39 / 53
七月二十日水曜日~晴れのち大荒れ「夏休み前半」
夏休み前半⑤
しおりを挟む
「アラン・レガード・パシフィール・ラ・デラッソ!!」
「デラッソをカレーヌに変えて、指をこうするんだよ」
私の隣に立って、人差指で空に弧を描くおばあちゃんを真似て。
「アラン・レガード・パシフィール・ラ・カレーヌ!!」
水の竜巻が私の指先通りに流れて、トンネルのようになった。
得意げに笑う私に、おばあちゃんはパチパチと拍手してくれる。
「明日はもっと長い水のトンネルに挑戦しようかね」
私の魔法の出来栄えに満足げに笑って、おばあちゃんは昨日のように杓子で水を汲み虹の雨を降らせた、その時だった。
「ねえ、なんでよ、母さん!!」
その声に、私もおばあちゃんもハッとして振り返る。
家の方向で腕を組み、仁王立ちになってこちらを睨んでいるママがいた。
まるで頭に角でも生えてそうな怖い顔をしていて、ヒッと私は首をすくめた。
「キラリには魔法のこと、教えないでって言ったでしょう?」
「違うの、ママ! 私が教えてって、そう言ったの」
「キラリは黙ってて! これは、私とおばあちゃんの問題! 内緒にしてたらバレないからって、そう思った? ひどいよ、母さん」
ママの言葉におばあちゃんは、グッと唇をかみしめて。
「希帆、私もあんたに話がある。なんのことか、わかってるね? だけど、今は一先ず朝ごはんの支度だ」
怖い顔でママを見ていた。
初めて会ったあの日、ママに向けていた険しい顔のようだった。
「わかったわ。それじゃあ、後で。先に戻ってる」
「ママ!!」
慌ててママに追いついて、横に並ぶ。
「ママ、ごめんなさい、だけど私ね」
「キラリ、魔法は今日で止めて? ママが心配になる理由わかってるでしょ? おばあちゃんから、ママが魔法を止めた理由聞いてるでしょ?」
「でも、」
「東京に戻ったら、魔法の修行なんかできないの。勉強だって必死にしなきゃ、もう元の学校のレベルについていけてないかもしれないのよ。後、一か月もしたら今まで通りの生活になるの、わかってるわよね?」
何も言えなかったのは、私の手を握ったママの指が骨ばっていて少し痛くて。
心までその痛みで抑え込まれてしまった気がしたからだ。
「キラリちゃん?」
マンボウの水槽前で立ち止まり、ボーっとしていた私は沢田さんの声で引き戻された。
「今日はやっぱり元気ないよね?」
本日、何度目かの沢田さんの心配そうな顔に私は俯いて、ようやく口を開いた。
「ママとケンカしたの」
「だと思った。だって、希帆さんも元気なかったし」
朝、迎えに来てくれた沢田さんの車に乗り込む私を見送ってくれたママ。
『キラリのこと、よろしくね』とだけ呟いて手を振っていた。
私はママの目を見ることもなく、椅子に深く腰掛けて車が発進するまで足元を見ていた。
「ケンカの理由は?」
「私とおばあちゃんがママに内緒にしてたことがバレちゃって」
「そっか、でも、キラリちゃんだってもう中学生だし、親に内緒の一つや二つあってもいいじゃんね? あ、ボクがそう言ってたってのはここだけの話にしてね? キラリちゃんを甘やかすなって、希帆さん怒りそうだし」
「うん、秘密にしとこ。ママが怒ると面倒だし」
ママの性格をわかっている者同士にしかわからない妙な結束力だ。
「寂しかったのかもよ? キラリちゃんとおばあちゃんだけが仲良くなっちゃって」
「へ?」
「ほら、ずっとおばあちゃんと希帆さんはケンカしてたって聞いてたからさ。自分とはケンカするくせに、なんでキラリちゃんとは仲がいいのか、って思ってそうじゃない? で、キラリちゃんにヤキモチ妬いたのかもよ? 案外子供っぽいとこあるから希帆さん」
夕べ真ん中を陣取ったママの姿をふと思い出す。
「あのね希帆さん、病院でずっと言ってた。退院して体力戻ったら、時々実家に顔出すことにするって。ずっとケンカしてたのに、キラリちゃんのこと見てくれて感謝してるって。おばあちゃんと十年以上ぶりに話せて良かった、って何度も言ってて。だけど、もっと早く帰るべきだった、っておじいちゃんのことを悔やんでた」
床の間に布団を敷いた理由も、そのせいだったのかもしれない。
「親子だしケンカすることもあるとは思う。でも必ず最後は仲直りしてあげてね。次の治療を希帆さんが頑張れるためにも、ね?」
お願い、と手を合わせて申し訳なさそうに笑う沢田さんはズルイ。
私に折れてあげてほしいと頼んでいるのだもの。
しかも、そんな言い方されたら断れっこない。
「……ソフトクリームが食べたいなあ」
「もちろん! 何個でも食べて?」
「お腹壊すよ」
私の冗談に、沢田さんはプッと噴き出した。
「デラッソをカレーヌに変えて、指をこうするんだよ」
私の隣に立って、人差指で空に弧を描くおばあちゃんを真似て。
「アラン・レガード・パシフィール・ラ・カレーヌ!!」
水の竜巻が私の指先通りに流れて、トンネルのようになった。
得意げに笑う私に、おばあちゃんはパチパチと拍手してくれる。
「明日はもっと長い水のトンネルに挑戦しようかね」
私の魔法の出来栄えに満足げに笑って、おばあちゃんは昨日のように杓子で水を汲み虹の雨を降らせた、その時だった。
「ねえ、なんでよ、母さん!!」
その声に、私もおばあちゃんもハッとして振り返る。
家の方向で腕を組み、仁王立ちになってこちらを睨んでいるママがいた。
まるで頭に角でも生えてそうな怖い顔をしていて、ヒッと私は首をすくめた。
「キラリには魔法のこと、教えないでって言ったでしょう?」
「違うの、ママ! 私が教えてって、そう言ったの」
「キラリは黙ってて! これは、私とおばあちゃんの問題! 内緒にしてたらバレないからって、そう思った? ひどいよ、母さん」
ママの言葉におばあちゃんは、グッと唇をかみしめて。
「希帆、私もあんたに話がある。なんのことか、わかってるね? だけど、今は一先ず朝ごはんの支度だ」
怖い顔でママを見ていた。
初めて会ったあの日、ママに向けていた険しい顔のようだった。
「わかったわ。それじゃあ、後で。先に戻ってる」
「ママ!!」
慌ててママに追いついて、横に並ぶ。
「ママ、ごめんなさい、だけど私ね」
「キラリ、魔法は今日で止めて? ママが心配になる理由わかってるでしょ? おばあちゃんから、ママが魔法を止めた理由聞いてるでしょ?」
「でも、」
「東京に戻ったら、魔法の修行なんかできないの。勉強だって必死にしなきゃ、もう元の学校のレベルについていけてないかもしれないのよ。後、一か月もしたら今まで通りの生活になるの、わかってるわよね?」
何も言えなかったのは、私の手を握ったママの指が骨ばっていて少し痛くて。
心までその痛みで抑え込まれてしまった気がしたからだ。
「キラリちゃん?」
マンボウの水槽前で立ち止まり、ボーっとしていた私は沢田さんの声で引き戻された。
「今日はやっぱり元気ないよね?」
本日、何度目かの沢田さんの心配そうな顔に私は俯いて、ようやく口を開いた。
「ママとケンカしたの」
「だと思った。だって、希帆さんも元気なかったし」
朝、迎えに来てくれた沢田さんの車に乗り込む私を見送ってくれたママ。
『キラリのこと、よろしくね』とだけ呟いて手を振っていた。
私はママの目を見ることもなく、椅子に深く腰掛けて車が発進するまで足元を見ていた。
「ケンカの理由は?」
「私とおばあちゃんがママに内緒にしてたことがバレちゃって」
「そっか、でも、キラリちゃんだってもう中学生だし、親に内緒の一つや二つあってもいいじゃんね? あ、ボクがそう言ってたってのはここだけの話にしてね? キラリちゃんを甘やかすなって、希帆さん怒りそうだし」
「うん、秘密にしとこ。ママが怒ると面倒だし」
ママの性格をわかっている者同士にしかわからない妙な結束力だ。
「寂しかったのかもよ? キラリちゃんとおばあちゃんだけが仲良くなっちゃって」
「へ?」
「ほら、ずっとおばあちゃんと希帆さんはケンカしてたって聞いてたからさ。自分とはケンカするくせに、なんでキラリちゃんとは仲がいいのか、って思ってそうじゃない? で、キラリちゃんにヤキモチ妬いたのかもよ? 案外子供っぽいとこあるから希帆さん」
夕べ真ん中を陣取ったママの姿をふと思い出す。
「あのね希帆さん、病院でずっと言ってた。退院して体力戻ったら、時々実家に顔出すことにするって。ずっとケンカしてたのに、キラリちゃんのこと見てくれて感謝してるって。おばあちゃんと十年以上ぶりに話せて良かった、って何度も言ってて。だけど、もっと早く帰るべきだった、っておじいちゃんのことを悔やんでた」
床の間に布団を敷いた理由も、そのせいだったのかもしれない。
「親子だしケンカすることもあるとは思う。でも必ず最後は仲直りしてあげてね。次の治療を希帆さんが頑張れるためにも、ね?」
お願い、と手を合わせて申し訳なさそうに笑う沢田さんはズルイ。
私に折れてあげてほしいと頼んでいるのだもの。
しかも、そんな言い方されたら断れっこない。
「……ソフトクリームが食べたいなあ」
「もちろん! 何個でも食べて?」
「お腹壊すよ」
私の冗談に、沢田さんはプッと噴き出した。
1
あなたにおすすめの小説
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
ハピネコは、ニャアと笑う
東 里胡
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞受賞
目が覚めたら昨日だった。知ってる会話、見覚えのあるニュース。
二度目の今日を迎えた小学五年生のメイのもとに、空から黒ネコが落ちてきた。
人間の言葉を話し魔法を使える自称ハッピーネコのチロル。
彼は西暦2200年の未来から、逃げ出した友達ハピネコのアイルの後を追って、現代にやってきたという。
ハピネコとは、人間を幸せにするために存在する半分AIのネコ。
そのため、幸せの押し付けをするチロルに、メイは疑問を投げかける。
「幸せって、みんなそれぞれ違うでしょ? それに、誰かにしてもらうものじゃない」
「じゃあ、ボクはどうしたらいいの? メイのことを幸せにできないの?」
だけど、チロルにはどうしても人間を幸せにしなければいけないハピネコとしての使命があって……。
幼なじみのヒューガ、メイのことを嫌うミサキちゃんを巻き込みながら、チロルの友達アイルを探す日々の中で、メイ自身も幸せについて、友達について考えていく。
表紙はイラストAC様よりお借りしました。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる