社内恋愛はじめました。

柊 いつき

文字の大きさ
40 / 199

40.BlueChristmas⑥

しおりを挟む
彼の運転する車は、しばらくすると街路樹のある道路の中を走っている。
その街路樹に色とりどりの煌びやかなイルミネーションが施され、私は窓の外を眺めながら「わー」と小さく歓声を上げてしまう。

その声を彼に聞かれてしまい、理由を説明すると彼からは嬉しい提案が。

「...そうだね、今はクリスマスシーズンだから、イルミネーションが特別なのかな?明日でクリスマスは終わりだし、少しだけ遠回りして帰ろうか?」

私は車を乗らないので、こういう風にイルミネーションを車から見れるのは滅多にない機会。だから、彼からの申し出は素直に嬉しい。

それに彼と一緒に見れるなんて、今日は本当に来て良かったと思う。
隣で運転している彼も上機嫌で、ますます幸せな気分になった。

でも、楽しい時間ほどあっという間に過ぎてしまうもの。
気がつくと、うちの近所のコインパーキングに車は駐車されていた。

「はい、着いたよ。お疲れ様」

「ありがとうございます」

...もう、楽しい時間は終わり。それと、クリスマスイブも。

車のデジタル時計はあと数分で12時を示そうとしていた。

「クリスマスイブ...もう少しで終わっちゃいますね」

彼とここで別れだと思うと何の気なしに、口から言葉がついて出る。
シートベルトを外しながら分かってはいるけれどと、つい、しんみりしてしまう。

次はいつ会えるのだろうと、聞くのを躊躇ってしまっていると彼が車のエンジンを止めた。

「あのさ、三浦さん...」

「...はい?」

私は帰ろうとしたところを呼び止められて、また助手席に座りなおす。
彼はというと徐ろに自分のシートベルトを外し、私の方に身体を躙り寄る。
そのうえで、「実は」と、いきなりのカミングアウト。

「今日俺の誕生日だったりするんだよね」

「ええっー!?」

さっきまでのしんみりとしたものが、あっという間にどこかに吹き飛んだ。それどころか、自分の失態に動揺する。

「わ、わ、私、今日、クリスマスイブとばかり思って、そんなこと全然...」

...藤澤さんの誕生日知らなかった。しかも、今日!?

もう、どうしていいのか分からない。今日という日はもう終わってしまうしと、プチパニックを起こしていた。
すると、それを宥めるように藤澤さんは私の頭を優しく撫でてくれる。

「ごめんごめん。俺の誕生日は知らなくて当然だよ。話していなかったんだし」

「でも...プレゼント1つしか...あげて...」

「いいってそんなの。世間ではクリスマスイブの方が重要で有名なんだから」

それでも私の動揺は収まるどころか、半泣き状態になる。そんな私に彼は頭を撫でながら、穏やかに微笑む。

「それに、もっとモノが欲しくて、わざわざ誕生日だと言ったわけじゃないんだ」

「え、じゃあ...なんで、また?」

彼の言葉に余計に分からなくなり目を白黒させてしまうと、いつの間にか少し降りてきたその大きな手は髪と一緒に頰を撫で始めていた。でも、今の私にはそれを気にとめる余裕がなく、されるがままで。

「ただ、今日、三浦さんと一緒にいた思い出みたいなものが欲しいなと思ってさ」

「思い出...ですか.......?」

ますます言われている意味が分からなくて、おうむ返し。
そんな私に、藤澤さんはさっきよりももっと距離を詰めてきて、確認する。

「そうなんだけど。それは三浦さんにしかもらえないから、今、もらって良いかな?」

それでも意味が分からず首を傾げたけれど、こんな私で何かをあげられるならと。

「はい...私でよろしけ...」

この台詞は、最後まで言わせてもらえなかった。


次の言葉を奪うように、彼の唇が私の唇を塞いでしまったから。



しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...