侯爵令嬢は悪役だったようです

Alice

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 宝石を売り払い、ドレスを加工して販売し、金の工面はついたので督促されていた支払いも完済。
 エドワードにも新たな教師をつけた。

 



 

 更に数年後、息子エドワードは舞踏会で一目を置かれる存在になる。体は締まり、ダンスの上手さに息子に誘われるのが年頃の令嬢にとってステータスとなりつつある。
 そして、男女見境なくやたらと人を褒めるのだ。
 使用人達に手を挙げることもなくなり、従者と普通に会話もする。
 当然評判も良く、見合いの申込が絶えない。
 以前は太り過ぎで閉じこもる事が多く、中々声がかからなかったのに今は選ぶのが大変になるとは思いもしなかった。


 妻のエメルダは、けばけばしいドレスも化粧も止めて見た目は清楚な印象を与えるようになるが、わたしには言いたい事を言うようになり気の合う友人も増えた。
 リリアの鬼のような指導により美しい所作を身につけてきている。


 あの後リリアの入れ知恵で、売れないドレスをリボンにして売り出すと人気商品となった。
 ただ、リボンにするだけならば当然売れる筈もないのだが、リリアの売り方が普通ではなかった。
 ドレスで作ったリボンを『魔法のリボン』として販売した。
 リボンは髪を飾るだけのものと思われていた。ブレスレット代わりにしたり、バックの手提げに結ばせたり。同じ柄で髪とバック、手首に合わせさせた。
 ドレスは無理でもリボンなら何とか購入できると平民から貴族までの一大流行を生む。
 しかもリリアはエメルダ考案としてお抱えの商会にアイデアを売り込んだ。

 結果的に収支は上がり、エメルダは色々な貴族の夫人のお茶会やパーティに誘われるようになる。必要以上宝石を身につけず残したドレスに手を加えて流行を取り入れつつもシンプルなドレスは好評で、更に自信に繋がった。
 今もリリアの入れ知恵でペットの衣装を作ろうとしている。とても売れると思えないが発案が娘のあたり売れてしまう未来を消すことが出来ない。
  妻は毎日が楽しそうで、よく笑うようになった。
 誓約という名で強いられたお互い探り探りの会話は、徐々に苦にならなくなり会話の時間を作る為に夜二人で過ごす時間が増えた。

 



 今や家族も使用人もリリアの味方であり娘の信者と化した。
 




 わたしは、変わっていく家族を見てきた。
 結果的に良かったが、決して順調ではなかった。
 エドワードは何度も挫けた。リリアが考案した菓子で釣っていた。菓子で釣れなくなると今度は全く与えなくなった。菓子が欲しいと駄々を捏ねる息子に欲しければ踊れ。このループで乗り切った。
 エメルダは不安になると直ぐに宝石を買おうと宝石商を呼びつけようとした。リリアと侍女が会話を誘導し気を逸らせたり、改造中の薔薇園や、紅茶と新しい菓子などで誤魔化した。買うなら消耗品にしろと、シーツや枕を選ばせていた事もあった。
 




 初めはやらせたところで変わるまいと思っていた。
 しかし、好転していく二人を見ていると次第に焦燥に駆られた。
 わたしに変化が感じられず、置いていかれるような気持ちにさせられたからだ。
 しかも、わたしに娘は特に指示を出す事はない。
 よく考えて行動しろと。
 



 今のわたしは感情を直ぐに出す事は少なくなった。
 突発的に出てしまう事は一生直らないだろう。元々そういう人間なのだから。
 ただ、よく考える為に相手を観察するようになった。
 どういう意図で何を言いたいのか。そうすると相手が挑発するようにわざと悪しげに言葉を選んでいたり、褒める言葉の中に侮辱が含まれていたりしていることに気づく。
 わたしは今まで上面だけの言葉に踊らされていたのだと。



 爪を隠し牙を隠す。
 相手が弱った時こそ好機。
 弱味を見せず、相手の弱味を探せ。
 相手を出し抜いた時の達成度は快感に似た幸福を与えてくれる。

 近くに手本もいる。
 ヴェルザード家で一番小さく弱いと思っていた娘にわたし達はあの日爪で捉えられ牙を向けられたのだ。
 

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