侯爵令嬢は悪役だったようです

Alice

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 エメルダがわたしの顔に視線を一瞬投げかけた。


「・・・・・・わたしは貴方にとって・・・いえ」


「お母様、全てお父様が悪いのです。お父様はお母様もお兄様もわたくしも道具でしかないと思っているのです。道具なのだから愛情をかける必要がないと思っている。わたくし達には心があるという当たり前の事にも気づかない。それなのにお母様だけ気を使われるのですか?」


「でもわたし達は旦那様に逆らってはいけません」


「逆らうのではないです。素直な気持ちをお伝えするだけです。お父様もお母様の浪費の為の治療となれば許してくださいますよ。そうですよね、お父様?」


「あ?」


「お母様の治療の為にご協力下さいますよね」


 これは問うような言い回しの決定事項だ。
 この娘はエメルダの浪費癖を直す為に愚痴を聞けと言いたいのだ。
  何故、わたしが小娘に指図されなくてはならないのだ。
 この場に近衛兵さえいなければ。




「お父様が原因ですので。わたくし達は心を持った道具なのです。使いこなす者に技量がないからこのような結果が起きたのです」
 まるで、能無しと言われたようだった。




 気がつくと、殴りかかろうとして取り押さえられ拘束されていた。
 それ程、頭に血が上っていた。


 それなのに
「そういう所ですお父様」と娘は淡々と述べた。


「お父様は、我慢出来ず直ぐに感情を顕にされ貴族の割に腹芸も出来ない。ある言葉として「能ある鷹は爪を隠す」「虎視眈々」があります。強者は爪や牙など力を隠し相手が弱くなるのを待って力を振りかざすのです。それにわたくし達を道具として使うとしても飴と鞭を与えるなどをして調整するべきです。お父様は全て放置してご自分で何もなさらない」


「そんなことは無い」


「されていたら今の現状はありません。結果論ですが、やっているつもりなのです」

「そんなことは「ありますわ」

「エメルダ?」


「腹を立てて注意はされますが、基本的には無関心で何もしてくれませんわ。欲しい言葉一つ与えてくれなかったのです。わたしに魅力も愛情もなくても言葉をかけて欲しい時もあったのです。わたし達には貴方と同じ感情がありますの」
 

 妻が、泣いていた。
 初めて見た。
 愛情がなくてもそれなりに過ごした時間に僅かな感情があったのか、泣く姿に罪悪感が湧いた。



「お父様にして頂くことは、お母様と会話をすること。これはただお話を聞くことではありません。お兄様の教育に力をいれ努力を認めること。後はご自分でよく考えて行動して下さい。以上です。お待たせ致しました。お見苦しい物をお見せしてしまいました。ノルン様、お手続きに移って下さいませ」



「お見苦しいなんて下手な観劇より楽しめました。本日の事は守秘義務があります故、我々も含め他言無用となります。漏洩はないとご安心下さい」

 存在を消していた尚書局の役人、ノルンと呼ばれた男が前に出る。



 誓約書の内容は、本日の事でリリアを罰したり害したりしないこと、リリアの話す内容を実行すること、これが守れないならばヴェルザード家の処遇を王家の判断に委ねること等であり、半ば強制的にサインを求められた。




 この日、確かにヴェルザード家は変わったのだ。





 
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