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事件
15.後悔
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宿屋に戻り、グラキエ王子に手を引かれてソファに腰を下ろした。
そっと肩を抱き寄せられ、頭を優しい手がゆっくりと撫でる。その温度と香りに硬直し続けていたラズリウの体が少しずつ緩んでいった。
ぼろぼろと留めていた雫が目からこぼれ落ち、押し込んでいた嗚咽が喉の奥から小刻みに漏れ出して。そのまま自分の意思では止められなくなってしまった。
脳裏に焼き付いているのは、あの倉庫に入って視界に飛び込んできた光景。
あの、男が。
かつてラズリウを組み敷いて散々に扱き下ろした下衆が、よりによってグラキエ王子に覆い被さっていた。白い肌を暴かれ、無理矢理に足を開かされようとしていた姿が頭から離れない。
なぜすぐに制圧出来なかったんだろう。どうしてあの首を一度ではねられなかったんだろう。
いや……それよりも。
「ごめん……ごめんね……怖い目に遭わせてしまった……」
過去の自分と似たような体験をさせてしまった。
優しい人々に守られて育った大切な王子を、悪意と暴力に晒してしまった。
「ラズリウのせいじゃないだろう?」
「僕が目を離した。知ってたのに。危険があるかもしれないって分かってたのに」
きちんと彼を守っていれば。目を離したりしなければ。中通りに、ネヴァルストなんかに連れて来なければ。
いっそ婚約者に――番に、ならなければ。
ラズリウの番だと分かって、あの男の表情が変わった。そうでなければ少なくとも首を絞められたりせずに済んだのに。
見当違いな怒りをグラキエ王子にぶつけたあの男と同じくらい、迂闊なことを口走った己も許せやしない。
それでも彼から離れられないラズリウを、グラキエ王子の腕が包み込んでいく。
「はぐれたのは俺だ。こちらこそすまない……君の顔に傷をつけてしまった」
そっと頬を撫でる指先がなぞるのは、打ち合いで相手の切先がかすった跡。皮膚が薄いせいで血だけ派手に流れ落ちた程度の、取るに足らない傷。
だというのに、その傷を見つめるグラキエ王子の表情は苦しげだ。
「こんなのすぐ治るよ。でも、された事の記憶はなかなか消えないんだ」
かすり傷なんて、訓練ですらいくつも負うものだ。それは剣の基礎を学んだのなら知っているはず。
それでも悲しそうな表情を浮かべて、優しい番は頬の傷に口付ける。まるで、まじないをするように。
「リィウ……」
頬を撫でていた唇が耳に触れ、甘い声が鼓膜を揺らした。柔らかく耳を食み、そのまま首筋をゆっくりと降りてくる。
「ん、っ……き、ぃえ……?」
服の裾から入り込んできた手が、皮膚の柔らかい所をゆっくりと撫でてきた。その手つきは明らかに誘う意思を持って動いているように思える。
思わず見上げた金色の瞳が、どこか熱に浮かされたようにラズリウを見つめていた。
「あの、リィウ……その……君の肌に、触れても……?」
戸惑った表情を浮かべながら欲のこもった言葉をこぼす唇に、とくとくと心臓が躍る。
日の高い内から言い出すなんて珍しい。フェロモンに当ててしまった訳でもないのに。
少し困惑しながらグラキエ王子を見つめると、照れくさそうな顔が近づいてきて見えなくなった。口に柔らかい感触がして、何度も触れては離れていく。
「触られた所に、リィウの感触が欲しい」
熱っぽい瞳と熱い吐息。頭がくらくらとしてきたラズリウは、気付けば勢い良くグラキエ王子をソファに押し倒していた。
「……じゃあ、僕が触るね」
この展開は予想外だったのか、グラキエ王子は目を白黒とさせている。じっとその表情を見つめながらラズリウは手早く服を脱いだ。
服を寛げて下着を捲り上げると、眩しいほどに白いグラキエ王子の肌が露わになる。そっと触れた皮膚からはいつもより少し高い体温が伝わってきた。
身を撫でるとひくりと揺れる体。口付ける度に漏れ出す熱い吐息。グラキエ王子の記憶からあの男の手垢を削り取るように、まんべんなく上半身を撫で続ける。
ふと、触れているグラキエ王子の股間が硬くなっているのに気がついた。
そっとソファから降りて床に座り込み、どうしたと言いたそうな顔で起き上がる彼のベルトへ手を伸ばした。手早く留め具を外して下衣を下げると、見つめてくる金色の目が真ん丸になっている。
「り、リィウっ、そこは触られてな……っ」
困惑した声に応える代わりに、太腿の内側をそっと撫で上げた。体はほのかに赤くなり、指を滑らせる度にピクンと反応を返してくる。
立ち上がりかけているグラキエ王子のそれに触れると、ん、と何かを堪えるような声が聞こえてきた。
ラズリウを見下ろす瞳は何か言いたそうにしているけれど、蕩けてしまった顔についている口は言葉をこぼす気配がない。
「ッ……!?」
少しずつ硬くなるグラキエ王子のものを口に収めた瞬間、ひときわ大きく番の体が揺れた。
「り、っ……ちょ、っあぁ……!」
そういえば口でした事はなかったかもしれない。ちゃんと気持ちいいだろうか。
ちらりと向けた視線に映るのは、慌てた顔と、真っ赤になった肌と、動揺に揺れる瞳。けれどどこか恍惚とした表情が、満更でもないと言ってくれている気がした。
荒い呼吸が更に激しくなって、体が揺れるようになってきて。いよいよ大きく張りつめたそれが果てた。
タイミングが外れて上手く受け止めきれず、少し肌にこぼれてしまったけれど。まぁ、拭けば問題ない。服を脱いでおいたのは正解だった。
「り、りぃ……う……」
か細い声に視線を上げると、泣きそうな顔のグラキエ王子がラズリウを見ていた。
何も言わずに口でしたから引いてしまったかもしれない。優しくしてくれるこの人が、番に己の精をかけて喜ぶはずもないのだ。
取り繕うようにグラキエ王子の頬を撫で、顔を近付けてじっと金の瞳を見つめる。
「なぁに?」
とびきりの笑顔を浮かべて返すと、すぐそこにある顔が音がしそうなほど一気に赤みを増した。
――嗚呼、どうしてこんなに可愛いんだろう。
ぞくぞくと背筋を欲が走り抜けたラズリウは、再びグラキエ王子のものを手の中に握り込む。そのままゆっくりこすると、グラキエ王子は朱がさした身体を震わせた。
しばらくの間されるがままでいたけれど、蕩けた金の瞳が不意にラズリウを映し込む。
「……抱き、たい……」
とくんと、大きく心臓が跳ねた。
初めてではないけれど、こんなに直接的にくるのは滅多にない。あまりの衝撃に返す言葉を失っていると、そっと腕の中に閉じ込められてしまった。
「りぃう……」
甘えるような声に、ねだるような視線。
こんな攻撃を至近距離から受けてしまえば、ラズリウには陥落する以外の道がない。
じっと見つめてくるグラキエ王子に頷き返すと、ぱあっと日が差したような笑顔が返ってきて。早々に抱き上げられ、ベッドへと運び込まれたのだった。
そっと肩を抱き寄せられ、頭を優しい手がゆっくりと撫でる。その温度と香りに硬直し続けていたラズリウの体が少しずつ緩んでいった。
ぼろぼろと留めていた雫が目からこぼれ落ち、押し込んでいた嗚咽が喉の奥から小刻みに漏れ出して。そのまま自分の意思では止められなくなってしまった。
脳裏に焼き付いているのは、あの倉庫に入って視界に飛び込んできた光景。
あの、男が。
かつてラズリウを組み敷いて散々に扱き下ろした下衆が、よりによってグラキエ王子に覆い被さっていた。白い肌を暴かれ、無理矢理に足を開かされようとしていた姿が頭から離れない。
なぜすぐに制圧出来なかったんだろう。どうしてあの首を一度ではねられなかったんだろう。
いや……それよりも。
「ごめん……ごめんね……怖い目に遭わせてしまった……」
過去の自分と似たような体験をさせてしまった。
優しい人々に守られて育った大切な王子を、悪意と暴力に晒してしまった。
「ラズリウのせいじゃないだろう?」
「僕が目を離した。知ってたのに。危険があるかもしれないって分かってたのに」
きちんと彼を守っていれば。目を離したりしなければ。中通りに、ネヴァルストなんかに連れて来なければ。
いっそ婚約者に――番に、ならなければ。
ラズリウの番だと分かって、あの男の表情が変わった。そうでなければ少なくとも首を絞められたりせずに済んだのに。
見当違いな怒りをグラキエ王子にぶつけたあの男と同じくらい、迂闊なことを口走った己も許せやしない。
それでも彼から離れられないラズリウを、グラキエ王子の腕が包み込んでいく。
「はぐれたのは俺だ。こちらこそすまない……君の顔に傷をつけてしまった」
そっと頬を撫でる指先がなぞるのは、打ち合いで相手の切先がかすった跡。皮膚が薄いせいで血だけ派手に流れ落ちた程度の、取るに足らない傷。
だというのに、その傷を見つめるグラキエ王子の表情は苦しげだ。
「こんなのすぐ治るよ。でも、された事の記憶はなかなか消えないんだ」
かすり傷なんて、訓練ですらいくつも負うものだ。それは剣の基礎を学んだのなら知っているはず。
それでも悲しそうな表情を浮かべて、優しい番は頬の傷に口付ける。まるで、まじないをするように。
「リィウ……」
頬を撫でていた唇が耳に触れ、甘い声が鼓膜を揺らした。柔らかく耳を食み、そのまま首筋をゆっくりと降りてくる。
「ん、っ……き、ぃえ……?」
服の裾から入り込んできた手が、皮膚の柔らかい所をゆっくりと撫でてきた。その手つきは明らかに誘う意思を持って動いているように思える。
思わず見上げた金色の瞳が、どこか熱に浮かされたようにラズリウを見つめていた。
「あの、リィウ……その……君の肌に、触れても……?」
戸惑った表情を浮かべながら欲のこもった言葉をこぼす唇に、とくとくと心臓が躍る。
日の高い内から言い出すなんて珍しい。フェロモンに当ててしまった訳でもないのに。
少し困惑しながらグラキエ王子を見つめると、照れくさそうな顔が近づいてきて見えなくなった。口に柔らかい感触がして、何度も触れては離れていく。
「触られた所に、リィウの感触が欲しい」
熱っぽい瞳と熱い吐息。頭がくらくらとしてきたラズリウは、気付けば勢い良くグラキエ王子をソファに押し倒していた。
「……じゃあ、僕が触るね」
この展開は予想外だったのか、グラキエ王子は目を白黒とさせている。じっとその表情を見つめながらラズリウは手早く服を脱いだ。
服を寛げて下着を捲り上げると、眩しいほどに白いグラキエ王子の肌が露わになる。そっと触れた皮膚からはいつもより少し高い体温が伝わってきた。
身を撫でるとひくりと揺れる体。口付ける度に漏れ出す熱い吐息。グラキエ王子の記憶からあの男の手垢を削り取るように、まんべんなく上半身を撫で続ける。
ふと、触れているグラキエ王子の股間が硬くなっているのに気がついた。
そっとソファから降りて床に座り込み、どうしたと言いたそうな顔で起き上がる彼のベルトへ手を伸ばした。手早く留め具を外して下衣を下げると、見つめてくる金色の目が真ん丸になっている。
「り、リィウっ、そこは触られてな……っ」
困惑した声に応える代わりに、太腿の内側をそっと撫で上げた。体はほのかに赤くなり、指を滑らせる度にピクンと反応を返してくる。
立ち上がりかけているグラキエ王子のそれに触れると、ん、と何かを堪えるような声が聞こえてきた。
ラズリウを見下ろす瞳は何か言いたそうにしているけれど、蕩けてしまった顔についている口は言葉をこぼす気配がない。
「ッ……!?」
少しずつ硬くなるグラキエ王子のものを口に収めた瞬間、ひときわ大きく番の体が揺れた。
「り、っ……ちょ、っあぁ……!」
そういえば口でした事はなかったかもしれない。ちゃんと気持ちいいだろうか。
ちらりと向けた視線に映るのは、慌てた顔と、真っ赤になった肌と、動揺に揺れる瞳。けれどどこか恍惚とした表情が、満更でもないと言ってくれている気がした。
荒い呼吸が更に激しくなって、体が揺れるようになってきて。いよいよ大きく張りつめたそれが果てた。
タイミングが外れて上手く受け止めきれず、少し肌にこぼれてしまったけれど。まぁ、拭けば問題ない。服を脱いでおいたのは正解だった。
「り、りぃ……う……」
か細い声に視線を上げると、泣きそうな顔のグラキエ王子がラズリウを見ていた。
何も言わずに口でしたから引いてしまったかもしれない。優しくしてくれるこの人が、番に己の精をかけて喜ぶはずもないのだ。
取り繕うようにグラキエ王子の頬を撫で、顔を近付けてじっと金の瞳を見つめる。
「なぁに?」
とびきりの笑顔を浮かべて返すと、すぐそこにある顔が音がしそうなほど一気に赤みを増した。
――嗚呼、どうしてこんなに可愛いんだろう。
ぞくぞくと背筋を欲が走り抜けたラズリウは、再びグラキエ王子のものを手の中に握り込む。そのままゆっくりこすると、グラキエ王子は朱がさした身体を震わせた。
しばらくの間されるがままでいたけれど、蕩けた金の瞳が不意にラズリウを映し込む。
「……抱き、たい……」
とくんと、大きく心臓が跳ねた。
初めてではないけれど、こんなに直接的にくるのは滅多にない。あまりの衝撃に返す言葉を失っていると、そっと腕の中に閉じ込められてしまった。
「りぃう……」
甘えるような声に、ねだるような視線。
こんな攻撃を至近距離から受けてしまえば、ラズリウには陥落する以外の道がない。
じっと見つめてくるグラキエ王子に頷き返すと、ぱあっと日が差したような笑顔が返ってきて。早々に抱き上げられ、ベッドへと運び込まれたのだった。
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