侯爵令嬢は悪役だったようです

Alice

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「ひっ」
 エメルダが怯えるのも無理はない。娘は異常だ。それなのに誰も止める事が出来ぬ。
 せめて近衛兵がいなければ何とか出来るのだ。



「お母様はドレスも宝石も買いすぎです。滞納した請求書がかさみ支出が収入を上回っています。このままでは今の生活水準も維持できません。お母様の為にもドレスと宝石を手放して支払いに充てていただきます」


「嫌よ。流行りのドレスや宝石がないと笑われますわ。社交界では必要な物よ。貴女は母に恥をかかせるのですか?」


「全て手放せとは言いません。お母様は多分心の病を患っております。治療の為にも必要ですわ」


「わたしが病気ですって?」


「ええ、医学に精通しておりませんので断言できませんが、買物依存症か他の心の病だと思われます。お母様は必要以上の宝石やドレスを買う事でご自分をお慰めしているのです。わたくしにはお母様の抱えているお辛さや寂しさはわかりません。ですが、真に美しい人は流行りのドレスや宝石などで誤魔化さなくても、自分の身一つで勝負出来るのではないでしょうか。お母様に必要なのは、外見ではなく内面から出る自信とご自分の気持ちをお話出来る方なのではないかとわたくしは思っております」


「自信?」


 娘はエメルダが避けている事もあり接する機会は少ない筈だ。
 勘違いしているのであろう。
 あれだけドレスや宝石に薔薇園など自慢ばかりの妻が自信がないわけなかろう。



「そうです。例えば、わたくしマナー教育にてカーテシーを教わっております。背筋に足の運びかたなど綺麗に見えるようになるにはそれなりの時間を費しました。披露すると皆様の目はドレスではなくわたくし自身に向けられます。流行りのドレスを来た女性ではなく、綺麗なカーテシーの出来る女性と皆様に評価されるのです。確かに流行取り入れるのも必要です。それはお母様は間違っておられません。ですが、言われるがまま流行をそのまま取り込むのではなく、流行を踏まえ自分らしさを演出できた方の方が素敵に見えると思います。後ほどお母様には個別でアレンジとリメイクと言うものをお話しますわ」


「わたし、カーテシー苦手よ。それに新しい宝石やドレスをお茶会や晩餐会で披露すると皆様、褒めて下さいます。今更やめられないわ」

 はぁ、と娘は溜息をつくとこちらに顔を向けて睨みつけてくる。わたしに関係はない。



「何となくですが、お母様のお辛い原因はやはりお父様にあるのではないでしょうか?請求書の件といい、お二人は大切なお話をされたりしてないのでは?それに、お父様は着飾ったお母様を褒めた事が無いのではと推測出来たのですが間違ってます?」

 大切な話?する必要ないだろう。ドレスをいちいち褒めるのか?



「そう言われてみたらそうなのかもしれないわ。もう忘れてしまった。そもそも政略結婚です。お互い愛が無い結婚ですのでそのようなものかと思っていたわ」


「最初は愛が無くとも言葉を交わすうちに良くも悪くもなれたのかもしれません。お父様とお母様はそこまでの関係にすら至ってないのではないですか。お母様はお父様に嫌われたくないのでしょうか?」

「・・・わからないわ。もう何もわからないの」


「・・・ではまず、お母様はお父様とわたくしにだけ思っている事を言葉にするようにして下さい。他の方には駄目です。カーテシーが苦手と言うならわたくしで良ければお教えします」


「・・・リリア。それでわたしは変われるの?」


「わかりません。でも変われたらと。今までの生活が変われば何かが変わると思いませんか」


「そう。例えばわたしが娘の貴女を可愛いと思っていないと言ってもいいのかしら」


「ええ、今更です。わたくしお母様に好かれようとしてきませんもの。この際、お父様に言っておきたいことはお有りですか?」

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