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八月五日金曜日~長雨のち「夏休み後半」
夏休み後半⑤
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夜になると、近所の人も炭火のいい匂いに釣られてやってくる。
顔も知らない人が縁側に腰かけていて、でも向こうはなぜか私のことを知っている。
この辺りの人は、皆そんな感じだ。
「希帆ちゃんに似て美人じゃないか、なあ真希さん」
知らない酔っ払いのオジさんに。
「違うよ、希帆じゃなくて私に似て美人なんだよ」
おばあちゃんは、豪快にスペアリブに塩コショウを振りながら笑う。
そろそろお肉に飽きた中学生チーム四人は、スイカを頬張った後で花火を始めた。
「ねえ」
「なに? キラリ」
「ビックリするかもしんないけど、私手持ち花火って初めてなの」
「「「は!?」」」
三人は驚き過ぎて無表情のまま、私の顔を見ている。
「あ、あの、違うの。貧乏だからできなかった、とかじゃないの。近くにやれるような公園がなかったの。火気厳禁なとこばかりで。だから、こうやって手で持った花火、すっごく憧れてたんだ」
チリチリと棒の先で明るい華を咲かせては、小さくなってシュボッと消える。
その繰り返しだけど、毎回灯る華の色や大きさが違っていて、とっても楽しい。
「キラリ、全部やっていいよ?」
アンが哀れむような表情で、自分の手に持っていた花火を私に差し出す。
「え!? ちょ、恵んでくれなくていいから!! そういうのじゃないの! それに、皆でやるのが楽しいんだから!」
「キラリ、俺の分もやっていいぞ」
「ねえ、キラまで!? なんなの、一体!!」
ぶうっと口元を膨らませたら、皆が笑い出す。
こんな特別な夏、私は今まで経験したことがない。
ううん、夏だけじゃない。
おばあちゃんとの魔法修業も、学校も全部楽しい。
キラとノビルと散歩するのも楽しい。
アンやカノンと遊ぶのも楽しい。
帰りたくない……。
「キラリ? 花火、消えちゃってるよ?」
ぼんやり見つめていた花火の先が黒くなっても、動かない私にカノンが新しい花火を差し出してくれる。
「ありがと」
煙が目に染みたフリで顔をこすって、新しい花火に火をつけた。
アンの足が私のお腹に乗っかった痛みと重さで目が覚めた。
ピンクの水玉模様に裾にはリボンがほどこされた可愛いパジャマ姿なのに、お腹も出てるわ、寝相が悪い。
対するカノンは、学校の体操着で部屋の隅に小さくなって眠ってる。
あ、そうか、家でも妹二人と同じ部屋だと言っていたから、こんな眠り方なのかな?
ぼんやりと目覚めた時間を確認したら、朝五時。
おばあちゃんが畑に行く時間だ。
そっと起き上がり着替え、二人を起こさないようにして家を出る。
向かうのは、そう。
「おはよ、おばあちゃん」
私の声に振り返ったおばあちゃんは、なんだか眠そうな顔で畑仕事をしていた。
「おはよう、キラリ。アンちゃんやカノンちゃんはまだグッスリだろ?」
「うん、ごめんね? 夕べ遅くまで騒いじゃって」
「そうかい? おばあちゃんの部屋までは聞こえてなかったよ」
なんて、優しい嘘で笑う。
「あのね、おばあちゃん」
「なんだい?」
「魔法、止めなきゃダメかな?」
「キラリはどう? 止めたいのかい?」
私に構わずいつものルーティーンで虹色の雨を降らすおばあちゃんに、首を振る。
「魔法の修行、好きだよ。覚えるのは難しいけど使いこなせると嬉しいし。でも」
『キラリ、魔法は今日で止めて?』
ママの声をまた思い出す。
ママは普通の子を望んでる。
きちんとした進学校で勉強をして普通の大人になっていくことを、望んでる。
「キラリは、希帆の三分の一でいい。もっとワガママにおなり? 自分が何をしたいのか、どうしたいのか。魔法の修行を続けるにしろ、封印してしまうにしろ、キラリが決めなさい。希帆の言いなりになってしまったら、いずれ絶対後悔する」
おばあちゃんの言葉を噛みしめるようにして頷いた。
「おばあちゃんにはおばあちゃんの。希帆には希帆の。キラリにはキラリのそれぞれの人生があって。皆違っていいんだから」
籠いっぱいの野菜を抱えたおばあちゃんが私の肩を抱く。
「朝ごはん、なににしようかね? そろそろあの子たちもお腹が空いて起きるかもしれないね」
「二人ともきっとなんでも食べるよ、だって、おばあちゃんのお野菜美味しいんだもん」
お野菜を美味しく育てる魔法使いのおばあちゃん。
都会でバリバリ仕事をこなすママ。
私は? 私の人生って? 何をしたい? 何ができる?
顔も知らない人が縁側に腰かけていて、でも向こうはなぜか私のことを知っている。
この辺りの人は、皆そんな感じだ。
「希帆ちゃんに似て美人じゃないか、なあ真希さん」
知らない酔っ払いのオジさんに。
「違うよ、希帆じゃなくて私に似て美人なんだよ」
おばあちゃんは、豪快にスペアリブに塩コショウを振りながら笑う。
そろそろお肉に飽きた中学生チーム四人は、スイカを頬張った後で花火を始めた。
「ねえ」
「なに? キラリ」
「ビックリするかもしんないけど、私手持ち花火って初めてなの」
「「「は!?」」」
三人は驚き過ぎて無表情のまま、私の顔を見ている。
「あ、あの、違うの。貧乏だからできなかった、とかじゃないの。近くにやれるような公園がなかったの。火気厳禁なとこばかりで。だから、こうやって手で持った花火、すっごく憧れてたんだ」
チリチリと棒の先で明るい華を咲かせては、小さくなってシュボッと消える。
その繰り返しだけど、毎回灯る華の色や大きさが違っていて、とっても楽しい。
「キラリ、全部やっていいよ?」
アンが哀れむような表情で、自分の手に持っていた花火を私に差し出す。
「え!? ちょ、恵んでくれなくていいから!! そういうのじゃないの! それに、皆でやるのが楽しいんだから!」
「キラリ、俺の分もやっていいぞ」
「ねえ、キラまで!? なんなの、一体!!」
ぶうっと口元を膨らませたら、皆が笑い出す。
こんな特別な夏、私は今まで経験したことがない。
ううん、夏だけじゃない。
おばあちゃんとの魔法修業も、学校も全部楽しい。
キラとノビルと散歩するのも楽しい。
アンやカノンと遊ぶのも楽しい。
帰りたくない……。
「キラリ? 花火、消えちゃってるよ?」
ぼんやり見つめていた花火の先が黒くなっても、動かない私にカノンが新しい花火を差し出してくれる。
「ありがと」
煙が目に染みたフリで顔をこすって、新しい花火に火をつけた。
アンの足が私のお腹に乗っかった痛みと重さで目が覚めた。
ピンクの水玉模様に裾にはリボンがほどこされた可愛いパジャマ姿なのに、お腹も出てるわ、寝相が悪い。
対するカノンは、学校の体操着で部屋の隅に小さくなって眠ってる。
あ、そうか、家でも妹二人と同じ部屋だと言っていたから、こんな眠り方なのかな?
ぼんやりと目覚めた時間を確認したら、朝五時。
おばあちゃんが畑に行く時間だ。
そっと起き上がり着替え、二人を起こさないようにして家を出る。
向かうのは、そう。
「おはよ、おばあちゃん」
私の声に振り返ったおばあちゃんは、なんだか眠そうな顔で畑仕事をしていた。
「おはよう、キラリ。アンちゃんやカノンちゃんはまだグッスリだろ?」
「うん、ごめんね? 夕べ遅くまで騒いじゃって」
「そうかい? おばあちゃんの部屋までは聞こえてなかったよ」
なんて、優しい嘘で笑う。
「あのね、おばあちゃん」
「なんだい?」
「魔法、止めなきゃダメかな?」
「キラリはどう? 止めたいのかい?」
私に構わずいつものルーティーンで虹色の雨を降らすおばあちゃんに、首を振る。
「魔法の修行、好きだよ。覚えるのは難しいけど使いこなせると嬉しいし。でも」
『キラリ、魔法は今日で止めて?』
ママの声をまた思い出す。
ママは普通の子を望んでる。
きちんとした進学校で勉強をして普通の大人になっていくことを、望んでる。
「キラリは、希帆の三分の一でいい。もっとワガママにおなり? 自分が何をしたいのか、どうしたいのか。魔法の修行を続けるにしろ、封印してしまうにしろ、キラリが決めなさい。希帆の言いなりになってしまったら、いずれ絶対後悔する」
おばあちゃんの言葉を噛みしめるようにして頷いた。
「おばあちゃんにはおばあちゃんの。希帆には希帆の。キラリにはキラリのそれぞれの人生があって。皆違っていいんだから」
籠いっぱいの野菜を抱えたおばあちゃんが私の肩を抱く。
「朝ごはん、なににしようかね? そろそろあの子たちもお腹が空いて起きるかもしれないね」
「二人ともきっとなんでも食べるよ、だって、おばあちゃんのお野菜美味しいんだもん」
お野菜を美味しく育てる魔法使いのおばあちゃん。
都会でバリバリ仕事をこなすママ。
私は? 私の人生って? 何をしたい? 何ができる?
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