24 / 35
5
しおりを挟む
エメルダがわたしの顔に視線を一瞬投げかけた。
「・・・・・・わたしは貴方にとって・・・いえ」
「お母様、全てお父様が悪いのです。お父様はお母様もお兄様もわたくしも道具でしかないと思っているのです。道具なのだから愛情をかける必要がないと思っている。わたくし達には心があるという当たり前の事にも気づかない。それなのにお母様だけ気を使われるのですか?」
「でもわたし達は旦那様に逆らってはいけません」
「逆らうのではないです。素直な気持ちをお伝えするだけです。お父様もお母様の浪費の為の治療となれば許してくださいますよ。そうですよね、お父様?」
「あ?」
「お母様の治療の為にご協力下さいますよね」
これは問うような言い回しの決定事項だ。
この娘はエメルダの浪費癖を直す為に愚痴を聞けと言いたいのだ。
何故、わたしが小娘に指図されなくてはならないのだ。
この場に近衛兵さえいなければ。
「お父様が原因ですので。わたくし達は心を持った道具なのです。使いこなす者に技量がないからこのような結果が起きたのです」
まるで、能無しと言われたようだった。
気がつくと、殴りかかろうとして取り押さえられ拘束されていた。
それ程、頭に血が上っていた。
それなのに
「そういう所ですお父様」と娘は淡々と述べた。
「お父様は、我慢出来ず直ぐに感情を顕にされ貴族の割に腹芸も出来ない。ある言葉として「能ある鷹は爪を隠す」「虎視眈々」があります。強者は爪や牙など力を隠し相手が弱くなるのを待って力を振りかざすのです。それにわたくし達を道具として使うとしても飴と鞭を与えるなどをして調整するべきです。お父様は全て放置してご自分で何もなさらない」
「そんなことは無い」
「されていたら今の現状はありません。結果論ですが、やっているつもりなのです」
「そんなことは「ありますわ」
「エメルダ?」
「腹を立てて注意はされますが、基本的には無関心で何もしてくれませんわ。欲しい言葉一つ与えてくれなかったのです。わたしに魅力も愛情もなくても言葉をかけて欲しい時もあったのです。わたし達には貴方と同じ感情がありますの」
妻が、泣いていた。
初めて見た。
愛情がなくてもそれなりに過ごした時間に僅かな感情があったのか、泣く姿に罪悪感が湧いた。
「お父様にして頂くことは、お母様と会話をすること。これはただお話を聞くことではありません。お兄様の教育に力をいれ努力を認めること。後はご自分でよく考えて行動して下さい。以上です。お待たせ致しました。お見苦しい物をお見せしてしまいました。ノルン様、お手続きに移って下さいませ」
「お見苦しいなんて下手な観劇より楽しめました。本日の事は守秘義務があります故、我々も含め他言無用となります。漏洩はないとご安心下さい」
存在を消していた尚書局の役人、ノルンと呼ばれた男が前に出る。
誓約書の内容は、本日の事でリリアを罰したり害したりしないこと、リリアの話す内容を実行すること、これが守れないならばヴェルザード家の処遇を王家の判断に委ねること等であり、半ば強制的にサインを求められた。
この日、確かにヴェルザード家は変わったのだ。
「・・・・・・わたしは貴方にとって・・・いえ」
「お母様、全てお父様が悪いのです。お父様はお母様もお兄様もわたくしも道具でしかないと思っているのです。道具なのだから愛情をかける必要がないと思っている。わたくし達には心があるという当たり前の事にも気づかない。それなのにお母様だけ気を使われるのですか?」
「でもわたし達は旦那様に逆らってはいけません」
「逆らうのではないです。素直な気持ちをお伝えするだけです。お父様もお母様の浪費の為の治療となれば許してくださいますよ。そうですよね、お父様?」
「あ?」
「お母様の治療の為にご協力下さいますよね」
これは問うような言い回しの決定事項だ。
この娘はエメルダの浪費癖を直す為に愚痴を聞けと言いたいのだ。
何故、わたしが小娘に指図されなくてはならないのだ。
この場に近衛兵さえいなければ。
「お父様が原因ですので。わたくし達は心を持った道具なのです。使いこなす者に技量がないからこのような結果が起きたのです」
まるで、能無しと言われたようだった。
気がつくと、殴りかかろうとして取り押さえられ拘束されていた。
それ程、頭に血が上っていた。
それなのに
「そういう所ですお父様」と娘は淡々と述べた。
「お父様は、我慢出来ず直ぐに感情を顕にされ貴族の割に腹芸も出来ない。ある言葉として「能ある鷹は爪を隠す」「虎視眈々」があります。強者は爪や牙など力を隠し相手が弱くなるのを待って力を振りかざすのです。それにわたくし達を道具として使うとしても飴と鞭を与えるなどをして調整するべきです。お父様は全て放置してご自分で何もなさらない」
「そんなことは無い」
「されていたら今の現状はありません。結果論ですが、やっているつもりなのです」
「そんなことは「ありますわ」
「エメルダ?」
「腹を立てて注意はされますが、基本的には無関心で何もしてくれませんわ。欲しい言葉一つ与えてくれなかったのです。わたしに魅力も愛情もなくても言葉をかけて欲しい時もあったのです。わたし達には貴方と同じ感情がありますの」
妻が、泣いていた。
初めて見た。
愛情がなくてもそれなりに過ごした時間に僅かな感情があったのか、泣く姿に罪悪感が湧いた。
「お父様にして頂くことは、お母様と会話をすること。これはただお話を聞くことではありません。お兄様の教育に力をいれ努力を認めること。後はご自分でよく考えて行動して下さい。以上です。お待たせ致しました。お見苦しい物をお見せしてしまいました。ノルン様、お手続きに移って下さいませ」
「お見苦しいなんて下手な観劇より楽しめました。本日の事は守秘義務があります故、我々も含め他言無用となります。漏洩はないとご安心下さい」
存在を消していた尚書局の役人、ノルンと呼ばれた男が前に出る。
誓約書の内容は、本日の事でリリアを罰したり害したりしないこと、リリアの話す内容を実行すること、これが守れないならばヴェルザード家の処遇を王家の判断に委ねること等であり、半ば強制的にサインを求められた。
この日、確かにヴェルザード家は変わったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる