社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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12.合コン?②

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席替えをした途端、美波ちゃんが田山さんに積極的に声をかけ始め、山崎さんもそこに割って入って話をしている。

そんなものだから、向かいの席に並んで座っている私たちは、その話の輪の中に入れず、蚊帳かやの外。まるで話題が続かないお見合い状態に陥る。

私は何か話さなくてはと思ったけれど、こんな時、気が利いた話などできるわけがなく、ずっと俯向くばかりで。
それに困り果てた藤澤さんが気を遣って話しかけてくれた。

「向こうは盛り上がっているみたいですが、つまらなくないですか?大丈夫ですか?」

隣に座って緊張しているからといって、無視をするわけにはいかなかった。

「あ、いえ。楽しいです。ただ、こういう席には、全然、慣れていなくて...」

ようやく、ここで彼の目を見て話せる。
この時、彼の左目の下に小さなホクロを見つけた。

俗にいう、泣き黒子ぼくろ

今、至近距離で顔を見て話せたからこその発見であり、こんな風に話せる機会は今日で最後かも知れないと思うと、無意識に本音が口をつく。

「でも、今日は来て良かったです。藤澤さんともお知り合いになれましたし。すごく、楽しいです」

彼と話せたことに満足して、つい、食い気味に語ってしまうと彼は何か躊躇うみたいに。

「それは、良かったですね...」

さっきほどの軽さとは打って変わり、穏やかな笑みを浮かべていた。


そして、山崎さんが早々にひどく酔っ払う。
そのおかげでこの親睦会とやらは、解散になってしまった。

私たち新入社員は先輩方に奢ってもらうことになり、先に店の外へと移動。
後から、フラフラになった山崎さんの腕を肩に乗せ、身体を抱えている藤澤さんと田山さんが一緒に出てきた。

「こいつダメだ、どうにもならん」

「ははは。昔っからすぐこれだから。タクシー呼んでおいたよ」

2人はお友達トークを繰り広げていて、その間にタクシーがお店の前に横付けされる。
ただ、それは一台だけで。

田山さんはタクシーを確認するなり、山崎さんの身柄を藤澤さんから引き受けて言い放つ。

「俺が山崎と長谷川さんを送るから、藤澤は三浦さんを送ってやって。確か2人とも同じ沿線のはずだよ」

「なっ!?ちょっと、待てっ!おい!?」

私も田山さんの言葉に驚いて声も出なかったけれど、初めて、彼が慌てた所を見てしまった。
そんな彼の必死の抵抗も虚しく、田山さんは山崎さんとサッサとタクシーに乗り込み、美波ちゃんも嬉しそうにその後に続き、タクシーは発車。

それには私は無言で俯向くしかなく、2人とも言葉を発しない気まずさの中、彼の方から誘ってくれた。

「とりあえず、帰りますか?」

「はい...」

店から駅までは平坦な道のりで、人もチラホラ歩いている。
その街中を憧れの人と2人で並んで歩くシチュエーションは、私にとって初めてのこと。

もう、どちらから足を出して歩いたらいいかと迷うほど緊張して歩き、俯いていたから、人混みの中を歩くのが苦手な私は簡単に人の波にのまれた。
それでも、背の高い彼を目で追う事は出来ていて。  

数メートル先の彼が立ち止まって周りを探しているのが見えた。
私はそれに気がつき、慌てて走って追いかける。

「...す、すみません」

「なんだ、そんな所にいたんですか。探してしまいました」

彼は笑って許してくれたけれど、困った事にこのやり取りを数回繰り返してしまう。途中からは、向こうも私が歩くのが下手だと気がついたみたいで。

「いいですよ、慌てなくても」

私に歩調を合わせて、ゆっくりゆっくり歩いてくれた。


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