社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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11.合コン?①

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緊張の名刺交換が終了し、料理や飲み物の注文は田山さんと藤澤さんが率先して私たちの好みを聞き出したりしてくれて、新入社員の私たちはお客様状態。
本来なら年下の部下の私たちのする事だと思ったけれど、手出しできないくらいの手際の良さにお任せしてしまう。

その手慣れた具合に、田山さんなら分かるけれど、藤澤さんもこんな風に異性と飲む機会が多いのかと思うと、どこかやるせない気持ちが生まれるのは仕方のない事だった。

...歳上で、素敵な大人の男の人だもの。

そんな気持ちの中、田山さんが仕事みたいな乾杯の音頭をとる。

「では、来月からのプロジェクトの成功を願って、乾杯」

そして、お互いに順番にグラスを合わせた。
それからはアルコールが入ったせいか、プライベートの話もポツポツ出始める。

「俺たちは全員K大で、しかも俺と藤澤さんは同じ理学部のなんですよ。ねー、先輩?」

山崎さんがさらりと話してくれた事を心の中の片想いノートに必死にメモ。

...藤澤さんって、K大の理学部なんだ。頭いい。

それにこの席。
私にとっては藤澤さんをさりげなく、しかも堂々と観察できるアリーナ席だった。
今の話の中心は男性陣。テーブルの端に座っていた私は奥の田山さんの方を向くと、必然的に目の前の藤澤さんが視界に入る。


その時、箸を持つ手が左とか。
口元によく手を持っていくのは癖なのかとか。
笑いながら髪をかきあげる仕草が様になっているとか。

勝手に視界に入ってくる、彼の一挙手一投足に密かに見惚れて。

私の知らなかったことがたくさん目の前に溢れているものだから、今までスカスカだった片想いノートは短時間でいっぱいになる。

...今日、来てよかった。

出だしはどうなることかと思っていたけれど、こんな風に話を聞いているだけで楽しい。目の前に藤澤さんがいるだけで。

例え、名刺交換の時、話したのが最初で最後だとしても今日の私は満足だった。


それなのに、隣の美波ちゃんは私の気持ちとは違っていて。

この辺りから、合コンさながらの私にとっては爆弾みたいな質問が彼女の方から投げかけられる。


「あの、田山さんと藤澤さんは、ご結婚されているんですか?
そうでなければ、彼女さんはいるんですか?」

いきなりの直球質問に、聞かれていない隣の私がギョッした。

「み、み、美波ちゃん!?美波ちゃん!?」

藤澤さんの前だというのに、動揺を隠せず、その柔らかな二の腕を引っ張り必死で止めにかかる。

...そんなの聞きたくないってば。

そんな気持ちでいっぱいだったけれど、彼女は質問を撤回してはくれなかった。
際どい事を聞かれた人たちはというと、揃って私たちに苦笑いして。
そのうちに藤澤さんが。

「はーい。結婚は2人ともしていません。彼女はご想像にお任せしますよ」

スゴく曖昧に軽く答えてくれて、彼が適当に誤魔化してくれたと分かり、ホッとしたのもつかの間。
美波ちゃんがまたもや。

「はい!私、田山さんの隣に座りたいです。藤澤さん、席、代わってくださーい!」

「あ、俺もそれならそっちに」

美波ちゃんにならい、山崎さんも席を変わりたいと言い出す始末。それにはすかさず田山さんも。

「2人も来たらこっちが狭くなるよ。仕方ないから藤澤があっち行け。もう、席替え、席替え」

しっしっと、藤澤さんに犬を手で払う真似をすると、向かいの彼は諦めたようにグラスを持つ。そのうえで私の動向を尋ねる。

「三浦さん、そっちに行ってもいいですか?」

彼に見つめられた私には、答えはひとつしか残されていないのだ。
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