侯爵令嬢は悪役だったようです

Alice

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 その日は朝から家の空気が何となく違うのものに感じられた。皆がそわそわと落ち着きがない中、娘は普段どおりの落ち着いた様子で過ごしている。


 流石、王族の教育と言える優雅な仕草で紅茶の入ったカップを口に運んでいる。
 少し離れて紅茶を嗜む妻より美しいとはどういうことだ。


 執事より、到着するとの報せがあったので娘と共に出迎えた。







「ご多忙の中、お時間を割いて頂きありがとうございます」

「いえ、これも公務ですので、しかし先日のリリア様のお話は大変参考になりました。分類に見出しですか。文書整理が仕事の効率や機密文書の保管に関わると思いもしませんでした」
 

 応接間に案内する間、尚書局の担当者と成年にもならない娘が普通に会話をしているのだが、背後にいるこの娘は、どこまで王城の中に侵食しているのかと肝が冷える。
 わたしが望む結果であるが末恐ろしい。

 しかも何故か、近衛兵まで同行している。一体、何がこれから起こるのだろうか?






 応接間にお通しすると、妻のエメルダが立ち上がり挨拶を交わし、持て成そうとするがどちらも仕事との事で断られる。



「それで、誓約書とは一体何の誓約なのか?」
 
「リリア様からの話の後です」

「何故だ?娘は誓約書の内容を知らないと言っていたぞ」

「その通りです。誓約書はミランダ王妃殿下からの指示で作成しています」

「ではリリア、話があるなら言うがいい」

「はい、お父様」
 娘が立ち上がると、何故か近衛兵が近くに控える。




「まず、お父様とお母様が期待していると思われます援助は、王家は一切致しません」

「何を言うのだ!」

「最初から取り交わした契約でもありませんのに、わたくしがレオンハルト殿下の婚約者だからと言って何故国庫や王族の私財をお渡ししなければなりませんの?」

「お前は何を言っているのか分からんのか?親に歯向かいおって!」
 怒りで頭に血が上りすぎて立ち上がり手を上げようとすると、近衛兵の一人が阻止をする。

「離さんか」

「いえ、王妃殿下よりリリア様に手を出す者は排除して構わないと仰せつかっております。これ以上の手出しは見過ごせません。お座り下さい」

 近衛兵の排除と言う言葉に妻も息子も顔を青ざめている。
 何故だ?こんな筈ではなかったのに。



「ヴェルザード家は今変わらないと衰退する一方でしょう。生活を維持する為に領地を守って下さる叔父様に頭を下げます?家の為に税をいつまで増やせるとお思いですか?ミランダ王妃様はヴェルザード家がわたくしに寄生するのであればいっその事籍を抜いて他家の養女にする事も視野に入れておいでです」


「お前は一体何を・・・」


「お父様、お母様、お兄様に変わっていただきたいのです。この家が砂のように脆くなっているのに何もしないお父様。本来家を守るべき役目を果たさず無駄に宝石やドレスを買い漁るお母様。努力を怠り使用人を手足のようにこき使うのが貴族と思いこんでいるお兄様。そろそろ現実に目を向けませんか?」


「リリアっ。貴女、何を言っているか分かってるの。父や母や兄に対して敬いもせず、いつもいつも冷静な顔で馬鹿にして」

 必要以上に娘に関わろうとしなかったエメルダが我慢に耐えかね叫んだが、一歩踏み出した近衛兵を見て口を閉じる。



「本当は、本当は王妃様からのご提案通りに籍を抜いてもらうなり王家預かりにしてもらえば良かったのです。今のヴェルザード家はわたくしの弱点になりますから。家族全員、甘言を信じて騙されてわたくしの不利になるのは見えてますもの。だけど」

 娘はわたし達家族の顔を一人ずつ見る。
 娘の困った顔を見た事が今まであっただろうか?




「家族ですもの。家族だからお諫めするのです。本音で話せるのは家族であったり恋人であったり大切な者でしょう。どうでもいい人間ならば放っておいて見捨ててしまえばいい」
 
 
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