侯爵令嬢は悪役だったようです

Alice

文字の大きさ
20 / 35

ヴェルザード家の下克上【ヴェルザード当主視点】

しおりを挟む
 娘のリリアがまさかレオンハルト殿下の婚約者の座を射止めるとは、ヴェルザード家の者は誰一人として信じていなかった。



 娘をけしかけた当主のわたしででさえ、王城に勤める貴族の誰かに万が一にでも子息の婚約者として見初めされたら儲けもの、その程度の考えである。



 リリアは侯爵家の娘としてではなくとも変り者で、綺麗なドレス、輝く宝石、刺繍を刺す事にも興味を示さず、侍女の話によると先祖が残した本や時々紛れ込む小動物を好み、料理について料理人に口を挟む事があるらしく、気が付くと調理場に居たなど奇行が多い。



  豪奢ごうしゃなドレスや数々の宝石に魅せられたヴェルザード夫人、つまり自分の母の輝かん限りに着飾った姿を見た時は「お母様はシャンデリアにでもなるおつもりですか?」と、幼いリリアが問いかけた事件の後から、母娘の関係は冷めきってている。

 


 しかも、リリアは兄とも仲が良くない。

 次期当主としての教育を学ぶ兄は、妹が使用人達と仲良く話すのが気にいらない。

 そうであろう、使う者と使われる者そもそも立場が違うのだ。
 兄が貴族としての自覚をもてと、説教しても気にとめず奇行を繰り返す。
 
 食事が何よりも大好きで部屋にこもる息子と、動いてばかりで落ち着きのない娘にどうして性別が逆ではなかったのかと悔やむ。




 どうした事か王妃に大変気に入られたらしく、わざわさ迎えに王家の紋章付きの馬車を寄越し、将来の王妃としての教育を王家で施させたり、選ばれたひと握りしか許されないサロンで王太子の婚約者として紹介し周知させる始末。
 あれに王族を騙す演技力があると思わんが、実際騙せているんだろう。


 それにしても、王太子の婚約者となったのだからと王家に何度も金銭の援助を申し込んでも音沙汰が無い。
 こちらで迎えの馬車も教育も王家で手配しているのに何故必要なのか?と突っぱねられ、最近では王妃のお茶会で着る為のドレスも王家で用意される。

 しかし、浪費癖のある妻に息子の食費は嵩むばかりで暮らしは楽ではないのだ。
 王子を射止めた娘を使って何が悪い。
 
 





「お父様、お話したい事があります。お時間を作って下さいませ」

 書斎に通された娘が珍しく自分から話し掛けてきた時、わたしは宝石の請求書に頭を抱えていた。

「今でもよかろう」
  話をする気分ではないが、娘の機嫌を損ねるのは得策でないのだ。今やこの娘が生命線になりつつあるのだから。


「今は無理ですわ。誓約書を交わすのに尚書局の方と同席が必要ですの。それに出来るならばお母様やお兄様にも同席して頂きたいのです」


「誓約書?」
 わたしの質問に対し、少しだけ困ったように眉尻を下げる。


「その内容に関してはわたくしも存じ上げないのです。ミランダ王妃様が作成させ、誓約を交わすようにと命じられただけですの」


「まぁ、子供に話す内容でもないのだろう。王妃殿下の命令ならばお待たせする訳にはいかぬ。こちらで調整致すので日時は王家側で決めていただこう」


「分かりました。尚書局の方からお父様にご連絡していただくようにお願いしておきます。それではそろそろ迎えが参りますので失礼します」







 娘が退室した後、ははっ、と隠しきれず歓喜の声が漏れる。
 交わす誓約書に思い当たる事はないが、もしかしたら打診し続けていた援助についてではなかろうか。
 娘の為にと懇願こんがんしたかいがある。
 手にしたこの請求書に苦しむ事はない。
 わたしだけでなく、妻や息子も同席させるのは証人としてだろう。



 
 待ち遠しい未来に心躍り、リリアが関わってまともに終えた事がなかった事をその時のわたしは喜びのあまり失念していたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は断罪後、物語の外で微笑む

あめとおと
恋愛
断罪され、国外追放となった悪役令嬢エレノア。 けれど彼女は、泣かなかった。 すべてを失ったはずのその瞬間、彼女を迎えに来たのは、 隣国最大商会の会頭であり、“共犯者”の青年だった。 これは、物語の舞台を降りた悪役令嬢が、 自由と恋、そして本当の幸せを手に入れるまでの、 ざまぁと甘さを少しだけ含んだショートショート。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

処理中です...