社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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15.「また」の意味

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藤澤さんが最後に言ったのは、「また」という言葉だった。
これは次に会う機会があるという意味...に、思えたけれど、私は単なる言葉のアヤだと思って鵜呑みにはしなかった。 

変に期待してしまう事をしたくはない。

片想い中の私には、あれだけ近くで見れて、話せて、話しかけてもらえただけで、充分だったから。

でも、本当の意味は、彼と一緒に取り組む仕事プロジェクトの1週間前に判明した。上司の田山さんから、直々に私は研究室との調整係兼雑用係を任命されたのである。

田山さんと仲の良い藤澤さんは、多分、その事を知っていた。
だから、別れ際にあんな事を言ったと思った。

そうと決まれば、ますます、今回の仕事プロジェクトは成功させなければいけないというか、新入社員の私としては失敗できない。
ただ、困った事に、私は田山さんの話を聞いても実は要領を得ていなかった。

うちの社のこういった大掛かりな仕事プロジェクトというものは、どちらかというと研究所の方が主導メイン
できることなら頼りたくはなかったけれど、好きな人の前で失敗をしたくない私は、そんな意地を張っている場合ではないと自分に言い聞かせた。


※※※

「なんでも好きなもの、頼んでいいよ。奢るから」

今日は水曜日。会社主導のノー残業デー。
よほどの事がない限り、社の人間は定時で帰らなければならなかった。
大事な仕事プロジェクトの開始が差し迫っている中、私は今日がチャンスとばかりに、無理矢理、松浦を捕まえて会社近くのファミレスに連れ込んだ。

「なんだよ、どうした?気持ちわりーな」

テーブル席についてなおも、疑いの目を向ける彼に私は拝み倒した。

「実はどうしても聞きたい事があるの。だから、お願い!」

「理由があるなら早く言えよ。そういう事なら、遠慮なく...」

ここで警戒を解いた松浦はメニューを開き、本当に遠慮なく料理を注文する。

「すみません、このディナーセットの...あ、パンで...」

私も彼の注文の後に夜ご飯がわりのオムライスを注文。
2人が一通り食べ終わり、後はデザートを残すのみの所で、私は通勤バッグから大事な仕事プロジェクトの資料を取り出し、テーブルの上に置く。
それを見た松浦は、すぐさま。

「お前、今回うちのチームの雑用係なんだって?」

楽しそうに問いかけてきて、やっぱり藤澤さんも知っていたんだと悟る。

「うん。だから私が関わる所を教えて欲しいの」

「なんだ、そんなこと...それ貸せよ?」

彼は私から資料を受け取りそれをペラペラとめくった後、あるページを私の方に開いて見せた。

「お前の関わるとこは、こことここ」

向かいから人差し指でそのページのその箇所を指し示してくれた。
その箇所には、『生体標本の取り扱い』『生体標本の管理』いう聞きなれない文字があり、もちろん質問した。

「...生体標本って?」

「ああ、それはお客様に集めてもらう人の粘膜とか粘液。ほら、ドラマとかであるじゃん。綿棒で口の中、グリグリってやつ。ぶっちゃけた話、営業はその運び屋みたいなものなんだけど。それをうちに持ってきてもらう時の検査というか、なんていうか。それがすげー面倒くさい。三浦の仕事は、多分、それがメイン。後はうちの出した解析データの集積...はすんのか?」

データの集積はともかく、その『生体標本』とやらは私には未知なるものに違いない。

「その受け渡しのやり方、詳しく教えて!」

「お、おう...?」

いつになくやる気のみなぎっている私に、松浦は少しひき気味になったけれど。

「俺も最近習ったばかりなんだ。確か...」

約束どおり、身振り手振り教えてくれ、私はそれを真剣に教わり、忘れないように自分のシステム手帳にメモをした。
それがひと段落した頃、ちょうどデザートが運ばれてきて、小休憩を挟む。
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