社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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105.happy ending②

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それから、藤澤さんの希望で美術館に寄り道して宿泊先のホテルに着いた。こんな風に彼とホテルに泊まるのは2度目だけれど、今回の温泉みたいないかにもな旅行は初体験だ。そのおかげ一泊2日にしては大きめのバッグを持ってきてしまい、それを彼に持ってもらいながらホテルに入ると何故か緊張してしまう。

以前、宿泊したリゾートホテルとはガラリと趣の違う大きくはないけれど、想像していたより、立派なところだったからだ。そこに藤澤さんは臆することなくチェックインの手続きをしてくれるから、私は身の置き所がなく荷物と共にロビーで待つことになる。少ししたら彼も戻ってきて、一緒にその場で待っていたら、仲居さんに私たちは呼ばれた。

「藤澤様、お待たせしました。こちらへどうぞ」

「はい、すみません」

彼は呼ばれて当たり前のように返事をして、荷物を渡している。私はそのやり取りを他人事のように見ていると仲居さんの方から促されてしまった。

「奥様もお荷物を...」

彼と同じ家族に思われたことにドキッとする。

...奥様って、私の事?

どう反応していいか分からずギクシャクした動きをしてしまったけれど、ムズムズした恥ずかしさがこみ上げて、自然と口元が緩んでしまう。そして、お部屋に案内されると思っていた以上に素敵なお部屋で、仲居さんが案内をしてくれる間、色々見てみたくてウズウズしてしまった。だから、仲居さんがお茶を入れてくれて帰って行った後、お茶を飲むのもソコソコに立ち上がる。

「どうしたの?」

「ちょっと、お部屋の探検を...」

彼は入れてもらったお茶をすすり、私は早速立ち上がって探検。このお部屋には、大きめのベッドが2つが並んでる洋風のお部屋の先に続く和室ある。その奥の障子を開けてみると何と露天風呂つき。しかも、目の前には色鮮やかな緑がいっぱい広がっていた。

「藤澤さん!このお部屋、露天風呂がありますよ!?」 

この時は興奮してしまい、名前をいつもの苗字で呼んでしまう。彼はそれを咎める事なく、和室でお茶を飲んでいたのを止めてまで来てくれた。

「どれ?」

そのまま私の隣に並び、近くの柱にもたれかかり、一緒にその光景を眺める。

「いいでしょ?せっかくのユリとの旅行なんだし...」

「でも、結構、しますよね...?」

流石に全て出してもらうのは気が引けて下世話な事を聞いてしまったが、彼は嫌な顔ひとつせず、目を細めた。

「優里はそんな事を気にしなくていいの。こういう日の為に辛いお仕事を頑張っているのですよ、俺は」

ううっと、嘘の涙を指でふき取る仕草をする藤澤さんに申し訳ないなと思う。

「それなら良いのですが...あ、でも、藤澤さん、もともとお仕事好きじゃないですか」

悪いなあって途中までは思ったのにと、ポカポカと抗議の意味を込めて彼の胸を叩く。

「...ばれた?」

彼は笑いながら舌を出し、私の肩を自分の方にソッと引き寄せる。

「でも、大事な仕事と同じくらい優里も大事だから。それは分かって」

「...はい、それは」

私は肩を抱かれながら彼の方へ頭を寄せ、身体を預けた。

いつも大事に大事にされているのに、彼の愛情を疑ったらバチがあたる。
今だって、目眩がしそうなくらい幸せなのだから。

私たちが到着した時間帯はまだ夕方だった。夕食の予約時間まで1時間以上あったので、お互い浴衣に着替え、藤澤さんは他のお風呂にも入りたいと部屋を出て大浴場の方へと向かう。私はというと鍵が1つしかなかったし、長風呂だから彼を外で待たせてしまうのも悪かったので、部屋付きの露天風呂に入らせてもらう事にする。外から見えないのかななんて心配もあったけれど、洗面所からちゃんと囲いもしてあり、なんていってもお風呂に出た時の開放感が違っていた。

掛け湯をして、ざぶんと濁り湯の中に入るとその心地よさに力が抜けそうになる。

「気持ちいい...」

ちょうど、夕方だったから目の前の外の景色もバッチリで、テレビでよく見る光景みたいと思いながら触ったお肌も、スベスベでいい感じ。調子に乗って優雅な露天風呂を堪能してしまうと、やっぱり長風呂になってしまった。それから洗面所で浴衣に着替え、慌ててドライヤーで髪を乾かす。

そこで途端に気になってしまうことが発生する。

...この後、食事に行くからすっぴんだとちょっと...マズイのかな?

こういう経験はゼロな私は、変なところが気になってくる。よくよく考えた末に軽く薄化粧を施し、髪を1つに纏め部屋に戻った。

「...藤澤さん?」

すると部屋には誰もおらず、彼はまだ戻ってきていないのかなと、入り口を見に行くと帰ってきた気配がある。あれ?と思いながら、バルコニーの方に目を向けると、彼が湯上りで外で涼んでいるのが見えた。

...これは、もしかしてチャンス?

私はスマホを手に取り気配を殺して近づき、ワザと後ろから声をかけてみる。

「ふじさわ、さんっ!」

「ん?」

呼ばれて当たり前だけれど、彼は振り返る。その振り向いた無防備な顔をシャッターチャンスとばかりに、スマホのカメラに収めたのだ。

「あ、今...?」

「撮っちゃいました」

私がスマホを持ちながら近づくと、彼は笑いながら抗議をしてくる。

「言ってくれれば、もっとちゃんとした顔を作ったのに」

「私だって、さっき神社で変な顔撮られましたよ?だから、おあいこです」

「それは...その...」

藤澤さんもそこには思い当たるフシがあり、自分の頰を指でかいた後、ちょっと目尻を下げ私の頭をポンと軽く叩いた。

「本当、この人どうしてくれよう...」

頭の上でそう呟いたかと思うと背中に腕を回され、彼の胸の中に閉じ込められる。ぎゅーっとされると、いつもと違う香りがする。彼の体温は温かくてホッとしていたら、スリスリと頰ずりされてしまった。

「ふ、藤澤さん、やめ...」

その戯れがくすぐったくて、身を捩り、少しだけ抵抗を試みると。

「ダメ。もう少し、このまま」

その姿は、まるで私に甘えているみたいに見える。普段、なかなか見られないレアな藤澤さんが可愛くて、しばらくの間されるがままだった。
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