侯爵令嬢は悪役だったようです

Alice

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 使いを出して、ローズ・クローブさんを呼び出したのは、翌日の放課後。
 カフェテリアの奥の席を予約リザーブして、本を読みながら待つこと二十分。



 窓から木漏れ日が差し、春から夏へと移り変わるにつれ緑がより濃く感じられるようになりました。目を休める為にも庭を時折眺めます。






「あのぉ~リリア・ヴェルザード様ですかぁ~」

 同性からすると、媚びとも嘲りとも受け取れる間延びした声が降ってきます。




 顔を上げると、ピンクの髪に金色の瞳の少女と目が合います。
 随分と華奢で幼い印象で、このいちごポッキー体型が顔だけの高位貴族を惑わしているのかと意外に感じましたが、考え直すと納得出来ますわね。

 顔は可愛らしい童顔ですし、油断しやすそうですもの。
 一部の男性の庇護欲が掻き立てられるのでしょう。
 


 ただし、今のこの方の表情はニヤニヤと含み笑いをしてます。隠そうと口に手を当てておりますが目が弧を描いているのは隠せませんわよ。


 この方は自分から話かけてきましたけれど、それすら不敬とはご存知ないのでしょうか?
 それとも、わざと怒らせる為に挑発しているのかしら?
 
 



「そうです。お座りになって」

 感情を出さず、微笑を浮かべ着席を促すと、ローズさんは眉間に皺を寄せ、腑に落ちない顔で何か考えて始めましたわ。



 遅刻、なんで、そんな呟きを拾います。
 呟きと登場時の含み笑いから、わざと遅刻をして怒らせようとしたのでしょうか?
 怒らせたいという思惑に乗るべきか、乗らないべきか迷いましたが話が進まなくなるのは本末転倒ですので乗らないことにしましょう。
 
 
 


「ローズさん?ずっと立っていると疲れるでしょう。お座りになったら如何」

 考える時間を与えるのは愚策。
 主導権を握るのはわたくし。


「え?ああ、はい」


 こちらを伺う様に椅子に腰を下ろすと、探るような不躾な視線を寄越す。チラチラとわたくしを観察しているのでしょう。
 良い気分にはなりませんわね。


「ローズさんも、ご予定があるのでしょうから手短に話させて頂きますわね。その前に飲み物は何を飲みます?こちらがお呼びしたのですからお好きな物を頼んでくださいませ」

「・・・紅茶で」

「呼び鈴を鳴らして」

 この学園は貴族の子息子女しか通いませんので、自分達で食事を運ぶなんていたしません。
 侍女又は呼び鈴で店員を呼ぶのです。
 わたくし、呼び鈴鳴らしませんわよ。侍女は寮の部屋で待機させておりますのでローズさんが鳴らして下さい。
 
 

「わたくしはディンブラのミルクティーを注文します。ローズさんは?」

「は?え?何でもいいです」

「ではダージリンは如何?三大茶葉と言われておりますわよ。わたくしのようにミルクティーにするならアッサムのようなミルクに負けない茶葉をお勧めしますわ」

「ダージリンでいいです」

 紅茶を二人分注文し、読んでいた本に栞を挟む。
 
 


「ローズさんは何故、婚約者のいる男性とお近づきになるのかしら?」

「別にぃ、婚約者がいるなんて知らなかったんですぅ~。でも、婚約者がいるからって話すのも駄目なんておかしくないですかぁ?」

「わたくし、話すの駄目とは一言も言ってませんわよ。ですが会話するにも敬意が必要です。高位貴族に自分から話しかけるのは失礼にあたります。それを無視するのは相手を侮辱するのと同じですわ。婚約者がいるとローズさんにお伝えしていると殿下からお聞きしております。食事を一緒にするのに、同性のご友人や婚約者のいない方ではなくて、敢えて婚約者のいる男性なのかをお聞きしたいのです。殿下やシルヴェスト様達でなければならない理由をお持ちなのかしら?」

「別に理由なんてないですけどぉ」

「無いのなら近寄らないで下さらない?殿下にもローズさんにも良い影響にはなりませんもの。ローズさんが、婚約者のいる男性と仲良くすると周囲がローズさんを常識のない女性と見なしてしまいます。仲良くされるなら婚約者のいない方と交流した方がよろしいですわ。婚約すると言うのは個人ではなく両家が取り行うもの。そこに割り込むのは良くはありませんのよ。よく考えて欲しいの」


 何でしょう。
 この方、ニヤニヤしながらわたくしの話を聞いておりますわね。
 レオンハルト様が気味が悪いと仰られるお気持ちが理解出来ますわ。
 

 
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