社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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98.蜜月。②

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結局、藤澤さんは私が既にお風呂を済ませていたので、すぐにお風呂に入った。その後、2人揃って夕ご飯。何を食べても「美味しい」と言ってくれて、今日のご飯作りは大丈夫だったとホッとする。食事が終わり、私がキッチンで洗い物をする時いつもは手伝ってくれる。

けれども、今日の彼は何やら書類と難しい顔で睨めっこしており、自宅でもメガネをかける藤澤さんは少々、仕事モード。寝室には机もあったけれど、私が早くに休んでもいいように寝室は空けてくれ、リビングでお仕事をしていた。

大抵、私の家事の方が早く終る。寝室で寝るにはまだ早い時間帯なので、彼の為にコーヒーを淹れた。私も自分の分も淹れてお揃いのカップを持って並んでソファーに座ってみる。邪魔はする気はないけれど、頭を彼の方にもたげて、触れていると彼がいる事を実感できた。すると、藤澤さんも無意識なのか、私の頭を優しく撫でてくれる。そんな時はネコみたいにゴロにゃんと彼の身体に頭を擦り寄せ、甘えてみたり。そのまま、彼の資料を覗き込む時が多いけれど、日本語以外の文字で書かれているので、ウトウトと目を閉じてしまう。気がつくと彼に寄り添い居眠りをしていた。

「あっ、すみません。私...寝てて?」

「うん。可愛い寝顔を見せてもらっていたよ」

至近距離で見上げる彼は優しく言ってくれるけれど、私よりも絶対疲れているに違いない。彼の邪魔になり申し訳ないと、すぐさま立ち上がろうとする。焦って起きたものだから、テーブルに足を引っ掛け、身体のバランスが崩れてぐらり。

「ほら、慌てると危ないから」

私は腕を掴まれ床に転ぶことなく、ソファーに座っている彼の方へよろける。しかも、彼の手により彼の膝の上に乗った形になってしまう。いくら不可抗力とはいえ、彼を見下ろすなんて初めての経験だった。彼に覆い被さるように不安定なその体勢は、彼が私の腰に手を添えることにより安定しているけど、恥ずかしいこと、このうえない。

「...す、すみません。すぐに、おります」

「いや、いいよ」

腰に回された彼の両手がスルスルと上がり、私の頰を包み込む。私はそれでバランスを崩し、途端に前屈み膝立ちで彼にまたがるように踏ん張るしかない。ありえないほどの近くで彼の吐息を感じ、心臓が恐ろしいほど速く鼓動するのを感じながら、コツンと額が合わさった。

「もう、寝かせてあげられないけど大丈夫?」

熱っぽく彼から扇情的に見つめられるのは、私を欲しているサイン。 

「それは、はい...」

中途半端な答えでも、藤澤さんは構うことなく、ゆっくりと私に口付けて。その口づけは最初は浅くとも、繰り返すごとに口腔内を蹂躙するかの如く荒々しくなってゆく。それなのに私の身体は否応なしに反応してしまう。

「......んっ........」

頰を撫でていたはずの掌が、いつの間にか耳の後ろに回り、指先で無防備な場所をを丹念に探るように、触れられている。その気持ちの良さに、身体が粟立ってしまうのを止められない。

...まだ、キスだけなのにどうしてこんなに気持ちがいいの?

彼から与えられる痺れるような甘い快楽に身体が溺れるてゆくのが分かるけれど、それをもっと欲してしまう。まだ、キスだけしかされていないのに、身体に火をつけられたかのように熱く感じてしまう。舌を絡められ、強く吸われ、口の中をなぞられるのは、何度されても慣れなくて、身体がその甘美に震えてしまう。

ずっと彼の膝の上に座っているはずの上体は力が抜け自分では保つ事が出来なくなり、いつの間にか彼の胸にもたれかかってしまっていた。唇が彼から離れても息が上がってしまい、なかなか整える事が出来ない。そんな私の頭を藤澤さんは優しく撫でてくれる。

「落ち着くまで、待つよ」

頰を当てている彼の胸の鼓動が心地いい。
髪を撫でる彼の指は、繊細で優しい。

腕の中で優しく甘やかされる事を知ってしまった私は、さっきまでの高揚感から解き放たれる。
でも、それ以上触れてこない彼に不安にもなった。

「あ、あの...このまま?」

私を見つめる彼の瞳は穏やかで、いつもの鋭さは全くなく、少し眉を下げる。

「いや...いつもこういう事ばかりすると、優里はイヤじゃない?...」

普段、余裕綽々な感じの彼からの珍しく弱気な発言。いつも私を欲してしまう自分を反省しているようだった。

...こういう時、なんて答えれば正解なんだろう?

私は彼の求めに応じてしまう自分に恥ずかしくなり、顔を見られたくなくて、彼の胸に埋める。埋めている間に藤澤さんは優しく背中をさすってくれるので、その間、いろいろ考えて、ようやく答えた。

「...私は、藤澤さんの事が好きだから触れてもらえるのが嬉しいです」

「...優里」

ため息混じりで名前を呼ばれると、ぎゅっと強く抱きしめれ、胸が心理的にも物理的にも苦しくなる。その苦しさでさえ、彼に愛されていると思えて嬉しいのだ。

「続き...してもいいかな?」

「...はい」

躊躇いながらも、指先が私の顔の輪郭をなぞり、唇を弄ぶ。その男性的な鋭いの眼差しに、私は身動きが取れずにされるがまま、身体の芯がとろける様な口づけをされた。

「.....っん」

「可愛い」

息を奪われる様な口づけをされながら、着ていたカーディガンは肩からスルリと抜かれ、床へと落ちる。

「...あ」

その剥ぎ取られる感覚に思わず声をあげてしまいその行方を探すと、彼は私の視線を自分へ戻すように頬を撫でた。

「余計な事、考えないで」

性急に唇を開かれ、舌を絡め取られるように擦られると、その部分が性感帯になったかのように錯覚する。ビクンビクンと身体が勝手に反応する事を止められなくて、それでも、その行為を止めて欲しくなく、彼の身体に縋ってしまう。もう、カーディガンの存在はどうでもよくなっており、私の思考を占めるのは目の前の藤澤さんだけだ。

私たちから発するいやらしくも甘美な音と、息遣い。今の私の耳に届いているのはその音だけだったから、藤澤さんの低い声がやけに遠くに聞こえた。

「ずっと、ここがいい?」

それは、甘美な誘い。その誘いに私は抗えず彼の首に腕を回す。

「ベッドがいい...です」

そんな答えに彼は満足そうな笑みを浮かべた。

「...うん。なら、移動しようか」

その甘い声に私の頭はクラクラ麻痺して、彼から与えられる快楽に身を任せる。
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