あきらめきれない恋をした

東 里胡

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*空人side*

空人の想い2

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「久しぶり」

 春香に指定されたファミレスは、以前二人で来たことのある場所だった。
 もう二度会わないと告げたはずの春香からの呼び出しは、『二宮のことで大事な話がある』ということだった。

「ごめん、待たせた?」
「ううん、暇だったから先に着いてただけよ。何か食べる?」
「いや、飲み物だけ」

 二宮のことって何だろう?
 春香に連絡をもらってから頭の中はそればかりだった。

「この間ね、二宮さんのとこにお見舞いに行ってきたの」

 意外だった。
 二宮を助けたのが春香だったことも。
 だって春香は二宮のことが嫌いだったはずなのに。

「元気、そうだった?」

 メッセージでのやり取りしかしてなかったから、二宮の容態が知りたい。
 入院初日に少しだけ会ったきりだったから。

「元気そう、ではなかったな。やつれてた、ずっと高熱が続いてたみたいで体力消耗しちゃってる感じよ」
「そうなんだ」
「わっかりやすい」
「え?」
「空人ってば二宮さんの話になると前々からそうなるよね、ソワソワしちゃってる」

 同じこと前にも言われた。
 確か春香がお祭りで二宮を叩いた日のことだ。
 その時の春香は泣きながら怒っていたというのに、今日は呆れたように笑っている。

「心配?」
「そりゃ」
「友達として?」

 驚いて春香を見たら、クスクス笑いだして。

「空人が二宮さんのこと好きだって言ってくれてたら、私だってとっとと諦めてあげてたわよ」

 なんで言わないのよ、と顔をしかめてベエッと舌を出す春香。
 いつも美人で優しくて、だからこんな顔もするんだって今日初めて知った気がする。

「二宮さんから、遺言みたいなの預かってる」
「は!?」
「まあ、伝言というか私への依頼よね、言い方が悪かった。ゴメンゴメン」

 焦る俺に春香はおかまいなしのようだ。
 春香なりの冗談のつもりなのかもしれないけれど、今は全然笑えないって。

「あのね、『春香先輩が、はーちゃんでいてほしい』だって」
「それって!?」
「うん、気付いているでしょ、空人だって。はーちゃんは、二宮さんだってこと」
「二宮はなんて?」
「違うって言い張ってる、でも私証拠集めてきたんだから」

 証拠?
 二宮が『はーちゃん』である証拠?

「二宮さんがその話をした日、看護師の佐々木さんのとこに、帰りに寄ってきたの。あの日、病院を脱走したのが二宮さんだってことは間違いないみたい、大雪の日だって言ってた」
「うん、……多分、二宮だと思う」

 二宮じゃないかって、ずっと思っていた。
 手術が怖いと泣いてばかりだった俺を、いつも励ましてくれたあの子。
 神様にお願いしてきたんだよ、だから絶対大丈夫。
 空ちゃんには神様がついてるんだからね、って笑って。
 このお守りを渡してくれたあの笑顔。
 二宮じゃないか、どう考えたって二宮だ。
 ポケットの中のお守りをギュッと握りしめた。

「なんで二宮は春香にそんなことを頼んだんだろう……」
「私さっきまで二宮さんのお家に行ってたの。もう一つ確かめたいことがあって」

 確かめたいことって、一体?
 真剣な目をした春香が長い話を始める決意を固めたようにジュースを半分飲み干した。

「空人にとっては、少し辛い話になるかもしれない。だけどね、逃げないで。聞いた上で、理解した上で、二宮さんに向き合ってほしい」

 ポツリポツリと語り出したのは、あの日。
 俺が手術室に入った後の『はーちゃん』の話だった。
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