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第一章 人生が変わった7日間
6:父と兄に会いました
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ノックに返事をする間もなく「私だ。入るぞ」という低い男性の声と共に扉が開いた。私は母さんに促され、立ち上がる。
まるで話の切れ目に合わせたかのように、タイミングよくやって来たのは二人の男性だった。
二人とも貴族のような仕立ての良い服を着ているけれど、顔立ちは全く違う。
一人は三十代後半に見えるおじさまで、髪と目は濃茶。面立ちは良く言えば優しげだけど、悪く言えば……貴族にしてはパッとしない顔で親近感が湧いた。
もう一人は私とそう変わらない年頃の青年で、髪と目は藍色。優しそうな表情なのはおじさまと同じだけれど、王子様かと思うほど綺麗な顔をしていた。
親子にしてはあまりに似ていないし、主従にしては二人とも立ち姿に品があり、堂々としている。
この二人がどういう関係なのかさっぱり分からず私がぽかんとしていると、おじさまが目を潤ませ一気に距離を詰めてきた。
「シャルラ、パパだよ。会いたかった……!」
「ひょえ⁉︎」
初対面のおじさまに突然ぎゅうぎゅうと抱きしめられて驚いたけれど、意外には思わなかった。さっき親近感感じちゃったし、やっぱりこの人が父さんなんだと、妙に納得出来たから。
それにしても、そろそろ離してもらえないと息が止まりそう……。
「ジャック、シャルラが潰れちゃうわ」
「ああ、マリア。すまない」
ジャックという名前らしい私の父さんは、母さんの一言でようやく私を解放してくれた。
……と思ったら、今度は頬を両手で挟まれた。
「シャルラ、よく顔を見せておくれ。……ああ、やっぱりマリアにそっくりだ」
「私が母さんに?」
「ああ。目や鼻の形がそっくりだよ。色は私に似たんだな。なんて可愛いんだ……!」
母さんと私の顔が似ているとか、絶対に違うと思う。もしかしたら馬車の事故で頭でも打ったのかもしれない。大丈夫なのかな、父さん。
すると父さんの後ろから、一緒にやってきた青年が顔を出した。
「父上。そろそろ僕も紹介して頂いても?」
「ああ、そうだな」
父上⁉︎ 今、この綺麗な男の人、父上って言ったよ⁉︎
声も出せないままびっくりする私に、父さんは困ったように笑いかけた。
「マリアから聞いたかな? パパは結婚はしてないんだけどね。跡取りは必要だから、遠縁の家から養子を迎えていたんだ」
「初めまして、シャルラ。僕はミュラン。十六歳だから、君の兄になるよ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
咄嗟に返事はしたけれど、内心はそれどころじゃない。
私に兄さんが⁉︎ 遠い親戚って事は薄くても血が繋がってるはずだけど、こんなに綺麗な人が本当に⁉︎
思わず視線を彷徨わせると、母さんがくすりと笑った。
「ジャックもミュラン君も、もう少しシャルラから離れてあげて。びっくりしてるわ、その子」
「すみません。でも、マリアさん。僕のことは呼び捨てにしてください」
「それなら私のことも母と呼んでほしいわ。ジャックの妻になることを、あなたが許してくれるなら、だけれど」
「父上がどれだけあなたを探していたか、僕が一番知っています。喜んでお迎えしますよ、母上」
「ありがとう、ミュラン」
どうやら私が寝ている間に、母さんは兄さんとも打ち解けていたみたい。父さんが嬉しそうに微笑んでいる。
和やかな三人の姿を見るうちに、驚きの連続で混乱していた頭が少しずつ冷えて、胸の奥がチクリと痛んだ。
「母さん、本当に父さんと結婚するんだね」
言ってる事が変な気がするけれど、寂しさ混じりの本音がぽろりと溢れた。
綺麗な母さんが貴族のご婦人になっても違和感はないし、母さんが父さんの隣にいるのはとても自然に思える。三人はきっと素敵な家族になるだろう。でも私はそうじゃない。
だって地味な私は、どうしたって混ざり合わない異物だ。ドレスに浮いた私の顔と同じで、この場に私は似合わない。
だから私は母さんに、さよならを言わなきゃいけないんだ。母さんには幸せになってほしいから。
すると父さんが、また泣きそうな顔になり私の肩を掴んだ。
「シャルラは反対かい? 私とママが結婚するのは」
「ううん、そんなことないよ! 母さんが望んでるわけだし」
「ありがとう、シャルラ……!」
再びぎゅうぎゅうと抱きしめられそうになり、私は慌てて父さんの手を振り払った。
「そういうわけなので、おめでとうございます! 母さんをよろしくお願いしますね!」
「ああ。任せてくれ。マリアも君も、必ず幸せにすると約束するよ」
「私のことは気にしなくて大丈夫ですよ。仕事もありますし、一人でも平気ですから」
「……は?」
私は真面目に言ったのだけれど、父さんは固まった。
「一人でって、何を言ってるんだ。シャルラ」
「私はもう十五です。家事も母さんと分担してきたので出来ますし、一人暮らしにもすぐ慣れると思います」
「いや、いやいやいや……そういう問題じゃないだろう!」
父さんは愕然とした面持ちで、また私の肩を掴んできた。
「シャルラ。君はパパのことを受け入れられないのかい⁉︎」
「まさかそんな。あなたが父さんだって、ちゃんと分かってますよ」
「父と呼んでくれた……!」
ついさっきまで血走った目をして恐ろしい顔をしていた父さんは、一瞬にして夢の世界に飛んだみたいな蕩けた顔になった。
浮き沈み激しい人みたい。私の父さん。
「ジャック。嬉しいのは分かるけれど、今はそれどころじゃないでしょう」
「そうだった!」
父さんをペリッと引き剥がし、母さんが私の顔を覗き込んだ。
「シャルラ。母さんは結婚するけれど、あなたにも一緒にいてほしいのよ」
「なんで?」
「家族の時間を取り戻したいからよ」
「母さんと離れても、私が娘なのは変わりないよ?」
「それはそうなんだけどね……」
どうやら母さんは、私に貴族の娘になってほしいみたい。でも、それは無理だ。
「母さん、私ね。自分のことはよく分かってるよ。こんなに素敵なドレスを着せてもらえて嬉しかったし、美味しい朝ごはんを食べさせてもらったし、ベッドもふかふかで気持ち良かった。でも、私の居場所はここじゃない」
「シャルラ……」
母さんの寂しそうな顔に、胸がキュッと締め付けられる。だけどこれが私の本音だ。
突然現れた父さんは、私みたいにパッとしない面立ちだけれど、動きの端々から貴族だって分かる。そして綺麗な母さんと兄さん。こんな人たちと家族と言われても、どうしたって私は浮いてしまう。
貴族の娘になるなんて、私には出来ない。
「くくく……ははっ!」
「兄さん?」
冷え固まった空気の中、兄さんが肩を揺らして笑い出した。いきなりどうしたんだろう? 思い出し笑い?
「ごめん、突然笑って。てっきり貴族になれるって喜ぶかと思ったのに、まさか断るなんて思わなくて」
笑われたのって私だったの⁉︎ そんな笑うような部分、どこにもないと思うんだけど⁉︎
「父上、彼女なら大丈夫です。何があっても僕が守りますよ」
「ミュラン、引き受けてくれるか!」
真っ青な顔をしていた父さんが急に喜色を浮かべた。一体何の話をしているのか、さっぱり分からない。
ぽかんとした私の手を、兄さんがそっと握った。
「シャルラ。急に貴族の娘だと言われて戸惑うのも無理はないけれど、君を逃してはあげられないんだ。ごめんね」
「えっと……どういうことですか?」
「とりあえず座ろうか」
まるで宝物でも扱うかのように、兄さんに手を引かれてソファへ座る。
なぜか私の隣に兄さんが。向かいのソファに、母さんと父さんが並んで座った。
「さっきも言ったけれど、僕はモルセン子爵家の遠縁の出だ。一応血は繋がっているけれど、その繋がりはとても薄い。これは分かるね?」
「はい。分かります」
「そんな僕が爵位を継ぐのは、直系の跡取りがいないからだった。でもそこに、君が現れた。父上の血を継ぐ君が」
真っ直ぐに見つめてくる兄さんの言葉に、何となく居心地が悪くなる。
「それって、私がいると兄さんは跡を継げなくなるってことですか?」
「そうじゃない。君がいるなら、より良い方法を取れるってことだよ」
「より良い方法?」
首を傾げた私に微笑むと、兄さんは私の手を握ったまま、床に跪いた。
「シャルラ。僕と結婚してほしい」
「はあ⁉︎」
私の素っ頓狂な声が部屋に響く。
こんな美形が兄だっていうだけでいっぱいいっぱいなのに、その兄から求婚されるってどういうことなの⁉︎
まるで話の切れ目に合わせたかのように、タイミングよくやって来たのは二人の男性だった。
二人とも貴族のような仕立ての良い服を着ているけれど、顔立ちは全く違う。
一人は三十代後半に見えるおじさまで、髪と目は濃茶。面立ちは良く言えば優しげだけど、悪く言えば……貴族にしてはパッとしない顔で親近感が湧いた。
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それにしても、そろそろ離してもらえないと息が止まりそう……。
「ジャック、シャルラが潰れちゃうわ」
「ああ、マリア。すまない」
ジャックという名前らしい私の父さんは、母さんの一言でようやく私を解放してくれた。
……と思ったら、今度は頬を両手で挟まれた。
「シャルラ、よく顔を見せておくれ。……ああ、やっぱりマリアにそっくりだ」
「私が母さんに?」
「ああ。目や鼻の形がそっくりだよ。色は私に似たんだな。なんて可愛いんだ……!」
母さんと私の顔が似ているとか、絶対に違うと思う。もしかしたら馬車の事故で頭でも打ったのかもしれない。大丈夫なのかな、父さん。
すると父さんの後ろから、一緒にやってきた青年が顔を出した。
「父上。そろそろ僕も紹介して頂いても?」
「ああ、そうだな」
父上⁉︎ 今、この綺麗な男の人、父上って言ったよ⁉︎
声も出せないままびっくりする私に、父さんは困ったように笑いかけた。
「マリアから聞いたかな? パパは結婚はしてないんだけどね。跡取りは必要だから、遠縁の家から養子を迎えていたんだ」
「初めまして、シャルラ。僕はミュラン。十六歳だから、君の兄になるよ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
咄嗟に返事はしたけれど、内心はそれどころじゃない。
私に兄さんが⁉︎ 遠い親戚って事は薄くても血が繋がってるはずだけど、こんなに綺麗な人が本当に⁉︎
思わず視線を彷徨わせると、母さんがくすりと笑った。
「ジャックもミュラン君も、もう少しシャルラから離れてあげて。びっくりしてるわ、その子」
「すみません。でも、マリアさん。僕のことは呼び捨てにしてください」
「それなら私のことも母と呼んでほしいわ。ジャックの妻になることを、あなたが許してくれるなら、だけれど」
「父上がどれだけあなたを探していたか、僕が一番知っています。喜んでお迎えしますよ、母上」
「ありがとう、ミュラン」
どうやら私が寝ている間に、母さんは兄さんとも打ち解けていたみたい。父さんが嬉しそうに微笑んでいる。
和やかな三人の姿を見るうちに、驚きの連続で混乱していた頭が少しずつ冷えて、胸の奥がチクリと痛んだ。
「母さん、本当に父さんと結婚するんだね」
言ってる事が変な気がするけれど、寂しさ混じりの本音がぽろりと溢れた。
綺麗な母さんが貴族のご婦人になっても違和感はないし、母さんが父さんの隣にいるのはとても自然に思える。三人はきっと素敵な家族になるだろう。でも私はそうじゃない。
だって地味な私は、どうしたって混ざり合わない異物だ。ドレスに浮いた私の顔と同じで、この場に私は似合わない。
だから私は母さんに、さよならを言わなきゃいけないんだ。母さんには幸せになってほしいから。
すると父さんが、また泣きそうな顔になり私の肩を掴んだ。
「シャルラは反対かい? 私とママが結婚するのは」
「ううん、そんなことないよ! 母さんが望んでるわけだし」
「ありがとう、シャルラ……!」
再びぎゅうぎゅうと抱きしめられそうになり、私は慌てて父さんの手を振り払った。
「そういうわけなので、おめでとうございます! 母さんをよろしくお願いしますね!」
「ああ。任せてくれ。マリアも君も、必ず幸せにすると約束するよ」
「私のことは気にしなくて大丈夫ですよ。仕事もありますし、一人でも平気ですから」
「……は?」
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「一人でって、何を言ってるんだ。シャルラ」
「私はもう十五です。家事も母さんと分担してきたので出来ますし、一人暮らしにもすぐ慣れると思います」
「いや、いやいやいや……そういう問題じゃないだろう!」
父さんは愕然とした面持ちで、また私の肩を掴んできた。
「シャルラ。君はパパのことを受け入れられないのかい⁉︎」
「まさかそんな。あなたが父さんだって、ちゃんと分かってますよ」
「父と呼んでくれた……!」
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「ジャック。嬉しいのは分かるけれど、今はそれどころじゃないでしょう」
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「なんで?」
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「それはそうなんだけどね……」
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「シャルラ……」
母さんの寂しそうな顔に、胸がキュッと締め付けられる。だけどこれが私の本音だ。
突然現れた父さんは、私みたいにパッとしない面立ちだけれど、動きの端々から貴族だって分かる。そして綺麗な母さんと兄さん。こんな人たちと家族と言われても、どうしたって私は浮いてしまう。
貴族の娘になるなんて、私には出来ない。
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「兄さん?」
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ぽかんとした私の手を、兄さんがそっと握った。
「シャルラ。急に貴族の娘だと言われて戸惑うのも無理はないけれど、君を逃してはあげられないんだ。ごめんね」
「えっと……どういうことですか?」
「とりあえず座ろうか」
まるで宝物でも扱うかのように、兄さんに手を引かれてソファへ座る。
なぜか私の隣に兄さんが。向かいのソファに、母さんと父さんが並んで座った。
「さっきも言ったけれど、僕はモルセン子爵家の遠縁の出だ。一応血は繋がっているけれど、その繋がりはとても薄い。これは分かるね?」
「はい。分かります」
「そんな僕が爵位を継ぐのは、直系の跡取りがいないからだった。でもそこに、君が現れた。父上の血を継ぐ君が」
真っ直ぐに見つめてくる兄さんの言葉に、何となく居心地が悪くなる。
「それって、私がいると兄さんは跡を継げなくなるってことですか?」
「そうじゃない。君がいるなら、より良い方法を取れるってことだよ」
「より良い方法?」
首を傾げた私に微笑むと、兄さんは私の手を握ったまま、床に跪いた。
「シャルラ。僕と結婚してほしい」
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