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七月二十日水曜日~晴れのち大荒れ「夏休み前半」
夏休み前半⑤
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「アラン・レガード・パシフィール・ラ・デラッソ!!」
「デラッソをカレーヌに変えて、指をこうするんだよ」
私の隣に立って、人差指で空に弧を描くおばあちゃんを真似て。
「アラン・レガード・パシフィール・ラ・カレーヌ!!」
水の竜巻が私の指先通りに流れて、トンネルのようになった。
得意げに笑う私に、おばあちゃんはパチパチと拍手してくれる。
「明日はもっと長い水のトンネルに挑戦しようかね」
私の魔法の出来栄えに満足げに笑って、おばあちゃんは昨日のように杓子で水を汲み虹の雨を降らせた、その時だった。
「ねえ、なんでよ、母さん!!」
その声に、私もおばあちゃんもハッとして振り返る。
家の方向で腕を組み、仁王立ちになってこちらを睨んでいるママがいた。
まるで頭に角でも生えてそうな怖い顔をしていて、ヒッと私は首をすくめた。
「キラリには魔法のこと、教えないでって言ったでしょう?」
「違うの、ママ! 私が教えてって、そう言ったの」
「キラリは黙ってて! これは、私とおばあちゃんの問題! 内緒にしてたらバレないからって、そう思った? ひどいよ、母さん」
ママの言葉におばあちゃんは、グッと唇をかみしめて。
「希帆、私もあんたに話がある。なんのことか、わかってるね? だけど、今は一先ず朝ごはんの支度だ」
怖い顔でママを見ていた。
初めて会ったあの日、ママに向けていた険しい顔のようだった。
「わかったわ。それじゃあ、後で。先に戻ってる」
「ママ!!」
慌ててママに追いついて、横に並ぶ。
「ママ、ごめんなさい、だけど私ね」
「キラリ、魔法は今日で止めて? ママが心配になる理由わかってるでしょ? おばあちゃんから、ママが魔法を止めた理由聞いてるでしょ?」
「でも、」
「東京に戻ったら、魔法の修行なんかできないの。勉強だって必死にしなきゃ、もう元の学校のレベルについていけてないかもしれないのよ。後、一か月もしたら今まで通りの生活になるの、わかってるわよね?」
何も言えなかったのは、私の手を握ったママの指が骨ばっていて少し痛くて。
心までその痛みで抑え込まれてしまった気がしたからだ。
「キラリちゃん?」
マンボウの水槽前で立ち止まり、ボーっとしていた私は沢田さんの声で引き戻された。
「今日はやっぱり元気ないよね?」
本日、何度目かの沢田さんの心配そうな顔に私は俯いて、ようやく口を開いた。
「ママとケンカしたの」
「だと思った。だって、希帆さんも元気なかったし」
朝、迎えに来てくれた沢田さんの車に乗り込む私を見送ってくれたママ。
『キラリのこと、よろしくね』とだけ呟いて手を振っていた。
私はママの目を見ることもなく、椅子に深く腰掛けて車が発進するまで足元を見ていた。
「ケンカの理由は?」
「私とおばあちゃんがママに内緒にしてたことがバレちゃって」
「そっか、でも、キラリちゃんだってもう中学生だし、親に内緒の一つや二つあってもいいじゃんね? あ、ボクがそう言ってたってのはここだけの話にしてね? キラリちゃんを甘やかすなって、希帆さん怒りそうだし」
「うん、秘密にしとこ。ママが怒ると面倒だし」
ママの性格をわかっている者同士にしかわからない妙な結束力だ。
「寂しかったのかもよ? キラリちゃんとおばあちゃんだけが仲良くなっちゃって」
「へ?」
「ほら、ずっとおばあちゃんと希帆さんはケンカしてたって聞いてたからさ。自分とはケンカするくせに、なんでキラリちゃんとは仲がいいのか、って思ってそうじゃない? で、キラリちゃんにヤキモチ妬いたのかもよ? 案外子供っぽいとこあるから希帆さん」
夕べ真ん中を陣取ったママの姿をふと思い出す。
「あのね希帆さん、病院でずっと言ってた。退院して体力戻ったら、時々実家に顔出すことにするって。ずっとケンカしてたのに、キラリちゃんのこと見てくれて感謝してるって。おばあちゃんと十年以上ぶりに話せて良かった、って何度も言ってて。だけど、もっと早く帰るべきだった、っておじいちゃんのことを悔やんでた」
床の間に布団を敷いた理由も、そのせいだったのかもしれない。
「親子だしケンカすることもあるとは思う。でも必ず最後は仲直りしてあげてね。次の治療を希帆さんが頑張れるためにも、ね?」
お願い、と手を合わせて申し訳なさそうに笑う沢田さんはズルイ。
私に折れてあげてほしいと頼んでいるのだもの。
しかも、そんな言い方されたら断れっこない。
「……ソフトクリームが食べたいなあ」
「もちろん! 何個でも食べて?」
「お腹壊すよ」
私の冗談に、沢田さんはプッと噴き出した。
「デラッソをカレーヌに変えて、指をこうするんだよ」
私の隣に立って、人差指で空に弧を描くおばあちゃんを真似て。
「アラン・レガード・パシフィール・ラ・カレーヌ!!」
水の竜巻が私の指先通りに流れて、トンネルのようになった。
得意げに笑う私に、おばあちゃんはパチパチと拍手してくれる。
「明日はもっと長い水のトンネルに挑戦しようかね」
私の魔法の出来栄えに満足げに笑って、おばあちゃんは昨日のように杓子で水を汲み虹の雨を降らせた、その時だった。
「ねえ、なんでよ、母さん!!」
その声に、私もおばあちゃんもハッとして振り返る。
家の方向で腕を組み、仁王立ちになってこちらを睨んでいるママがいた。
まるで頭に角でも生えてそうな怖い顔をしていて、ヒッと私は首をすくめた。
「キラリには魔法のこと、教えないでって言ったでしょう?」
「違うの、ママ! 私が教えてって、そう言ったの」
「キラリは黙ってて! これは、私とおばあちゃんの問題! 内緒にしてたらバレないからって、そう思った? ひどいよ、母さん」
ママの言葉におばあちゃんは、グッと唇をかみしめて。
「希帆、私もあんたに話がある。なんのことか、わかってるね? だけど、今は一先ず朝ごはんの支度だ」
怖い顔でママを見ていた。
初めて会ったあの日、ママに向けていた険しい顔のようだった。
「わかったわ。それじゃあ、後で。先に戻ってる」
「ママ!!」
慌ててママに追いついて、横に並ぶ。
「ママ、ごめんなさい、だけど私ね」
「キラリ、魔法は今日で止めて? ママが心配になる理由わかってるでしょ? おばあちゃんから、ママが魔法を止めた理由聞いてるでしょ?」
「でも、」
「東京に戻ったら、魔法の修行なんかできないの。勉強だって必死にしなきゃ、もう元の学校のレベルについていけてないかもしれないのよ。後、一か月もしたら今まで通りの生活になるの、わかってるわよね?」
何も言えなかったのは、私の手を握ったママの指が骨ばっていて少し痛くて。
心までその痛みで抑え込まれてしまった気がしたからだ。
「キラリちゃん?」
マンボウの水槽前で立ち止まり、ボーっとしていた私は沢田さんの声で引き戻された。
「今日はやっぱり元気ないよね?」
本日、何度目かの沢田さんの心配そうな顔に私は俯いて、ようやく口を開いた。
「ママとケンカしたの」
「だと思った。だって、希帆さんも元気なかったし」
朝、迎えに来てくれた沢田さんの車に乗り込む私を見送ってくれたママ。
『キラリのこと、よろしくね』とだけ呟いて手を振っていた。
私はママの目を見ることもなく、椅子に深く腰掛けて車が発進するまで足元を見ていた。
「ケンカの理由は?」
「私とおばあちゃんがママに内緒にしてたことがバレちゃって」
「そっか、でも、キラリちゃんだってもう中学生だし、親に内緒の一つや二つあってもいいじゃんね? あ、ボクがそう言ってたってのはここだけの話にしてね? キラリちゃんを甘やかすなって、希帆さん怒りそうだし」
「うん、秘密にしとこ。ママが怒ると面倒だし」
ママの性格をわかっている者同士にしかわからない妙な結束力だ。
「寂しかったのかもよ? キラリちゃんとおばあちゃんだけが仲良くなっちゃって」
「へ?」
「ほら、ずっとおばあちゃんと希帆さんはケンカしてたって聞いてたからさ。自分とはケンカするくせに、なんでキラリちゃんとは仲がいいのか、って思ってそうじゃない? で、キラリちゃんにヤキモチ妬いたのかもよ? 案外子供っぽいとこあるから希帆さん」
夕べ真ん中を陣取ったママの姿をふと思い出す。
「あのね希帆さん、病院でずっと言ってた。退院して体力戻ったら、時々実家に顔出すことにするって。ずっとケンカしてたのに、キラリちゃんのこと見てくれて感謝してるって。おばあちゃんと十年以上ぶりに話せて良かった、って何度も言ってて。だけど、もっと早く帰るべきだった、っておじいちゃんのことを悔やんでた」
床の間に布団を敷いた理由も、そのせいだったのかもしれない。
「親子だしケンカすることもあるとは思う。でも必ず最後は仲直りしてあげてね。次の治療を希帆さんが頑張れるためにも、ね?」
お願い、と手を合わせて申し訳なさそうに笑う沢田さんはズルイ。
私に折れてあげてほしいと頼んでいるのだもの。
しかも、そんな言い方されたら断れっこない。
「……ソフトクリームが食べたいなあ」
「もちろん! 何個でも食べて?」
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私の冗談に、沢田さんはプッと噴き出した。
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