魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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六月十三日月曜日 晴天「ハジマリの日」

6/13②

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 この海辺の町に一つしかない中学は、一学年一クラス。
 ママもおばあちゃんも、それから亡くなったおじいちゃんも通っていたそうだ。
 担任の先生は、若い女の先生で増田先生、可愛らしくて大学生にも見えるお姉さんのような人だ。
 美術を専任しているそうで、「もし良かったら美術部にも見学に来てね、柴田さん」と誘ってくれた。
 私はそれに何とも言えない表情で頷いたら、増田先生も事情を思い出したらしく、「三ヶ月ぐらいでも大歓迎よ」と付け加えてくれた。
 この春の入学時に、ママに買ってもらった制服はとても可愛い。
 冬服は白のブレザーなんだけど、今の時期はミント色の半袖ブラウスに襟に紺色の線が入った白いスクールベスト。
 スカートはグリーンチェックの膝丈スカート。胸元にはそのスカート生地と同じ色柄のリボンタイ。
 肩より下のセミロングを、今日はキュッとポニーテールにまとめあげた。
 一年一組、開け放たれたままのドアの向こうから、チラチラと伸びあがって私を覗こうとする男子や、好奇心で目をランランと輝かす女子の姿があって。
 ああ、これが転校生に注がれる視線なのか、と少し緊張をする。

「柴田さん、入って」

 増田先生の言葉に、深呼吸をして俯きながら黒板の前に立つ。
 そっと視線をあげて、見回すと、黒襟に二本のラインが入った白い夏服セーラーの女の子たちと、白シャツに黒い学生服ズボンの男の子たちの姿が目に入った。
 私に集まる視線に、ドキドキしてもう一度視線を足元に戻す。

「柴田さんは、ご家庭の事情で三ヶ月ほどうちの中学に通うことになります」

 家庭の事情が何なのかを、誰も突っ込んで聞いてきたりはしないことにホッとする。

「駄菓子屋の柴田さん家のお孫さんだそうで、今はそちらに住んでいるそうです。わからないことが多いと思いますので、皆さん柴田さんに色々教えてあげてくださいね」

 はーい、とあちこちから相槌あいづちのような返事が飛んできて一安心した。
 大丈夫そうかな? 受け入れてもらえそうな気がする。

「では柴田さん、自己紹介をしてください」

 え? 自分で?
 チラリと先生を見たらニッコリ微笑んで、私の名前を黒板に書き始める。

【柴田希星】

 その文字に皆がざわついている。
 わかってる、読めない、ってことだよね?

柴田シバタ 希星キラリです。都内から転校してきました。三ヶ月ほど、こちらでお世話になります。わからないことだらけですので、色々と教えてください」

 増田先生の紹介から言葉を借りて、無難に自己紹介をしたつもりだった、けど。
 ざわつく教室、耳をそばだてるとヒソヒソと『え? キラキラ』、『マジ? キラキラじゃん? ウケる』とあちこちで失笑しているような声が聞こえてきた。
 途端に、嫌な気分になって唇を噛みしめた。
 離婚したわけでもなく生まれた時からシングルだった母がつけてくれた私の名前。
 私が生まれた夜の星がとってもキレイだったから、希望の星って意味で名付けてくれたらしい。
 でも他人には読みづらい名前で、「きらり」って響きだけで、キラキラネームとか言われちゃって。
 親は何を思ってそんな名前を付けたんだろうね? ああ、母一人、子一人だしね、なんて心無い言葉を何度も言われてきた。
 ここでも、そう思われるのか……。
 だけど、たった三ヶ月なんだから我慢しないと、悔しさを逃すためにスカートの端をギュッと握って小さく深呼吸。
 それなのに。

「あら! 本当にキラキラね」

 こともあろうか、増田先生までそう言って笑ったものだから、悔しいを通り越してショックで泣きだしそうになった時だった。

「うるせえよ、先生まで! キラキラって呼ぶなよな!」

 そんな男子の声に、ハッとして顔をあげた。
 窓際の一番後ろの席で不機嫌そうな顔をして腕を組んでいる男の子がいる。
 怒ったような顔をして、皆を見回していた。

「だって、キラとキラリちゃん、二人揃ったらキラキラじゃない?」
 
 活発そうなショートカットの背の高い女の子が、私とあの怒っている男の子の顔を見比べて悪びれずに笑っている。
 ん? なに? どういうこと? キラとキラリちゃん?
 訳が分からずキョロキョロと周りを見渡したら、増田先生が気づいたらしく。

「ごめんなさいね、柴田さん。このクラスにはね、元々『キラくん』がいるの。青山アオヤマ 綺空キラくん。あ、そうだわ、柴田さんの家のお隣に住んでいるのよね? 青山くん」
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