俺に手渡す。
 それを受け取り自分の姿を映し出せば、左右の髪のバランスが何だかおかしい。
 
 
「え?ちょっと待って?どうやったらこうなんの………?」
 
 
 俺がそう嘆けば遊歩が静かに頭を下げる。
 遊歩目掛けてわざと響く様に舌打ちをすれば、遊歩が情けない声色でこういった。
 
 
「いや、ほんとごめん……」
 
 
 もしも俺がDomだったとすれば、今間違いなくグレアの空気を醸し出しているだろうと心から思った。
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