魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

文字の大きさ
3 / 53
六月十三日月曜日 晴天「ハジマリの日」

6/13③

しおりを挟む
 え? あの男の子、キラって名前なの?
 初めて自分以外の名前でキラという響きを聞いて、さっきの彼の顔を改めて見つめた。
 あれ? 待って? 確か、あの顔は。

「あー、今朝の犬ド」

 彼を指さして、途中まで言ってしまってから我に返って口を塞ぐ。

「ちげえって言ってんだろ!」

 彼は顔を真っ赤にして立ち上がり、私に抗議したいる。
 周りは、私たちのやり取りに興味津々のようで。

「キラってば、もう友達になったの?」
 
 なんて楽しそうだ。
 どこをどう見たら友達のように見えるの!?

「そうなのね? じゃあ、柴田さんは青山くんの隣に座ってもらいましょうか」

 先生まで、私と彼がもう友達だと勘違いし始め、隣の席に座るように促された。
 さっきのショートカットの女の子が、後ろにあった机を、彼の隣にセッティングしてくれた。
 ああ、最悪だ……。今朝の第一声をくやみ始める。
 そんな私の様子に気づくことなく、席をピッと整えてくれた彼女は、こちらに向き直りニコッと微笑んだ。

「クラス委員の尾崎オザキ 花音カノンです。私も、キラリちゃん家の近くに住んでるの。どうぞ、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 面倒見の良さそうな人懐こい笑顔にホッと一安心したら、隣から大きなため息と。

「カノン、俺と席代われよ。お前が面倒見たらいいじゃん」

 声の主は青山くんだ。
 不貞腐れたような顔をして、こちらをチラリと見た。
 とても感じの悪い人だと思う、犬ドロボーのくせに、いや多分違うんだろうけども。

「キラ! あんた、いっつも真希さんに世話になってんだから、恩返ししたら?」

 真希さん? 確か、うちのおばあちゃんの名前だ。

「この辺の子供たちは、みーんな真希さん家の駄菓子で育ったの。キラなんて隣に住んでるから、駄菓子だけじゃなくてご飯まで時々ね? だから、キラリちゃん、キラに遠慮なんかしなくていいの。嫌なことされたら、真希さんに言いつけちゃえ!」
「チッ、カノン! 余計なこと言うな!」

 青山くんの舌打ちにひるむことなく、尾崎さんはアカンベエと舌を出しやり返して、席に戻っていく。

「うぜえ」

 もう尾崎さんには聞こえるわけでもないのに、青山くんは不機嫌そうな声でそうつぶやいた。
 私は何も聞こえなかったフリで、鞄の中から筆箱を出す。

「犬ドロボーなんかじゃねえから」
「そうですか」

 まあ隣に住んでるし、おばあちゃんも知り合いっぽいこと言ってたから、きっとそうなんだろう。
 どうでもいいけど、感じの悪い人とはあまり話したくはない。
 犬ドロボーじゃないからと言って謝る気もない。
 だって勝手に人の家の庭に入ってきてるのは、例えおばあちゃんの知り合いであれど、私にとっては知らない人だったもの。
 本当に警察に連絡してても、おかしくはない状況だったんだからね?
 それをしなかっただけ、感謝してほしいわ!
 心の中で大きく舌を出す。

「ノビルの散歩は俺の役目なんだよ」

 ノビル? 
 無視しようとしたけれど、どうしても気になった。

「ノビルって、なに?」
「犬だろ、お前ん家の」

 お前ん家の、犬? あの、茶色い子? シンだよね? も、もしかして!?

「シンじゃないの? あの犬の名前、ノビルって読むの?」
「おまえ……、マジで知らなかったわけ?」

 孫の癖にと言われているみたいな冷たい視線に、少し苛ついて返事をすることなく一時限目の数学の教科書を机から出す。
 仕方ないじゃん、孫って言ったって、生まれてからまだ三回しか会ったことないんだもん。
 おじいちゃんには生まれた頃に会っただけだというから、全く覚えてなんかないし。
 そもそも、おばあちゃんという存在だって、つい先月まで知らなかったんだもん。
 ノビルのことだって、まだ一度も撫でたこともない。
 撫でてみたいけど、アパート暮らしだった私には生き物とどう触れ合っていいのかもわからないのだ。

「とにかく、俺はノビルとも真希さんとも仲がいいの。それだけは覚えておけよ、犬ドロボーなんて二度と呼ぶなよ」

 うざっ!
 さっき、青山くんがつぶやいた言葉と同じものを吐き出しかけて、慌てて飲み込んだ。
 私だって、側にいたら、もっとずっと、ノビルとも仲良しだったのに!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

ハピネコは、ニャアと笑う

東 里胡
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞受賞 目が覚めたら昨日だった。知ってる会話、見覚えのあるニュース。 二度目の今日を迎えた小学五年生のメイのもとに、空から黒ネコが落ちてきた。 人間の言葉を話し魔法を使える自称ハッピーネコのチロル。 彼は西暦2200年の未来から、逃げ出した友達ハピネコのアイルの後を追って、現代にやってきたという。 ハピネコとは、人間を幸せにするために存在する半分AIのネコ。 そのため、幸せの押し付けをするチロルに、メイは疑問を投げかける。 「幸せって、みんなそれぞれ違うでしょ? それに、誰かにしてもらうものじゃない」 「じゃあ、ボクはどうしたらいいの? メイのことを幸せにできないの?」 だけど、チロルにはどうしても人間を幸せにしなければいけないハピネコとしての使命があって……。 幼なじみのヒューガ、メイのことを嫌うミサキちゃんを巻き込みながら、チロルの友達アイルを探す日々の中で、メイ自身も幸せについて、友達について考えていく。 表紙はイラストAC様よりお借りしました。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

処理中です...