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13.予期せぬ出来事①
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「三浦さんはどちらまで?」
「...○○○駅です」
駅についてお互いの最寄り駅を伝え合うと、田山さんの言う通り同じ路線で、私の駅は各駅停まり、藤澤さんの駅は快速も停まる駅だった。
私たちが駅について先にホームに到着したのは、快速電車の方。
てっきりその電車に乗るのかと思いきや、彼はそれを見送り次の各駅停車の電車が到着すると、その電車に乗りこもうとしていた。
そこで、私を本当に送ってくれようとしていたのを察する。
「1人で帰れますから」
「ダメですよ。田山に送るように言われていますから。ほら、早く乗らないと...」
私が乗車口でまごついていると、後から乗り込む乗客に押されてしまう。
それで中へと進むざるおえなかった。
車内は金曜日の夜とあってほどほどの混み具合。
けれども、電車が停車するたびに乗客も増えてゆき、私たちは奥のドアの方へと押しやられてしまっていた。
私はドアの隅を背にして、藤澤さんはとは向かい合わせの位置関係。
さっきまで知らなかったワイシャツの細かい柄やネクタイの柄が分かるほどのあり得ない距離感に、人知れず息を飲む。
「...混んできましたね。押されて苦しくありませんか?」
自分のシャツの柄を凝視されているとも気がつかず、彼が話しかけてきた。
私は彼が突っ張る腕の隙間にいたので、少しも苦しくない。
その代わり、緊張感が半端ない。
「大丈夫、です...」
恥ずかしくて、顔を見て話すことができなかった。
それでも、私を気遣って何度も話しかけてくれる藤澤さん。
私は目の前にある喉仏に向かってしか返事を返せなかった。
そんな中、一瞬だけ、視界が真っ暗になる。
...あれ?
それは気のせいだと思ったけれど、次第にスーッと血の気がひき、もう彼に返事ができる状態でなくなり、言葉が出なくなる。
すると、彼の方が私の異変に気がついてくれた。
「...気分でも悪いですか?」
その問いに思わず頷いてしまった時、次の停車駅のアナウンスが聞こえてくる。
次の駅は私の最寄り駅だった。
...助かった、早く降りなきゃ。
この苦しい空間から脱するために、反対方向の乗車口へと反射的に顔を向ける。
その時、何処からか伸びてきた腕に力強く引き寄せられるように肩を抱かれた。
既に目眩を覚えている私は、それに抵抗するほどの力はなく...。
朦朧とした意識の中、気がつくと駅構内のベンチに座っていた。
目の前にはペットボトルを持っている藤澤さんが心配そうな顔で立っている。
「ここは...?」
「○○○駅です。大丈夫ですか?タクシーで自宅まで送りましょうか?」
「...いえ。もう、大丈夫ですから。昨日、寝不足だったもので、すみません。ここまでくれば、1人でも大丈夫ですから」
渡されたペットボトルのお茶を一口飲み、私は彼の帰りを案じたけれど。
彼はその場から離れようとはしなかった。
「まだ顔色が悪いみたいですよ。それに、こんな時間にこんな所で女性1人残すというのは...ちょっと...」
「でも...」
お互いに譲らないでいると、藤澤さんは少し険しい顔をして私の隣に座った。
それでいて、ハッキリとした口調で。
「じゃあ、勝手にします。...ただ、歳上の言うことは素直に聞くものですよ」
「え...?」
突然、背中の方から腕をまわされ、グイッと肩ごと彼の方へと引き寄せられた。
その拍子にコテンと身体全体が藤澤さんの方へと委ねられてしまう。
「あ、あの...?」
「流石にここで膝枕とかは嫌でしょう。だから、このまま身体を預けて少し休んでください」
そう言われてずっと肩を離してもらえず、体調が思わしくなかった私は素直に彼の好意に甘える。
「すみません...」
言われるままに目を閉じた。
目を閉じると緊張感から解き放たれて安心したのか、一気に睡魔に襲われる。
意識が薄れていく間、最後まで感じていたのは彼の存在。
こんな状況で不謹慎だと思ったけれど、私は幸せな気持ちのまま、意識を手放してゆく。
「...○○○駅です」
駅についてお互いの最寄り駅を伝え合うと、田山さんの言う通り同じ路線で、私の駅は各駅停まり、藤澤さんの駅は快速も停まる駅だった。
私たちが駅について先にホームに到着したのは、快速電車の方。
てっきりその電車に乗るのかと思いきや、彼はそれを見送り次の各駅停車の電車が到着すると、その電車に乗りこもうとしていた。
そこで、私を本当に送ってくれようとしていたのを察する。
「1人で帰れますから」
「ダメですよ。田山に送るように言われていますから。ほら、早く乗らないと...」
私が乗車口でまごついていると、後から乗り込む乗客に押されてしまう。
それで中へと進むざるおえなかった。
車内は金曜日の夜とあってほどほどの混み具合。
けれども、電車が停車するたびに乗客も増えてゆき、私たちは奥のドアの方へと押しやられてしまっていた。
私はドアの隅を背にして、藤澤さんはとは向かい合わせの位置関係。
さっきまで知らなかったワイシャツの細かい柄やネクタイの柄が分かるほどのあり得ない距離感に、人知れず息を飲む。
「...混んできましたね。押されて苦しくありませんか?」
自分のシャツの柄を凝視されているとも気がつかず、彼が話しかけてきた。
私は彼が突っ張る腕の隙間にいたので、少しも苦しくない。
その代わり、緊張感が半端ない。
「大丈夫、です...」
恥ずかしくて、顔を見て話すことができなかった。
それでも、私を気遣って何度も話しかけてくれる藤澤さん。
私は目の前にある喉仏に向かってしか返事を返せなかった。
そんな中、一瞬だけ、視界が真っ暗になる。
...あれ?
それは気のせいだと思ったけれど、次第にスーッと血の気がひき、もう彼に返事ができる状態でなくなり、言葉が出なくなる。
すると、彼の方が私の異変に気がついてくれた。
「...気分でも悪いですか?」
その問いに思わず頷いてしまった時、次の停車駅のアナウンスが聞こえてくる。
次の駅は私の最寄り駅だった。
...助かった、早く降りなきゃ。
この苦しい空間から脱するために、反対方向の乗車口へと反射的に顔を向ける。
その時、何処からか伸びてきた腕に力強く引き寄せられるように肩を抱かれた。
既に目眩を覚えている私は、それに抵抗するほどの力はなく...。
朦朧とした意識の中、気がつくと駅構内のベンチに座っていた。
目の前にはペットボトルを持っている藤澤さんが心配そうな顔で立っている。
「ここは...?」
「○○○駅です。大丈夫ですか?タクシーで自宅まで送りましょうか?」
「...いえ。もう、大丈夫ですから。昨日、寝不足だったもので、すみません。ここまでくれば、1人でも大丈夫ですから」
渡されたペットボトルのお茶を一口飲み、私は彼の帰りを案じたけれど。
彼はその場から離れようとはしなかった。
「まだ顔色が悪いみたいですよ。それに、こんな時間にこんな所で女性1人残すというのは...ちょっと...」
「でも...」
お互いに譲らないでいると、藤澤さんは少し険しい顔をして私の隣に座った。
それでいて、ハッキリとした口調で。
「じゃあ、勝手にします。...ただ、歳上の言うことは素直に聞くものですよ」
「え...?」
突然、背中の方から腕をまわされ、グイッと肩ごと彼の方へと引き寄せられた。
その拍子にコテンと身体全体が藤澤さんの方へと委ねられてしまう。
「あ、あの...?」
「流石にここで膝枕とかは嫌でしょう。だから、このまま身体を預けて少し休んでください」
そう言われてずっと肩を離してもらえず、体調が思わしくなかった私は素直に彼の好意に甘える。
「すみません...」
言われるままに目を閉じた。
目を閉じると緊張感から解き放たれて安心したのか、一気に睡魔に襲われる。
意識が薄れていく間、最後まで感じていたのは彼の存在。
こんな状況で不謹慎だと思ったけれど、私は幸せな気持ちのまま、意識を手放してゆく。
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