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【spin-off】bittersweet first love
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...あーあ、あんなに人が座って。
パイプ椅子に人が座るのは当たり前の事だが、今更気になるのは、愛用のボールペンが踏まれて壊れてはいないかと心配だからだ。
自分たちの出番がほぼ終わった俺たちは会場の隅へと追いやられていた。ちょうど、出入り口近くの位置で周りは騒がしく、ぱっと見は田山と俺は式の話を聞いている。そのふりをして真正面を向いていたので、少しぐらいの私語は紛れた。
「まだ、気にしてんの?買えばいいじゃん、ボールペンくらい」
ことの顛末を知る田山はたかがボールペンと呆れているが、俺は諦めきれない。そのボールペンは気に入っているのはもちろんのこと廃盤で売ってすらいない。たまたま見つけた文具店で残りを買い占めたうちの一本。俺は気に入ったものは末長く使いたい方なので、田山には同意しかねる。
「売ってないから式が終わったら探す」
「はい、はい。頑張ってー」
心のこもってない応援に少しむかつきながらも、式を眺めていると退屈この上ない。淡々と進む進行は適度に眠気を誘うから困ったもの。
...やば、また眠くなってきた。
欠伸を噛み殺し、眠気と戦うが辛い。隣を視線だけで見ると全く眠そうにない田山は新入社員を眺めて楽しそうだ。
「本当、新入社員は初々しいくて、可愛いねぇ。藤澤はどの子好み?」
社会人になってから彼女なしの田山は、趣味と実益を兼ねての女性ウォッチングをしていたらしい。
「どの子って...そんなの見てないから知らねえよ」
「え?せっかく受付やらせたのに顔見てなかったの?」
「ずっと裏方だったから顔見る暇なかったし、興味ない」
「うわっ、なんて勿体無い。藤澤は見た目はいいのに中身は、本当の残念男子だなあ」
「余計なお世話」
田山の中身は高校生の時と変わっておらず、見た目はスマートな社会人なのだが、それこそ残念だ。まあ、社会生活においてはそんなのを少しも感じさせないのだろうけど。
「お前、相変わらずだな」
「良いじゃん、別に減るもんでもなし」
人知れず、男子高校生の会話を繰り広げてしまうのは旧知の中なので仕方がないが、冷たい視線を受けつつも女性ウォッチングを続ける田山の心臓には毛が生えていると思われる。
「ほらほら、あの子なんかどう?」
しつこいくらいに言われて、根負けした俺はそちらを見た。
...なるほど。
田山が見つけた理由がなんとなく分かる。髪の毛の色が鮮やかだったからだ。
「皆んな黒髪だから目立つよね」
「だな」
大体、新入社員というか就職活動の時は黒髪に染めて目立たなくするのが普通だが、彼女の髪の色は黒ではなく、茶色。というか、あれは。
...栗毛色?
黒髪の中でいれば目立ってしまうが、染めないのは地毛なのだろう。ただ、それだけの事なのに、田山は何故か彼女を俺にプッシュする。
「ああいう子って藤澤に似合いそう。藤澤なら何点つける?」
「...何点って、顔が好みかどうかなんて分からないし」
「そうだけどさぁ、後ろ姿で」
「...後ろ姿でだけでか?」
田山がそこまで言うのならと、遠目ながらも後ろ姿を眺める。周りの女子に比べて背は高いみたいだが少し猫背のようだ。
「...65点?」
「へぇ、やっぱり好感触じゃん。後ろ姿が好みだったの?」
「別に。後ろ姿だけで判断しろって言ったからそうしたまで。背が高いからスタイル良く見えるしな」
「ふうん」
その後、田山は別の女性ウォッチングを開始したが、俺が再び誘われる事はなかった。俺はと言うと、睡魔と闘いながら式の最中はボールペンの行方ばかり考えていた。
そして、式が終わり人が閑散とするなり、パイプ椅子の方に一目散に向かい、人がいるにも関わらず膝を床について探して探して。
...ったく、どこ行ったんだよ。
大体その方角を探し終え、別の場所に行こうかと思案する。すると、後ろからボソボソっと話声が聞こえた気がした。だが、探すのに夢中になっていた俺は自分ではないと振り返る事もしなかったのだが。
「あの...すみませんっ!」
先程よりも音量が大きく声が聞こえたので、自分に声をかけられているのかとようやく振り返った。
「はい?」
遠慮がちな声に導かれ、顔を上げると顔ではなく見たことのある髪の毛の色が目に入る。
「あっ...」
危うくおかしな事を口走りそうになり、反射的に左手で口を塞いだ。
...さっきの...彼女、か?
認めたくはないが、濃紺の真新しいリクルートスーツは新入社員そのもの。そのうえ、背中近くまで伸びる綺麗な栗毛色の髪が印象的に見えたのはつい先程のこと。
見間違うはずがなかった。
パイプ椅子に人が座るのは当たり前の事だが、今更気になるのは、愛用のボールペンが踏まれて壊れてはいないかと心配だからだ。
自分たちの出番がほぼ終わった俺たちは会場の隅へと追いやられていた。ちょうど、出入り口近くの位置で周りは騒がしく、ぱっと見は田山と俺は式の話を聞いている。そのふりをして真正面を向いていたので、少しぐらいの私語は紛れた。
「まだ、気にしてんの?買えばいいじゃん、ボールペンくらい」
ことの顛末を知る田山はたかがボールペンと呆れているが、俺は諦めきれない。そのボールペンは気に入っているのはもちろんのこと廃盤で売ってすらいない。たまたま見つけた文具店で残りを買い占めたうちの一本。俺は気に入ったものは末長く使いたい方なので、田山には同意しかねる。
「売ってないから式が終わったら探す」
「はい、はい。頑張ってー」
心のこもってない応援に少しむかつきながらも、式を眺めていると退屈この上ない。淡々と進む進行は適度に眠気を誘うから困ったもの。
...やば、また眠くなってきた。
欠伸を噛み殺し、眠気と戦うが辛い。隣を視線だけで見ると全く眠そうにない田山は新入社員を眺めて楽しそうだ。
「本当、新入社員は初々しいくて、可愛いねぇ。藤澤はどの子好み?」
社会人になってから彼女なしの田山は、趣味と実益を兼ねての女性ウォッチングをしていたらしい。
「どの子って...そんなの見てないから知らねえよ」
「え?せっかく受付やらせたのに顔見てなかったの?」
「ずっと裏方だったから顔見る暇なかったし、興味ない」
「うわっ、なんて勿体無い。藤澤は見た目はいいのに中身は、本当の残念男子だなあ」
「余計なお世話」
田山の中身は高校生の時と変わっておらず、見た目はスマートな社会人なのだが、それこそ残念だ。まあ、社会生活においてはそんなのを少しも感じさせないのだろうけど。
「お前、相変わらずだな」
「良いじゃん、別に減るもんでもなし」
人知れず、男子高校生の会話を繰り広げてしまうのは旧知の中なので仕方がないが、冷たい視線を受けつつも女性ウォッチングを続ける田山の心臓には毛が生えていると思われる。
「ほらほら、あの子なんかどう?」
しつこいくらいに言われて、根負けした俺はそちらを見た。
...なるほど。
田山が見つけた理由がなんとなく分かる。髪の毛の色が鮮やかだったからだ。
「皆んな黒髪だから目立つよね」
「だな」
大体、新入社員というか就職活動の時は黒髪に染めて目立たなくするのが普通だが、彼女の髪の色は黒ではなく、茶色。というか、あれは。
...栗毛色?
黒髪の中でいれば目立ってしまうが、染めないのは地毛なのだろう。ただ、それだけの事なのに、田山は何故か彼女を俺にプッシュする。
「ああいう子って藤澤に似合いそう。藤澤なら何点つける?」
「...何点って、顔が好みかどうかなんて分からないし」
「そうだけどさぁ、後ろ姿で」
「...後ろ姿でだけでか?」
田山がそこまで言うのならと、遠目ながらも後ろ姿を眺める。周りの女子に比べて背は高いみたいだが少し猫背のようだ。
「...65点?」
「へぇ、やっぱり好感触じゃん。後ろ姿が好みだったの?」
「別に。後ろ姿だけで判断しろって言ったからそうしたまで。背が高いからスタイル良く見えるしな」
「ふうん」
その後、田山は別の女性ウォッチングを開始したが、俺が再び誘われる事はなかった。俺はと言うと、睡魔と闘いながら式の最中はボールペンの行方ばかり考えていた。
そして、式が終わり人が閑散とするなり、パイプ椅子の方に一目散に向かい、人がいるにも関わらず膝を床について探して探して。
...ったく、どこ行ったんだよ。
大体その方角を探し終え、別の場所に行こうかと思案する。すると、後ろからボソボソっと話声が聞こえた気がした。だが、探すのに夢中になっていた俺は自分ではないと振り返る事もしなかったのだが。
「あの...すみませんっ!」
先程よりも音量が大きく声が聞こえたので、自分に声をかけられているのかとようやく振り返った。
「はい?」
遠慮がちな声に導かれ、顔を上げると顔ではなく見たことのある髪の毛の色が目に入る。
「あっ...」
危うくおかしな事を口走りそうになり、反射的に左手で口を塞いだ。
...さっきの...彼女、か?
認めたくはないが、濃紺の真新しいリクルートスーツは新入社員そのもの。そのうえ、背中近くまで伸びる綺麗な栗毛色の髪が印象的に見えたのはつい先程のこと。
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