魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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七月二十日水曜日~晴れのち大荒れ「夏休み前半」

夏休み前半④

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「どう? めっちゃ美味しいでしょ?」

 沢田さんが、おばあちゃんの夏カレーを一口パクリと頬張った瞬間、ママが感想を尋ねる。

「うん、美味しい!! 本当に美味しいです!!」
「そいつは良かった。明日はもうちょいマシなもの出すからリクエストがあれば言っておきな?」
「沢田さん、お代りいっぱいあるから食べてね」

 次々とかかる女三人の声に沢田さんは、イチイチ手を止めて恐縮している。
 おばあちゃんの畑で獲れたナスやししとう、カボチャを素揚げしてひき肉と玉ねぎのカレーにトッピング。
 こんな美味しいカレーは食べたことなくて、私は毎週末のようにリクエストしているのだ。

「父さんも好きだったよね」
「そうだね」

 仏間から覗く笑顔のおじいちゃんの写真に、ママが目を細めた。
 リクエストした割には、ご飯も食べずスープ部分だけ、それに半分も食べきれないママを見て少し心配になったけれど、他は全部今までのママだった。
 沢田さん使いが荒くて、ちょっと気の強いママ。

「沢田さんは明日何してるの?」

 私の言葉に沢田さんの目は空を彷徨って。

「観光、かなあ? あ、キラリちゃんも行く? 水族館とか」
「え!? 行きたい! いいの? ねえ、ママも一緒に?」
「バカね、ママは疲れちゃうから行けるわけないでしょ」
「そっか、そうだよね」

 ショボンとした私に、おばあちゃんはカレーを食べる手を止めて。

「行っておいでよ、キラリ。沢田さん、迷惑じゃなきゃこの子を遊びに連れてってやって。この夏、海で泳ぐことしかしてなくてね? 私一人じゃどこにも連れてってやれないし」
「でも、ママが」
「ママの面倒は、おばあちゃんが見ておくから大丈夫だよ」
「そ、面倒見てもらうから」

 おばあちゃんに向かって舌を出しておどけるママに私は頷いた。

「じゃあ、せっかくだし水族館、行こうよ、キラリちゃん」
「うん、あ、お願いします」

 ペコっと頭を下げた私に沢田さんは、よろしくね、と笑顔を向けてくれた。



 近くの旅館に宿を取ったという沢田さんが帰った後で。

「布団、どこに敷こうか? キラリの隣がいいだろ?」

 そのおばあちゃんの提案に、ママはニヤリと笑った。

 布団は、ママの指示通り、仏間に敷かれた。
 しかも三つ並べてだ。

「私、真ん中がいい」

 まるで子供みたいに、おばあちゃんと私の真ん中の布団を陣取ったママ。
 私とおばあちゃんは、ママの様子に顔を見合わせて苦笑した。

「今夜はずっと女だけでトークしようね」
「じいさんが嫌がるよ、うるさいから早く寝ろって」
「じゃあ、父さんも入っておいでよ」

 それは、ちょっとばかり怖いと思うとは言い出せず、タオルケットを鼻まで引き寄せた。
 ママは、しばらく病院での話をした。
 治療で辛かったことや、病室で出来た友達のこと。
 それから、治ったら、あれもしたい、これもしたい。

「三人で旅行もしたいなあ」

 そう呟いた後、静かになったなと思ったら、鼾をかいて眠り始めた。

「……、眠ってまでうるさい子だよ、全く」

 おばあちゃんの呟きにクスクス笑ったら、私が起きていることに気づいたようだ。

「まあ、希帆はうるさいくらいで丁度いいよね。静かすぎたら本当に病気だよ」
「うん、そう思う」

 今も真っ最中ではあるけれど、元気が無くなってしまったら病気に負けてしまいそうだから。

「結局、言えなかった。魔法のこと」
「ああ、そうだね。言えなかった。明日、キラリが出かけてるときに希帆に話しておくよ」
「ありがとう、おばあちゃん」

 そう言ってから何かが引っかかった。

「あ、おばあちゃん、沢田さんの話って一体何だったんだろうね」

 私の呟きにおばあちゃんの返事はなかった。
 きっと眠ってしまったのだろうと私も目を瞑る。
 ママの鼾が聞こえる夜、懐かしくてうるさい音に、私もいつしか眠りに落ちる。
 その日、とっても楽しい夢を見た。
 ママとおばあちゃんと、ノビルと、それとなぜか沢田さんが一緒に旅行をしている夢だ。
 目覚めた時に、まだママがグッスリ眠っている様子に微笑んで。
 一足先に出掛けたおばあちゃんの後を追った。
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