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141.turnover①藤澤視点
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「なんでそんなにチョコチョコ関東にいるわけ?お前の住所は京都だろ?」
せっかく飲みに誘ってやったのに旧友Aこと吉岡は相変わらず口が悪い。それは今に始まった事ではないが、彼に言われた通り、俺は週末近くに都内に出張がある時は実家に立ち寄る事にしている。因みにここは横浜ではなく都心の俺たちの昔からの馴染みの店で、唯一横浜からくる吉岡には遠いとブーブー文句を言われる。だから、やっかみに近い言われ方をしていた。
「子供が生まれたんだよ」
「お前にか?!」
ここには先ほどまで俺たちの話を笑いながら聞いていた旧友Bこと田山も食いつく。本当に俺の旧友たちは、後先を考えないでモノを言うタイプで、俺と真逆のような気がする。そんな2人に呆れつつ。
「アホ。俺がいつ結婚したんだよ?生まれたのは弟の子!甥っ子!!それで顔を見せろと何かと理由をつけて実家に呼ばれるんだ」
海外転勤に戻ってきたら関西圏というなかなか落ち着かない放蕩息子の長男の代わりに、しっかりしている俺と年子の次男が結婚して、名実共に家を継いでくれた。その家庭にはすぐに子が生まれ、現在、うちの実家での最大の関心ごとといえば、この甥っ子。そのおかげで俺は自由きままにさせてもらっているので、弟家族には感謝してもしたりない。だから、実家に顔を出すくらいはなんてことはなかった。それに。
「...子供は可愛いしな」
思わず呟いてしまった言葉に、それを聞き逃さなかった吉岡が大きく頷く。
「だろ?甥っ子でそれなら自分の子はもっと可愛いぞ」
吉岡の家庭では、去年子供が生まれたばかり。だから、ここぞとばかりに携帯に保存してある子供の写真を自慢気に見せつけられる事があった。昔だったら見向きもしない子供の写真なのに最近の俺と田山は興味を持って見るようになっていたので、吉岡はそれに気を良くしていた。
「やっぱり、俺らも歳食ったよ。子供の写真を見るのに抵抗ないなんて。いい加減、お前らも落着けよな。自分の子供はもっと可愛いぞ」
確かに一理あるが既婚者というアドバンテージをかさに上から目線の発言には素直に頷けない。
だが、こういう時は独身の田山と俺が反論するには分が悪かった。
「...独身はたまたまだ。こんなのは出会いとタイミングだろ。なぁ、田山?」
ビールを飲みながら絡むように同じく独身の田山に同意を求めると、予想外にも「一緒にすんな」と小さく笑われてしまう。
「なんだよ、その意味深な笑いは!?」
俺が眉をひそめて怪訝な顔になると田山はシレッと会話に織り込んだのは。
「実はさ。俺、今年、結婚することになったんだ」
これは年明けすぐの話で、新年早々、俺と吉岡は驚きを隠せなかった。最初は田山の冗談かと思い、吉岡と2人で田山の顔を見る。すると、彼はよほど恥ずかしかったのか「結婚式には2人とも出てくれよな」と小さな小さな声で続けた。ここで、冗談じゃなく本当の話だと俺たちは悟ったのだ。
「いつ!?誰と!?っていうか、なんで今まで隠していたんだよ!?」
さっきまでしたり顔だった吉岡が興奮して矢継ぎ早に質問している間、俺はというと驚きすぎて目を見張ったまま。黙ってはいたものの吉岡と同じ気持ちには変わりない。同じ独身のわりには秘密主義で面倒臭がり屋の俺と違って、田山は異性関係においてオープンなタイプだった。学生時代からも、男には珍しく、寧ろ、話したくて仕方がない部類に入る。最近はその手の話をとんと聞く事がなかったので、仕事が忙しく、そちらの方はサッパリだと勝手に解釈していたのだが。
そんな開けっぴろげな男がいきなり結婚だと??
それは誰だって驚くだろう。
最初は後で相手の詳細を教えると一点張りしていた田山もしつこく聞く吉岡に最後は根負けして。
「同じ会社で同期の子で、藤澤も知っている」
「へ?」
急に振られて、こちらは誰のことだかさっぱり見当もつかなかった。
「俺はお前の会社の人間は1人も知らないぞ?」
「なんだよ、この後に及んで嘘つく気か?」
俺は即座に否定し、吉岡がやいのやいの文句を言って突っ込むと、田山は慌てて否定し、俺に助け舟を求める。
「藤澤ぁー、そんな誤解を招くようなこと言うなよ。俺が言っているのは前の会社のことだ」
そこでどの会社かだけは、ピンとくる。
「あぁ、営業部の時の。でも、お前の同期なんかいたか?」
それでも思い出せない俺に田山は流石に呆れ顔で。
「ほら、お前に頼んだ入社式の手伝いの時に一緒だった鈴木良子さんだよ」
「あー...」
頭の中で思い出そうとしたのだが、いかんせん、苗字が平凡すぎた。それに頼まれた入社式の手伝いといえば堅苦しい受付で、田山と新入社員の女性の値踏みをしていたような記憶しかなく。それでも思い出せずにギブアップすると、田山には皮肉とも取れる嫌味を言われた。
「わりと三浦さんとは仲よかったんだけど彼女の近くにいてもその程度かよ?お前は人の好みが極端すぎ。本当、その性格はどうにかしないと一生独身だぞ!」
「うるせーわ」
虚勢を張ってみたものの、田山の言うことはもっともだと思う。
結婚は、20代の時が1番真剣に真面目に考えた。
30代になってからは、あまり考えたことがない。
それどころか、急速に興味を失いつつある。
それは全て優里に起因していたからに他ならない。仕事に忙殺されることはあっても、彼女のことを完璧に忘れることはできなかった。
ただ、幸せにしてあげる自信がないまま、ずるずると俺は歳を重ねてしまった。
5年たった今ならそれなりの自信はできたが、その間に人の気持ちなんて不確かなものは簡単に移り変わる。
そんなの、最初から予想できていた...が。
せっかく飲みに誘ってやったのに旧友Aこと吉岡は相変わらず口が悪い。それは今に始まった事ではないが、彼に言われた通り、俺は週末近くに都内に出張がある時は実家に立ち寄る事にしている。因みにここは横浜ではなく都心の俺たちの昔からの馴染みの店で、唯一横浜からくる吉岡には遠いとブーブー文句を言われる。だから、やっかみに近い言われ方をしていた。
「子供が生まれたんだよ」
「お前にか?!」
ここには先ほどまで俺たちの話を笑いながら聞いていた旧友Bこと田山も食いつく。本当に俺の旧友たちは、後先を考えないでモノを言うタイプで、俺と真逆のような気がする。そんな2人に呆れつつ。
「アホ。俺がいつ結婚したんだよ?生まれたのは弟の子!甥っ子!!それで顔を見せろと何かと理由をつけて実家に呼ばれるんだ」
海外転勤に戻ってきたら関西圏というなかなか落ち着かない放蕩息子の長男の代わりに、しっかりしている俺と年子の次男が結婚して、名実共に家を継いでくれた。その家庭にはすぐに子が生まれ、現在、うちの実家での最大の関心ごとといえば、この甥っ子。そのおかげで俺は自由きままにさせてもらっているので、弟家族には感謝してもしたりない。だから、実家に顔を出すくらいはなんてことはなかった。それに。
「...子供は可愛いしな」
思わず呟いてしまった言葉に、それを聞き逃さなかった吉岡が大きく頷く。
「だろ?甥っ子でそれなら自分の子はもっと可愛いぞ」
吉岡の家庭では、去年子供が生まれたばかり。だから、ここぞとばかりに携帯に保存してある子供の写真を自慢気に見せつけられる事があった。昔だったら見向きもしない子供の写真なのに最近の俺と田山は興味を持って見るようになっていたので、吉岡はそれに気を良くしていた。
「やっぱり、俺らも歳食ったよ。子供の写真を見るのに抵抗ないなんて。いい加減、お前らも落着けよな。自分の子供はもっと可愛いぞ」
確かに一理あるが既婚者というアドバンテージをかさに上から目線の発言には素直に頷けない。
だが、こういう時は独身の田山と俺が反論するには分が悪かった。
「...独身はたまたまだ。こんなのは出会いとタイミングだろ。なぁ、田山?」
ビールを飲みながら絡むように同じく独身の田山に同意を求めると、予想外にも「一緒にすんな」と小さく笑われてしまう。
「なんだよ、その意味深な笑いは!?」
俺が眉をひそめて怪訝な顔になると田山はシレッと会話に織り込んだのは。
「実はさ。俺、今年、結婚することになったんだ」
これは年明けすぐの話で、新年早々、俺と吉岡は驚きを隠せなかった。最初は田山の冗談かと思い、吉岡と2人で田山の顔を見る。すると、彼はよほど恥ずかしかったのか「結婚式には2人とも出てくれよな」と小さな小さな声で続けた。ここで、冗談じゃなく本当の話だと俺たちは悟ったのだ。
「いつ!?誰と!?っていうか、なんで今まで隠していたんだよ!?」
さっきまでしたり顔だった吉岡が興奮して矢継ぎ早に質問している間、俺はというと驚きすぎて目を見張ったまま。黙ってはいたものの吉岡と同じ気持ちには変わりない。同じ独身のわりには秘密主義で面倒臭がり屋の俺と違って、田山は異性関係においてオープンなタイプだった。学生時代からも、男には珍しく、寧ろ、話したくて仕方がない部類に入る。最近はその手の話をとんと聞く事がなかったので、仕事が忙しく、そちらの方はサッパリだと勝手に解釈していたのだが。
そんな開けっぴろげな男がいきなり結婚だと??
それは誰だって驚くだろう。
最初は後で相手の詳細を教えると一点張りしていた田山もしつこく聞く吉岡に最後は根負けして。
「同じ会社で同期の子で、藤澤も知っている」
「へ?」
急に振られて、こちらは誰のことだかさっぱり見当もつかなかった。
「俺はお前の会社の人間は1人も知らないぞ?」
「なんだよ、この後に及んで嘘つく気か?」
俺は即座に否定し、吉岡がやいのやいの文句を言って突っ込むと、田山は慌てて否定し、俺に助け舟を求める。
「藤澤ぁー、そんな誤解を招くようなこと言うなよ。俺が言っているのは前の会社のことだ」
そこでどの会社かだけは、ピンとくる。
「あぁ、営業部の時の。でも、お前の同期なんかいたか?」
それでも思い出せない俺に田山は流石に呆れ顔で。
「ほら、お前に頼んだ入社式の手伝いの時に一緒だった鈴木良子さんだよ」
「あー...」
頭の中で思い出そうとしたのだが、いかんせん、苗字が平凡すぎた。それに頼まれた入社式の手伝いといえば堅苦しい受付で、田山と新入社員の女性の値踏みをしていたような記憶しかなく。それでも思い出せずにギブアップすると、田山には皮肉とも取れる嫌味を言われた。
「わりと三浦さんとは仲よかったんだけど彼女の近くにいてもその程度かよ?お前は人の好みが極端すぎ。本当、その性格はどうにかしないと一生独身だぞ!」
「うるせーわ」
虚勢を張ってみたものの、田山の言うことはもっともだと思う。
結婚は、20代の時が1番真剣に真面目に考えた。
30代になってからは、あまり考えたことがない。
それどころか、急速に興味を失いつつある。
それは全て優里に起因していたからに他ならない。仕事に忙殺されることはあっても、彼女のことを完璧に忘れることはできなかった。
ただ、幸せにしてあげる自信がないまま、ずるずると俺は歳を重ねてしまった。
5年たった今ならそれなりの自信はできたが、その間に人の気持ちなんて不確かなものは簡単に移り変わる。
そんなの、最初から予想できていた...が。
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