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第五章
92話
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「よし、腹ごしらえも済んだから出発だ」
「「「おぉ!」」」
実は、出発しようとしたときに誰かの腹の虫が盛大に鳴ったのだ。
よくよく考えたら、早朝に狼に襲撃されてそのまま昼まで戦闘。そしてダンジョンに飛ばされた。
今日まだ1食も口にしていなかった。
それで、先ずは腹ごしらえからとなったのだ。
出入り口を出ると通路は割と広く、縦横は約6mくらいあり、十分戦闘可能だった。
俺は危険察知スキルを20m位まで広げて辺りを探っている。
今歩いている道は10m程先からカーブしており、先が見えない。たが、この道の先と思われる地点に赤い点がある。魔物だ。
大きさは高さ1m前後。横幅はあまりないように見えるが、複数いるようだ。
「ルーベンさん、この先に何かいます」
「そのようだな。俺の耳にも何かが動いている音が聞こえる」
音……ですか。そんな音全く聞こえないんだけど。
さすが犬族って事かな。
「ダンジョンで初の戦闘だ。何が起こるか分からねぇから油断するなよ」
「「おぉ」」
隊列を確認しながら進んでいると、向こうもこちら存在に気付いたようで、赤い点が近づいてきた。
直ぐに奥から魔物の声が聞こえてきた。
「ギギィ!」
「ギギギィ~!」
「来るぞ!どんな奴か分からねぇから無理に突っ込むなよ!」
俺達は歩く速度を落として前方を注視すると、カーブの先から小柄な人間が見えた。
「なんだありゃぁ。子供か?」
「ウソ……マジかよ」
二足歩行で身長1m。棍棒……と言うよりは木の棒を振り上げてこちらへ走ってきている。
その姿に思わず呟いてしまった。
実物は勿論見たことはないけど、前世のアニメなんかで見たことがある。それが三次元になって近づいてくるんだ。ついつい口に出てもしょうがないよね?
そいつの名はゴブリン。
「ドルテナ?お前あれを知ってるのか?」
「あ、いえ。あの、鑑定したら分かったんです。あのモン、じゃなかった。魔物はゴブリン。二足歩行ですけど魔物です」
横を歩いていたルイスがジト目で見てくるが、気付かないふりをして前を見据える。
俺が説明している間にゴブリンは目の前に迫っていた。
「ゴブリンって、あの昔話に出てくるあのゴブリンか?とりあえず俺らが攻撃を防いだらルイスとドルテナが攻撃しろ。ベンハミンとホスエは後方を警戒。挟み撃ちされないようにな!うぉりゃぁ!」
ー ガギィン ー
ゴブリンが振り下ろした棍棒をルーベンの盾が受け止めた。
攻撃が受け止められて動きが止まったところへ後ろにいるルイスが槍でゴブリンの喉を一突き。
喉から血を吹き出しながらそのゴブリンは動きを止めた。
俺もレオカディオの盾に攻撃を受け止められて動きを止めたゴブリンの頭へ銃弾を浴びせる。
ー タタタンッ ー
「レオ!この程度の相手なら前へ出るぞ!」
「おうよ!」
ゴブリン達の攻撃が問題なく受け止められる上にスピードも速くなく、2人にとっては敵ではなかった。
残りのゴブリンも直ぐに片付けられた。
「このゴブリンなら軽く倒せるな。でもとてもじゃないが食用にはならんか……。とりあえず魔石を探すか。手分けして魔石を取り出してくれ」
ルーベンがそう言うが、みんな二の足を踏んでいる。
「こいつの中から魔石を取り出すって……」
「見た目がちょっとな……」
そう。ゴブリンは魔物とはいえ、ぱっと見は人のようなのだ。
魔石を取り出すっと言うことは胸部を切り開いて心臓付近を探る必要があるが、何となく人間を相手にしているような気がしてしまい、二の足を踏んでしまっていた。
「この先もゴブリンが出てくるんだぞ。今のうちに慣れておかないと後が辛いぞ。ドルテナだってやってんだからな」
ルイスがゴブリンの胸部を切り開きながら皆に言った。
俺も自分が見た目人間のゴブリンに対してあまり忌避感がなかった事に驚いていた。
前世ではモンスターの代表格と言ってもいいようなゴブリンが、モンスター以外のモノに思えないってのもあるのかもな。
俺が躊躇なく胸部を切り開いて魔石を取り出した姿を見た皆は、あきらめ顔で作業に取りかかる。
「ところで、この死体はどうするんだ?とても食用にはなりそうにないし、かといってここで穴を掘って埋めるのも手間がかかる」
魔石を取り出している間、周りを警戒していたヴィクターがルーベンに聞いていた。
「先を急いでるんだ。そのままでいいだろう。これこら遭遇する魔物をイチイチ埋めていたらきりがないしな」
「そうだな。そうしよう。あ、そうだ!ドルテナ、すまないがゴブリンを1体アイテムボックスに入れて持って帰ってくれないか?ギルドや領主に報告するのに実物があった方がいいからな。これはギルドからの依頼になるから後で報酬も出す」
「わかりました。比較的原形をとどめている奴でいいですね?」
そう言ってルイス最初に倒したゴブリンをアイテムボックスに入れた。
「よし、進むぞ!」
その後、何度かゴブリンと先頭になるものの、全て前衛のルーベンとレオカディオによって屠られており、この2人以外はただ単に後を付いて歩くだけと言った、所謂金魚のフン状態だった。
「なぁなぁ、俺達こんなんでいいのか?さっきから魔石を取り出すことしかやってないんだが」
「別にいいんじゃね?安全に進めてるって事だろ?」
「いや、そうなんだが……。ほら、昔話でのダンジョンってよ、独特の見た目で強かったって話が殆どだろ?だから気合い入れてたのにこれじゃぁ肩すかしだぜ?」
「まぁな」
「なんだ、バリーとルイスは戦えないのが不満か?ならお前達が先頭をやるか?槍のお前達ならゴブリンの攻撃を受ける前に先手を打てるだろうしな」
前を歩くルーベンが振り返って提案してきた。
退屈とは言わないが暇だった2人はその提案を受け入れて先頭を歩き出した。
ダンジョン内の道が分からない俺達は、壁の左側に沿って歩いている。
こうすれば探索抜けを防ぐことができる。ただ時間はかかるが急がば回れってやつだ。
意気揚々と先頭を歩き出した2人だが、程なくして目的の物を見つけてしまった。
「……これってやっぱりそうだよな?」
「……だな」
そう。目の前に見えるものは下へ向かっている階段、俺達が探していたものだった。
「お前達持ってるな(笑)」
ルーベンが2人の肩を叩いて先に階段を降りていく。
俺やフレディもそれに続いて2人の横を通り過ぎて降りて行った。
「フレディさんはヒュペリトに向かうんですか?」
「いや、兄さんとも話したんだが、俺はダンジョン内で待機する方にしてもらった。イレネの為に残ってくれるなら俺が残らない理由がないだろ?」
それもそうか。妻を残して1人で帰れるわけないよな。
階段を降りると、俺達が転移させられた場所と同じような部屋に繋がっていた。
前方には先に進める出入り口が見える。
先に降りていたルーベンは右側の壁の側に立って足元を見ていた。
俺達もルーベンの方へ歩いて行くと、彼の足元に石の瓦礫が見えた。
「兄さん、もしかして……」
「あぁ、多分そうだろうな。この部屋に転移装置は見当たらない。あるのはあの出入り口とこの瓦礫だけだ。最初の部屋と同じと考えるとこれが元転移装置だろう」
うむぅと唸りながら足元を見ていたルーベンは皆を集めた。
「さてと、目的の階にやって来たわけだが、ここにも転移装置はなくこの石の瓦礫があるだけだ。これでは予定していたヒュペリトへの救援要請には行けん。この先も同じような状況の可能性もあるが、兎に角もう1階先に進んでみるぞ」
俺達は次の階に転移装置があることを祈って探索を続けることになった。
「「「おぉ!」」」
実は、出発しようとしたときに誰かの腹の虫が盛大に鳴ったのだ。
よくよく考えたら、早朝に狼に襲撃されてそのまま昼まで戦闘。そしてダンジョンに飛ばされた。
今日まだ1食も口にしていなかった。
それで、先ずは腹ごしらえからとなったのだ。
出入り口を出ると通路は割と広く、縦横は約6mくらいあり、十分戦闘可能だった。
俺は危険察知スキルを20m位まで広げて辺りを探っている。
今歩いている道は10m程先からカーブしており、先が見えない。たが、この道の先と思われる地点に赤い点がある。魔物だ。
大きさは高さ1m前後。横幅はあまりないように見えるが、複数いるようだ。
「ルーベンさん、この先に何かいます」
「そのようだな。俺の耳にも何かが動いている音が聞こえる」
音……ですか。そんな音全く聞こえないんだけど。
さすが犬族って事かな。
「ダンジョンで初の戦闘だ。何が起こるか分からねぇから油断するなよ」
「「おぉ」」
隊列を確認しながら進んでいると、向こうもこちら存在に気付いたようで、赤い点が近づいてきた。
直ぐに奥から魔物の声が聞こえてきた。
「ギギィ!」
「ギギギィ~!」
「来るぞ!どんな奴か分からねぇから無理に突っ込むなよ!」
俺達は歩く速度を落として前方を注視すると、カーブの先から小柄な人間が見えた。
「なんだありゃぁ。子供か?」
「ウソ……マジかよ」
二足歩行で身長1m。棍棒……と言うよりは木の棒を振り上げてこちらへ走ってきている。
その姿に思わず呟いてしまった。
実物は勿論見たことはないけど、前世のアニメなんかで見たことがある。それが三次元になって近づいてくるんだ。ついつい口に出てもしょうがないよね?
そいつの名はゴブリン。
「ドルテナ?お前あれを知ってるのか?」
「あ、いえ。あの、鑑定したら分かったんです。あのモン、じゃなかった。魔物はゴブリン。二足歩行ですけど魔物です」
横を歩いていたルイスがジト目で見てくるが、気付かないふりをして前を見据える。
俺が説明している間にゴブリンは目の前に迫っていた。
「ゴブリンって、あの昔話に出てくるあのゴブリンか?とりあえず俺らが攻撃を防いだらルイスとドルテナが攻撃しろ。ベンハミンとホスエは後方を警戒。挟み撃ちされないようにな!うぉりゃぁ!」
ー ガギィン ー
ゴブリンが振り下ろした棍棒をルーベンの盾が受け止めた。
攻撃が受け止められて動きが止まったところへ後ろにいるルイスが槍でゴブリンの喉を一突き。
喉から血を吹き出しながらそのゴブリンは動きを止めた。
俺もレオカディオの盾に攻撃を受け止められて動きを止めたゴブリンの頭へ銃弾を浴びせる。
ー タタタンッ ー
「レオ!この程度の相手なら前へ出るぞ!」
「おうよ!」
ゴブリン達の攻撃が問題なく受け止められる上にスピードも速くなく、2人にとっては敵ではなかった。
残りのゴブリンも直ぐに片付けられた。
「このゴブリンなら軽く倒せるな。でもとてもじゃないが食用にはならんか……。とりあえず魔石を探すか。手分けして魔石を取り出してくれ」
ルーベンがそう言うが、みんな二の足を踏んでいる。
「こいつの中から魔石を取り出すって……」
「見た目がちょっとな……」
そう。ゴブリンは魔物とはいえ、ぱっと見は人のようなのだ。
魔石を取り出すっと言うことは胸部を切り開いて心臓付近を探る必要があるが、何となく人間を相手にしているような気がしてしまい、二の足を踏んでしまっていた。
「この先もゴブリンが出てくるんだぞ。今のうちに慣れておかないと後が辛いぞ。ドルテナだってやってんだからな」
ルイスがゴブリンの胸部を切り開きながら皆に言った。
俺も自分が見た目人間のゴブリンに対してあまり忌避感がなかった事に驚いていた。
前世ではモンスターの代表格と言ってもいいようなゴブリンが、モンスター以外のモノに思えないってのもあるのかもな。
俺が躊躇なく胸部を切り開いて魔石を取り出した姿を見た皆は、あきらめ顔で作業に取りかかる。
「ところで、この死体はどうするんだ?とても食用にはなりそうにないし、かといってここで穴を掘って埋めるのも手間がかかる」
魔石を取り出している間、周りを警戒していたヴィクターがルーベンに聞いていた。
「先を急いでるんだ。そのままでいいだろう。これこら遭遇する魔物をイチイチ埋めていたらきりがないしな」
「そうだな。そうしよう。あ、そうだ!ドルテナ、すまないがゴブリンを1体アイテムボックスに入れて持って帰ってくれないか?ギルドや領主に報告するのに実物があった方がいいからな。これはギルドからの依頼になるから後で報酬も出す」
「わかりました。比較的原形をとどめている奴でいいですね?」
そう言ってルイス最初に倒したゴブリンをアイテムボックスに入れた。
「よし、進むぞ!」
その後、何度かゴブリンと先頭になるものの、全て前衛のルーベンとレオカディオによって屠られており、この2人以外はただ単に後を付いて歩くだけと言った、所謂金魚のフン状態だった。
「なぁなぁ、俺達こんなんでいいのか?さっきから魔石を取り出すことしかやってないんだが」
「別にいいんじゃね?安全に進めてるって事だろ?」
「いや、そうなんだが……。ほら、昔話でのダンジョンってよ、独特の見た目で強かったって話が殆どだろ?だから気合い入れてたのにこれじゃぁ肩すかしだぜ?」
「まぁな」
「なんだ、バリーとルイスは戦えないのが不満か?ならお前達が先頭をやるか?槍のお前達ならゴブリンの攻撃を受ける前に先手を打てるだろうしな」
前を歩くルーベンが振り返って提案してきた。
退屈とは言わないが暇だった2人はその提案を受け入れて先頭を歩き出した。
ダンジョン内の道が分からない俺達は、壁の左側に沿って歩いている。
こうすれば探索抜けを防ぐことができる。ただ時間はかかるが急がば回れってやつだ。
意気揚々と先頭を歩き出した2人だが、程なくして目的の物を見つけてしまった。
「……これってやっぱりそうだよな?」
「……だな」
そう。目の前に見えるものは下へ向かっている階段、俺達が探していたものだった。
「お前達持ってるな(笑)」
ルーベンが2人の肩を叩いて先に階段を降りていく。
俺やフレディもそれに続いて2人の横を通り過ぎて降りて行った。
「フレディさんはヒュペリトに向かうんですか?」
「いや、兄さんとも話したんだが、俺はダンジョン内で待機する方にしてもらった。イレネの為に残ってくれるなら俺が残らない理由がないだろ?」
それもそうか。妻を残して1人で帰れるわけないよな。
階段を降りると、俺達が転移させられた場所と同じような部屋に繋がっていた。
前方には先に進める出入り口が見える。
先に降りていたルーベンは右側の壁の側に立って足元を見ていた。
俺達もルーベンの方へ歩いて行くと、彼の足元に石の瓦礫が見えた。
「兄さん、もしかして……」
「あぁ、多分そうだろうな。この部屋に転移装置は見当たらない。あるのはあの出入り口とこの瓦礫だけだ。最初の部屋と同じと考えるとこれが元転移装置だろう」
うむぅと唸りながら足元を見ていたルーベンは皆を集めた。
「さてと、目的の階にやって来たわけだが、ここにも転移装置はなくこの石の瓦礫があるだけだ。これでは予定していたヒュペリトへの救援要請には行けん。この先も同じような状況の可能性もあるが、兎に角もう1階先に進んでみるぞ」
俺達は次の階に転移装置があることを祈って探索を続けることになった。
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