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第四章 許されないことだとしても
4-9
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「随分宵の肩を持つよね? 紅は」
宵を見送った後も尚家に残る碧に温かいお茶を淹れ直して、私は宵のカップを洗っていた。
「どういう意味?」
水きり籠にカップを置き自分の分のお茶を淹れて碧の正面に座る。
今日は一日中機嫌が悪く引っかかるような言い方ばかりするから何だか私も売られたケンカを買っているような、つっけんどんな話し方になってしまっていた。
「宵は紅が刑期を終えるのを待つつもりはないよ、きっと」
「碧、ハッキリ言ってよ、さっきからずっと気持ち悪い。ちゃんと話して欲しい」
奥歯に物が挟まっているような、もどかしさに私も痺れを切らす。
今日の碧の機嫌の悪さにそれが関係しているのだろう。
「宵が言わないことを俺が言うのはどうかと思っていたのだけれど」
碧の顔色が浮かない、それはきっとあまり良くない話だ。
「アイツが紅との契約を結んだら黒の一族に紅の能力『時間を巻き戻す力』を感染させられる、その話はしたよね?」
「うん」
覚えている、絶対に嫌だって言った日のことも。
「黒の一族全部を感染させられる能力を持っているのは極わずかだよ。宵だからできる」
宵だから?
首を傾げた私に碧はどう説明したらいいのか一瞬考えていたけれど、ふうっとため息をつき一気に説明してくれた。
「一族の中でも一番能力が高い血筋、つまり黒の長の一の息子が宵だから」
「だから、宵が選ばれてココに送られてきたの?」
「そう。それからこれは最近になってようやくわかってきたこと。黒には黒の急いでる理由があったんだ、ずっと隠していた事実をようやく暴いた」
暴く、という言い方がとても恐ろしいものに感じる。
まるで犯罪でも隠しているようで、私の知らない世界がとても物騒なものに思えた。
碧だって、宵だって、その世界の一員であり、私にもその血は入っているけれど、私には知らない場所のことだから怖さを感じる。
「隠してたことって、なに?」
「黒の長は実はもうとっくにこの世にはいないらしい」
いない、ってそれって、もしかして……。
「宵のお父さんが亡くなっているってこと?」
「そうみたいだ。だけど黒一族の不安を招かないように極一部しかそれは知らないとか。表向きは何も知らない一族のために影武者が、でも裏では既に宵が一族をまとめているらしいよ」
昔の日本や中国でもあったらしい、権力者が亡くなったのを知らせずに混乱を防ぐために時を稼ぐこと。
まだ十六歳の宵が、それを背負っているというの?
「いつ頃なの? 宵のお父さんが亡くなったのって」
「宵が俺たちの前に初めて現れた頃だね」
初めて会った日の宵の荒々しさは今とは別人のようだった。
私のことなんかただの赤の血筋を持つ者として、優しさ何か微塵も感じない身勝手な人に思えた。
あれはお父さんを亡くした寂しさ悲しさ?
背負った業の重さに抗えない腹立たしさからだった?
「アイツは一刻も早く紅を時空界へと引き込みたいんだ、だからさっきみたいに軽い誘いにだって絶対に乗っちゃダメだ。わかるよね?」
さっき碧があんなにも冷たい話し方をしていたのが自分を守るためだったことをようやく理解して頷いた、だけど。
「宵とは行かない、絶対に。まだきちんと決めてるわけじゃないけれど、私はここに残りたいから。ただ」
「ただ?」
その先を説明しようとすると、それはただの嫉妬になりそうで、言いたいことを飲み込んでしまった。
だって、碧には実のお父さんも育てのお父さんもいるでしょ?
私や宵にはもう父はいない。
自分の父親のことを知ってからか、宵の気持ちにシンクロをしてしまう自分がいる。
碧だって育てのお母さんを亡くした寂しさは知っているでしょう?
「ただ、友達ではいたいと思う、宵と」
私の気持ちの全てなんか碧には伝わってないし、きっと伝えられない。
「……、勝手にどうぞ」
碧のため息と冷たい視線は見ぬふりをした。
宵を見送った後も尚家に残る碧に温かいお茶を淹れ直して、私は宵のカップを洗っていた。
「どういう意味?」
水きり籠にカップを置き自分の分のお茶を淹れて碧の正面に座る。
今日は一日中機嫌が悪く引っかかるような言い方ばかりするから何だか私も売られたケンカを買っているような、つっけんどんな話し方になってしまっていた。
「宵は紅が刑期を終えるのを待つつもりはないよ、きっと」
「碧、ハッキリ言ってよ、さっきからずっと気持ち悪い。ちゃんと話して欲しい」
奥歯に物が挟まっているような、もどかしさに私も痺れを切らす。
今日の碧の機嫌の悪さにそれが関係しているのだろう。
「宵が言わないことを俺が言うのはどうかと思っていたのだけれど」
碧の顔色が浮かない、それはきっとあまり良くない話だ。
「アイツが紅との契約を結んだら黒の一族に紅の能力『時間を巻き戻す力』を感染させられる、その話はしたよね?」
「うん」
覚えている、絶対に嫌だって言った日のことも。
「黒の一族全部を感染させられる能力を持っているのは極わずかだよ。宵だからできる」
宵だから?
首を傾げた私に碧はどう説明したらいいのか一瞬考えていたけれど、ふうっとため息をつき一気に説明してくれた。
「一族の中でも一番能力が高い血筋、つまり黒の長の一の息子が宵だから」
「だから、宵が選ばれてココに送られてきたの?」
「そう。それからこれは最近になってようやくわかってきたこと。黒には黒の急いでる理由があったんだ、ずっと隠していた事実をようやく暴いた」
暴く、という言い方がとても恐ろしいものに感じる。
まるで犯罪でも隠しているようで、私の知らない世界がとても物騒なものに思えた。
碧だって、宵だって、その世界の一員であり、私にもその血は入っているけれど、私には知らない場所のことだから怖さを感じる。
「隠してたことって、なに?」
「黒の長は実はもうとっくにこの世にはいないらしい」
いない、ってそれって、もしかして……。
「宵のお父さんが亡くなっているってこと?」
「そうみたいだ。だけど黒一族の不安を招かないように極一部しかそれは知らないとか。表向きは何も知らない一族のために影武者が、でも裏では既に宵が一族をまとめているらしいよ」
昔の日本や中国でもあったらしい、権力者が亡くなったのを知らせずに混乱を防ぐために時を稼ぐこと。
まだ十六歳の宵が、それを背負っているというの?
「いつ頃なの? 宵のお父さんが亡くなったのって」
「宵が俺たちの前に初めて現れた頃だね」
初めて会った日の宵の荒々しさは今とは別人のようだった。
私のことなんかただの赤の血筋を持つ者として、優しさ何か微塵も感じない身勝手な人に思えた。
あれはお父さんを亡くした寂しさ悲しさ?
背負った業の重さに抗えない腹立たしさからだった?
「アイツは一刻も早く紅を時空界へと引き込みたいんだ、だからさっきみたいに軽い誘いにだって絶対に乗っちゃダメだ。わかるよね?」
さっき碧があんなにも冷たい話し方をしていたのが自分を守るためだったことをようやく理解して頷いた、だけど。
「宵とは行かない、絶対に。まだきちんと決めてるわけじゃないけれど、私はここに残りたいから。ただ」
「ただ?」
その先を説明しようとすると、それはただの嫉妬になりそうで、言いたいことを飲み込んでしまった。
だって、碧には実のお父さんも育てのお父さんもいるでしょ?
私や宵にはもう父はいない。
自分の父親のことを知ってからか、宵の気持ちにシンクロをしてしまう自分がいる。
碧だって育てのお母さんを亡くした寂しさは知っているでしょう?
「ただ、友達ではいたいと思う、宵と」
私の気持ちの全てなんか碧には伝わってないし、きっと伝えられない。
「……、勝手にどうぞ」
碧のため息と冷たい視線は見ぬふりをした。
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