ヒロインと呼ばれても〜自称悪役令嬢に王子をお勧めされましたが、私の好みは貴女の従者様です

春日千夜

文字の大きさ
24 / 102
第一章 人生が変わった7日間

24:色の意味を知りました

しおりを挟む
「シャルちゃんがそう呼びたいなら構わないけど……。それは二人きりの時にしてほしいかな」

 奇妙な呻き声を漏らしたイールトさんは、小さく咳払いした後、困ったように眉根を寄せて話した。

「何でですか?」
「ほら、その話し方。それがいつものシャルちゃんだっていうのは分かるけど、子爵家のご令嬢としては良くないんだよ」

 私の話し方……みんなに注意されてるもんね。でも教えてくれるなら先生って呼んでもいいと思うんだけど、ダメなのかな?

 不思議に思う気持ちがまた顔に出てたのかもしれない。イールトさんは表情を和らげて、言い聞かせるように話を続けた。

「これから先シャルちゃんには、休憩する時以外、基本的にずっとマナーの勉強をしてもらうつもりなんだ。普段から徹底しないと身につかないからね。だからその間は俺を使用人として扱ってほしいんだ」
「それは呼び捨てで、口調も変えてってことですよね」
「そう。その分、休憩してる間はシャルちゃんの好きな呼び方で呼んでいいよ。本当は俺もこんな話し方はやめなきゃいけないんだけど……。シャルちゃんはこっちの方が気を抜けるだろう?」
「はい。イールトさんにお嬢様みたいに扱われるのは落ち着かないです」
「だから休憩時に二人きりになった時は、俺も素で話させてもらうよ。それでいい?」
「……分かりました」

 学園に行くのにマナーの勉強はどうしたってしなくちゃいけない。だから私は大人しく頷いた。
 イールトさんはホッとした様子で微笑みを浮かべた。

「そういうわけで、シャルちゃん。この紅茶を飲み終えたら午前の休憩は終わりだ。この後はマナーの勉強をしながら昼食を食べて、午後は学園のことについて教えるよ。だから今のうちにの俺に聞きたいことがあれば、何でも答えてあげる。何かある?」

 いたずらっぽく言ったイールトさんから視線を逸らし、考えながら紅茶に口をつける。

(イールトさんに聞きたい事、かぁ……)

 お屋敷に泊まるってお部屋はどこなんですか、とか。学園に通うようになったらアルフィール様の所に帰っちゃうんですか、とか。私が王子様と結婚しないと本当にアルフィール様は死んじゃうんですか、とか。聞いてみたい事はたくさんある。
 でもそれはどれも、私がイールトさんを好きだからこそ尋ねたい事で。もし答えてもらえなかったりイールトさんを困らせてしまったりしたら、立ち直れなくなるかもしれない。

 それにきっとこれは、イールトさんの優しさなはずで。慣れない環境で暮らすことになった私が少しでも気楽に勉強を始められるようにと、問いかけてくれたんだと思う。
 困ってる事や戸惑ってる事はないかって、そう聞いてくれてるんだ。きっと。

 だから私は飲みかけのカップを置いて、頭に浮かんだのとは違う質問をした。

「さっきのことなんですけど……。兄さんとイールトさん、ドレスを選ぶのにすごく時間をかけてましたよね?」
「ああ、まあね」
「マダムも言ってましたけど、何も分からないからって兄さんに頼りっぱなしはいけないなって思ったんです。だからドレス選びのことを教えてほしいです」
「そっか……」

 私は真剣に話したのだけれど。イールトさんは苦笑して答えた。

「ドレスはその時々の流行りも色々とあるから、シャルちゃんがいきなり覚えるのは難しいと思うんだ。だから詳しいことは、これから付く専属メイドに任せてもいいと思う。主人のために流行を把握しておくのはメイドの仕事でもあるから」
「じゃあ、私には出来ることはないってことですか?」
「いや、自分に似合うドレスの型を覚えておくのはいいと思うよ。身長や体型によって似合わないものも中にはあるんだ。あとは、そうだね。やっぱり、ドレスや合わせるアクセサリーの色かな」
「ドレスの型と色……。色も似合うかどうか、考えないといけないんですね」
「それもそうだけど、今日ミュラン様がこだわってた色の理由なんかは、知っておいた方がいいと思うよ」

 兄さんがこだわってた色? 確か藍色だったけれど、年齢の割には暗いってイールトさんが反対してたんだよね。

「理由なんかあるんですか?」
「あるよ。あの色は、ミュラン様の色だから」
「兄さんの色?」

 思い返してみれば、あの藍色の布地は兄さんの髪と瞳の色によく似ていた。
 そっか。兄さんは、自分の色だからこだわってたんだ。……なんで?

「私のドレスなのに、どうして兄さんはそこにこだわったんですか?」
「牽制になるからだよ。男の髪や瞳の色のドレスを着るのには、特別な意味があってね。普通は婚約者か夫婦じゃないと着ない」
「こ、婚約⁉︎」
「でもミュラン様の場合は、シャルちゃんの兄だからね。兄弟の色を着る時は、その人が姉妹を大事にしているって意味になるんだよ。つまり今回のドレスは、妹に声をかけたいなら自分を通してからにしろっていう意味になるわけ」

 兄さんが選んだドレスは学園のダンスパーティで着るためのものだけれど、お茶会や夜会など、今後私が社交の場に出る時にも使うらしい。
 貴族のパーティでは、婚約者のいない人は家族や親族がエスコートするそうで。お互いに婚約者のいない私と兄さんは、兄妹でパートナーとなるみたい。
 その時に兄さん色のドレスを私が着てると、変な男の人は寄ってこなくなるそうだ。

「だからマダムは私に、愛されてるねって言ってたんですね」
「そういうこと。これから先も、シャルちゃんはドレスを作る機会があると思うし、誰かからドレスを贈られることもあると思う。だからその時は、自分が着るドレスの色とそれを贈った相手をよく考えてみて」
「分かりました。ありがとうございます、イールト先生」
「……どういたしまして。紅茶、冷めただろうから入れ直すね」

 微笑んでお礼を言えば、イールトさんはまた小さく咳払いして。飲みかけになってた私のカップを取り、後ろを向いてしまった。

(ドレスの色にそんな意味があるなんて思わなかったな)

 ぼんやりとしながら、紅茶を入れ直すイールトさんの背を眺める。後ろ姿もカッコいいなと思ううちに、ふとさっきのやり取りが頭を過った。

(あの時イールトさんは、ドレスの色を藍色にするのを止めようとしてたよね。あれって、兄さんの色を着せたくないって思ってくれたりしたのかな? それとも、王子様に気に入られなくちゃいけないから、止めようとしただけ?)

 思い出していると、何となくモヤモヤしたものを感じて。私はクッキーを一口かじった。

(イールトさんがここにいるのは、私を王子様に相応しいご令嬢にするため、なんだよね。アルフィール様を死なせないために必要なんだもの。だからドレスの時だって、きっと王子様のことを考えただけだよ。諦めたくないって思ってるのは、私だけなんだ。これは私の片想いでしかないんだから……)

 香ばしく焼かれたクッキーは、僅かな甘味を残してあっという間に消えていく。ポロポロと崩れてしまうクッキーに、どうしてか切なさを感じて。見え隠れする胸の痛みを誤魔化すように、私は一気に残りを口に放り込んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく…… (第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!

くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。 ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。 マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ! 悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。 少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!! ほんの少しシリアスもある!かもです。 気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。 月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...