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ヴェルザード家の下克上【ヴェルザード当主視点】
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娘のリリアがまさかレオンハルト殿下の婚約者の座を射止めるとは、ヴェルザード家の者は誰一人として信じていなかった。
娘をけしかけた当主のわたしででさえ、王城に勤める貴族の誰かに万が一にでも子息の婚約者として見初めされたら儲けもの、その程度の考えである。
リリアは侯爵家の娘としてではなくとも変り者で、綺麗なドレス、輝く宝石、刺繍を刺す事にも興味を示さず、侍女の話によると先祖が残した本や時々紛れ込む小動物を好み、料理について料理人に口を挟む事があるらしく、気が付くと調理場に居たなど奇行が多い。
豪奢なドレスや数々の宝石に魅せられたヴェルザード夫人、つまり自分の母の輝かん限りに着飾った姿を見た時は「お母様はシャンデリアにでもなるおつもりですか?」と、幼いリリアが問いかけた事件の後から、母娘の関係は冷めきってている。
しかも、リリアは兄とも仲が良くない。
次期当主としての教育を学ぶ兄は、妹が使用人達と仲良く話すのが気にいらない。
そうであろう、使う者と使われる者そもそも立場が違うのだ。
兄が貴族としての自覚をもてと、説教しても気にとめず奇行を繰り返す。
食事が何よりも大好きで部屋に籠る息子と、動いてばかりで落ち着きのない娘にどうして性別が逆ではなかったのかと悔やむ。
どうした事か王妃に大変気に入られたらしく、わざわさ迎えに王家の紋章付きの馬車を寄越し、将来の王妃としての教育を王家で施させたり、選ばれたひと握りしか許されないサロンで王太子の婚約者として紹介し周知させる始末。
あれに王族を騙す演技力があると思わんが、実際騙せているんだろう。
それにしても、王太子の婚約者となったのだからと王家に何度も金銭の援助を申し込んでも音沙汰が無い。
こちらで迎えの馬車も教育も王家で手配しているのに何故必要なのか?と突っぱねられ、最近では王妃のお茶会で着る為のドレスも王家で用意される。
しかし、浪費癖のある妻に息子の食費は嵩むばかりで暮らしは楽ではないのだ。
王子を射止めた娘を使って何が悪い。
「お父様、お話したい事があります。お時間を作って下さいませ」
書斎に通された娘が珍しく自分から話し掛けてきた時、わたしは宝石の請求書に頭を抱えていた。
「今でもよかろう」
話をする気分ではないが、娘の機嫌を損ねるのは得策でないのだ。今やこの娘が生命線になりつつあるのだから。
「今は無理ですわ。誓約書を交わすのに尚書局の方と同席が必要ですの。それに出来るならばお母様やお兄様にも同席して頂きたいのです」
「誓約書?」
わたしの質問に対し、少しだけ困ったように眉尻を下げる。
「その内容に関してはわたくしも存じ上げないのです。ミランダ王妃様が作成させ、誓約を交わすようにと命じられただけですの」
「まぁ、子供に話す内容でもないのだろう。王妃殿下の命令ならばお待たせする訳にはいかぬ。こちらで調整致すので日時は王家側で決めていただこう」
「分かりました。尚書局の方からお父様にご連絡していただくようにお願いしておきます。それではそろそろ迎えが参りますので失礼します」
娘が退室した後、ははっ、と隠しきれず歓喜の声が漏れる。
交わす誓約書に思い当たる事はないが、もしかしたら打診し続けていた援助についてではなかろうか。
娘の為にと懇願したかいがある。
手にしたこの請求書に苦しむ事はない。
わたしだけでなく、妻や息子も同席させるのは証人としてだろう。
待ち遠しい未来に心躍り、リリアが関わってまともに終えた事がなかった事をその時のわたしは喜びのあまり失念していたのだった。
娘をけしかけた当主のわたしででさえ、王城に勤める貴族の誰かに万が一にでも子息の婚約者として見初めされたら儲けもの、その程度の考えである。
リリアは侯爵家の娘としてではなくとも変り者で、綺麗なドレス、輝く宝石、刺繍を刺す事にも興味を示さず、侍女の話によると先祖が残した本や時々紛れ込む小動物を好み、料理について料理人に口を挟む事があるらしく、気が付くと調理場に居たなど奇行が多い。
豪奢なドレスや数々の宝石に魅せられたヴェルザード夫人、つまり自分の母の輝かん限りに着飾った姿を見た時は「お母様はシャンデリアにでもなるおつもりですか?」と、幼いリリアが問いかけた事件の後から、母娘の関係は冷めきってている。
しかも、リリアは兄とも仲が良くない。
次期当主としての教育を学ぶ兄は、妹が使用人達と仲良く話すのが気にいらない。
そうであろう、使う者と使われる者そもそも立場が違うのだ。
兄が貴族としての自覚をもてと、説教しても気にとめず奇行を繰り返す。
食事が何よりも大好きで部屋に籠る息子と、動いてばかりで落ち着きのない娘にどうして性別が逆ではなかったのかと悔やむ。
どうした事か王妃に大変気に入られたらしく、わざわさ迎えに王家の紋章付きの馬車を寄越し、将来の王妃としての教育を王家で施させたり、選ばれたひと握りしか許されないサロンで王太子の婚約者として紹介し周知させる始末。
あれに王族を騙す演技力があると思わんが、実際騙せているんだろう。
それにしても、王太子の婚約者となったのだからと王家に何度も金銭の援助を申し込んでも音沙汰が無い。
こちらで迎えの馬車も教育も王家で手配しているのに何故必要なのか?と突っぱねられ、最近では王妃のお茶会で着る為のドレスも王家で用意される。
しかし、浪費癖のある妻に息子の食費は嵩むばかりで暮らしは楽ではないのだ。
王子を射止めた娘を使って何が悪い。
「お父様、お話したい事があります。お時間を作って下さいませ」
書斎に通された娘が珍しく自分から話し掛けてきた時、わたしは宝石の請求書に頭を抱えていた。
「今でもよかろう」
話をする気分ではないが、娘の機嫌を損ねるのは得策でないのだ。今やこの娘が生命線になりつつあるのだから。
「今は無理ですわ。誓約書を交わすのに尚書局の方と同席が必要ですの。それに出来るならばお母様やお兄様にも同席して頂きたいのです」
「誓約書?」
わたしの質問に対し、少しだけ困ったように眉尻を下げる。
「その内容に関してはわたくしも存じ上げないのです。ミランダ王妃様が作成させ、誓約を交わすようにと命じられただけですの」
「まぁ、子供に話す内容でもないのだろう。王妃殿下の命令ならばお待たせする訳にはいかぬ。こちらで調整致すので日時は王家側で決めていただこう」
「分かりました。尚書局の方からお父様にご連絡していただくようにお願いしておきます。それではそろそろ迎えが参りますので失礼します」
娘が退室した後、ははっ、と隠しきれず歓喜の声が漏れる。
交わす誓約書に思い当たる事はないが、もしかしたら打診し続けていた援助についてではなかろうか。
娘の為にと懇願したかいがある。
手にしたこの請求書に苦しむ事はない。
わたしだけでなく、妻や息子も同席させるのは証人としてだろう。
待ち遠しい未来に心躍り、リリアが関わってまともに終えた事がなかった事をその時のわたしは喜びのあまり失念していたのだった。
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