ヒロインと呼ばれても〜自称悪役令嬢に王子をお勧めされましたが、私の好みは貴女の従者様です

春日千夜

文字の大きさ
5 / 102
第一章 人生が変わった7日間

5:出生の秘密を知りました

しおりを挟む
 まぶた越しに感じる優しい光に、ゆっくりと意識が浮き上がる。ふわふわとした夢見心地の中、触れた事のない柔らかな布地に包まれているのに気が付き、私は薄らと目を開けた。

「ここは……どこ?」

 気を失った私が目を覚ましたのは、見知らぬ部屋だった。
 母と二人で寝ても余裕のありそうな大きなベッドに、上質なシーツ。母と住んでいる家と同じぐらいの広さの部屋には、高級そうな家具が置かれている。

 一体ここがどこなのか、全くもって分からない。きっとこんな豪華な部屋に住んでいるのは、王様とかそういう凄い人たちのはずで……。

 ベッドの上に座ったまま、ぼんやりと考えていたら、部屋の扉が静かに開いた。

「シャルラ、起きたの?」
「……母さん?」

 ほっとしたような顔で入ってきた母さんの姿に驚いた。だって貴族のご婦人みたいな、素敵なドレスを着ていたから。

「痛いところはない? お医者様は、どこも怪我はないって仰ってたけど」
「お医者様? 母さん、私……」
「びっくりしたわよね。怖かったでしょう? でも、もう大丈夫だから」

 心配そうに母さんは言うと、私の手を握った。温もりを感じながら何があったのかを思い返して……。

「母さん……イールトさんは?」

 口からこぼれ落ちたのは、震えて掠れた声。きっと今の私の顔は、恐怖でいっぱいだと思う。母さんは私をそっと抱き寄せてくれた。

「私を助けてくれた彼も無事よ」
「本当? 本当に?」
「ええ。服はボロボロになってたのに、どこも怪我してなかったの。奇跡よね」

 到底信じられないような話だったけれど、耳元で響いた母さんの声に嘘は感じられなかった。イールトさんは……私の好きなあの人は、助かったんだ。

「よか……った……」
「そうね。イールトさんも心配してたわよ、シャルラのこと。後でお見舞いに来るって言ってたわ」
「うん、うん……」

 いつの間にか涙が溢れて、母さんのドレスを濡らしてしまった。それでもどうにも止まらなくて、私は子どもみたいに母さんにしがみついて、わんわん泣いた。
 こんなに素敵なドレスなのに、シワになっちゃう。でも優しい母さんは、私が泣き止むまで静かに背を撫でてくれた。

「ごめん、母さん」
「謝る必要なんてないわよ。彼は、シャルラの大事な人なんでしょう?」
「え⁉︎」

 嘘でしょ。何で分かるの⁉︎

「分かるわよ、母親だもの」
「母さん。私、まだ何も言ってないよ」
「顔に書いてあるもの。『どうして分かったの?』って」

 私ってそんなに顔に出やすいんだ……。ちょっと恥ずかしい。

「紹介してくれようとしてたの?」
「そんなんじゃないよ! イールトさんはパン屋の常連さんなだけで、あの時はたまたま一緒だっただけなの。別に私とどうこうってわけじゃないから」
「あら、そうなのね。それならこれからってところかしら?」
「それは……まだ、分かんないよ」
「そう」

 俯いてしまった私の頭を、母さんが撫でてくれる。母さんもイールトさんも、本当に無事で良かった。
 それにしても、変な空気になっちゃったな。話を変えないと。

「それで母さん。ここはどこなの? それにその服は?」
「ああ、ここはね。昨日の馬車の持ち主で、あなたの父さんの家なの。このドレスも、あなたの父さんが用意してくれたのよ」
「私の父さん……?」

 気になっていた事を尋ねたら、返ってきた答えは思いがけないものだった。

 私に父さんっていたの? ……いや、男と女がいないと子どもは生まれないんだから、いるのは分かってるけど。母さんは何も言わなかったから、てっきり死んでると思ってて。ちょっと信じられない。

「あなたの父さんのこと、今まで話さなくてごめんね」
「ううん。でも、えっと、その……何で?」
「話すと長いのよ。先に食事にしましょう。お腹空いてるでしょう?」
「あ、うん。そうだね」

 言われてみれば、確かにペコペコだ。だって昨日の夕食も食べそびれてるわけで……って。

「母さん、いま何時⁉︎ 遅刻しちゃう!」
「まだ朝だけれど、仕事なら大丈夫よ。親父さんたちには、ちゃんと知らせてあるから」
「そうなの?」
「ええ。とりあえず、明日まであなたはお休みよ」
「分かった。……ありがとう、母さん」
「どういたしまして」

 明日は店休日だもんね。急なお休みになっちゃって申し訳ないけれど、色々聞きたい事もあるし、有り難く休ませてもらおう。

 気持ちが固まったら、さらにお腹が空いてきた。でも母さんは扉の外に声をかけただけで、食事の支度には行かなかった。

 何となく感じてはいたけれど、やっぱりこの部屋の持ち主……つまり私の父さんらしいけど、只者じゃないみたい。
 だってメイドさんがいるんだよ⁉︎ 食事の前に着替えましょうって、顔や身体を拭かれて。他人に触られるなんてびっくりで、固まってしまった。

 緊張してるうちに、私までワンピースドレスを着せられて。まるでお姫様みたいだって、大喜びで鏡を見たけれど、地味顔の私にはドレスが浮いて見えた。
 うん、そうだよね。分かってたよ……。

 そんなこんなで出された朝食も、豪勢なものだった。本当に私が食べていいのかな、って思うぐらいに。
 何せいつもの私と母さんの朝食なんて、パンと前の晩のスープ。チーズを付けれたらラッキーって感じだからね。
 だからといって遠慮はしないよ。お腹空いてるし、こんな機会は滅多にないし。

 私の父さんって何者なんだろう? こんなすごい食事を毎朝食べてるなんて。王様だったりしたらどうしようって、本気で悩んじゃう。

「結構量が多いでしょう? でも綺麗に食べれたわね。良かったわ」
「うん、すごく美味しかったよ。ごちそうさま」

 広々とした部屋には、ベッドだけじゃなくてテーブルと椅子も置かれてた。今はそこで母さんと向かい合わせに座っている。
 メイドさんが空になった皿を下げてくれて、食後のお茶を入れてくれた。本当にお茶なのかな、って思うぐらいすごく良い香りがして自然と口が緩むけど、いつまでものんびりしてるわけにはいかないよね。

「それで母さん。さっきの話なんだけど。父さんって何者なの? まさか王様じゃないよね?」
「王様⁉︎ さすがにそれはないわよ!」

 私はすごく真面目に話したんだけど、母さんに笑われた。王様じゃないとしたら、一体何者なの? 富豪?

「あなたの父さんはね、貴族なの」
「貴族……!」

 そっか、貴族か。それならこの立派な部屋も納得出来る。……って言っても、貴族の家なんて初めてだから、これが普通なのかよく分からないけど。

「じゃあ、母さんが父さんと一緒にいられなかったのは、もしかして」
「そうよ。身分に差があったから。あなたのおじいさんに反対されたの」

 よくある話だよね。貴族が平民に手を出して、子ども作って捨てるって話。私と母さんも、そうだったわけだ。
 思わず顔をしかめてしまって、眉が寄る。でも母さんは、私の眉間のシワをつついて笑った。

「そんな顔しないの。父さんは、私とあなたを捨てたわけじゃないわ」
「そうなの?」
「ええ。あなたの存在も、あの人は昨日初めて知ったのよ」

 え、嘘でしょ⁉︎ 母さんは、ずっと黙ってたってこと⁉︎

「私はね、あなたを守るために、あの人から逃げたの。あなたのおじいさんを悪く言いたくはないけれど、本当に危なかったから」
「殺されそうだったってこと?」
「そうよ。あの人に昨日、泣きながら謝られたわ。守れなくてすまなかったって」

 母さんは昔、この家で下働きをしていたそうだ。そこで父さんと出会って恋に落ちた。それを私のおじいさん、先代当主に知られてクビになった。
 けれど二人の恋は終わらなかった。父さんと母さんはこっそり付き合いを続け、やがて母さんは私を身籠ったけれど、それを父さんより先におじいさんに知られてしまった。
 当然、付き合いを反対していたおじいさんは激怒。父さんに諦めさせるために、お腹にいた私ごと母さんを殺そうとしたらしい。

 貴族相手に、私たち庶民が出来る事なんてほとんどない。だから母さんは私を守るために逃げて、一人で頑張ってくれたんだ。
 困ったな。また涙が出てきそうだ。

「でもそれなら、私と母さんを殺そうとしたおじいさんは? 私たち、ここにいても大丈夫なの?」
「もう亡くなったそうよ。あなたのおばあさんもね。今はあなたの父さんがこの家の当主だし、彼には兄弟もいなかったの。だから誰ももう、私たちを害さないって」
「そっか……」

 おじいさんもおばあさんもいないと聞いて、いつの間にか緊張していた肩の力が、ほっと抜けた。
 仮にも私の祖父なんだから、罰当たりな気もするけど。私たちを殺そうとしてたぐらいだもんね。このぐらいは許してほしい。

「母さんはこれからどうするの? 父さんとよりを戻すの?」
「そのつもりよ。私が消えた後も、あなたの父さんは縁談を全部断って、ずっと私を探し続けていたみたいだから」

 うわあ、びっくりだよ。母さん、そんなに愛されてたんだ。
 私の父さんって、どんな人なんだろう? ちょっと気になってきた。

 するとそこへ、コンコンと扉を叩く音が響いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく…… (第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!

くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。 ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。 マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ! 悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。 少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!! ほんの少しシリアスもある!かもです。 気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。 月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...