魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

文字の大きさ
40 / 53
七月二十日水曜日~晴れのち大荒れ「夏休み前半」

夏休み前半⑥

しおりを挟む
 沢田さんの提案で、ママとおばあちゃんにお土産を買う。
 ママには水族館オリジナルのバンダナを三枚、おばあちゃんには色んな石がついた涼し気なブレスレット。
 今朝と夕方、ノビルの散歩を一人で引き受けてくれたキラと、今日明日は会えないカノンとアンにはイルカのキーホルダーを色違いで買った。

「はい、キラリちゃんにも」

 車に乗ってから渡されたのは、シャチのぬいぐるみ。

「わー!! これ、実は欲しかったの! ありがとう、沢田さん」

 ふわふわなぬいぐるみをギュッと抱きしめたら沢田さんは嬉しそうに目を細めた。
 ようやく平和な気分になって家に帰ったというのに、玄関口には荷物を持ったママが座って待っていた。

「ママ? ただいま」
「キラリ、支度して? 東京に戻るから」
「え?」
「もうここには来ないの。早く、支度して? 今すぐ帰るから」
「なんで? ねえ、ママ?」

 車を止めてから追いついてきた沢田さんもママの怒っている姿に困惑している。

「希帆さん、落ちついて? 帰るのは明日でしょ?」
「もう、いいの! 今日は東京の家に泊まって、明日病院に戻る。保《たもつ》、その後はキラリのことお願いしてもいい? 普段は一人でも平気だとは思うけど、時々様子見に行ってもらえたら」
「バカなこと言ってんじゃないよ、帰るならあんた一人で帰りな、希帆」

 ママのヒステリックな声に業を煮やしたように、現れたおばあちゃん。
 ママの怒った顔にそっくりだった。

「沢田さんとか言ったかい? あんたに恨みがあるわけじゃないし、別に反対してるわけじゃない。だけどね? あんたら、今までキラリに何一つ言わないまま、私に先に挨拶しようだなんて、おかしな話だと思わないかい? まだ家族でもないのに、キラリの面倒見てもらおうだなんて、希帆、あんた言ってることメチャクチャだよ」
「え?」

 まだ、家族でもない、のに?
 その言葉の意味に、ふと見上げた沢田さんは申し訳なさそうにうつむいて。

「母さんには関係ないでしょ? 私たちの問題に首を突っ込まないで。それに、保は母さんよりもキラリと一緒にいた時間は長いの。母さん以上には家族だわ! さあ、キラリ、東京に帰ったらちゃんと話すから、まずは支度して」
「キラリ抜きで決めておいて、なにが私たちだよ。大体、あんたは昔から自分勝手すぎるんだよ」

 睨み合う、ママとおばあちゃんの様子に心臓がドキドキした。
 だけど、なんとなくママが言う『東京に帰ってから話したい事』が、沢田さんの困りきった様子からわかってしまった。

「ママ……、帰るならママと沢田さんだけで帰って」
「キラリ?」
「私、夏休みの間はおばあちゃんのところにいたい。それから、」

 ママと沢田さんの二人の顔を交互に見比べた。

「結婚するの? ママと沢田さん」

 しばらくの沈黙の後で、口を開いたのは沢田さんだった。

「希帆さんが病気だって知って、それからなんだ。ボクが希帆さんを支えたいってそう思って」
「キラリには、ちゃんと話そうって。だから今回一緒に来たの。ごめんね、やっぱり最初から話すべきだった、ごめん」

 二人の言葉に首を横に振った。

「別に結婚してもいいよ、沢田さんはいい人だし、ママもきっと幸せになれる。でも、そこに私はいらないと思う。だって、私がずっと千葉にいてママに会えない時も、沢田さんはお見舞いに行ってたんでしょ? ママだって沢田さんがいればそれでいいんじゃない?」
「キラリ!!」

 立ち上がったママが震える手で私の頬を叩こうとして、沢田さんがそれを止めた。

「内緒にしてたこと怒ったの、ママの方じゃん? なのに自分も大事なこと秘密にしてたくせに! 私やおばあちゃんを怒るのおかしいよ! ママなんか大嫌い! 今日一緒にいたくせに、何も教えてくれなかった沢田さんも大嫌い。二人とも早く東京に帰ってよ!!」
「キラリ、待ちなさい、キラリ!!」

 逃げるように自分の部屋へ駈け込んで背中で扉を抑えつけた。
 しばらく玄関先でおばあちゃんとママが言い争う声が聞こえてきて、静かになったあと、車が発進する音が聞こえた。

「キラリ? 寝てるのかい?」

 トントンと控えめなノックの音のあと、おばあちゃんの声が聞こえた。

「希帆は帰ったよ」

 その言葉にズキッと胸が痛む。
 ほら、やっぱり、ママは私じゃなくて沢田さんを選んだんだ。

「おばあちゃん……」

 ギイっと開けたドアの前でおばあちゃんは私を待っていてくれた。

「ここにいたらいい。気の済むまで、ずっと」

 その優しい声にすがるように、おばあちゃんに抱きついて声をあげて私は泣いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

ハピネコは、ニャアと笑う

東 里胡
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞受賞 目が覚めたら昨日だった。知ってる会話、見覚えのあるニュース。 二度目の今日を迎えた小学五年生のメイのもとに、空から黒ネコが落ちてきた。 人間の言葉を話し魔法を使える自称ハッピーネコのチロル。 彼は西暦2200年の未来から、逃げ出した友達ハピネコのアイルの後を追って、現代にやってきたという。 ハピネコとは、人間を幸せにするために存在する半分AIのネコ。 そのため、幸せの押し付けをするチロルに、メイは疑問を投げかける。 「幸せって、みんなそれぞれ違うでしょ? それに、誰かにしてもらうものじゃない」 「じゃあ、ボクはどうしたらいいの? メイのことを幸せにできないの?」 だけど、チロルにはどうしても人間を幸せにしなければいけないハピネコとしての使命があって……。 幼なじみのヒューガ、メイのことを嫌うミサキちゃんを巻き込みながら、チロルの友達アイルを探す日々の中で、メイ自身も幸せについて、友達について考えていく。 表紙はイラストAC様よりお借りしました。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...