26 / 102
第一章 人生が変わった7日間
26:本音がこぼれました
しおりを挟む
「シャルちゃん、少し休憩しようか」
私が本を落としたからか、イールトさんは口調を崩し、紅茶を入れ直してくれた。一気に肩の力が抜けてホッと息を吐いていると、イールトさんは貝の形をした焼菓子と一緒にカップを置いてくれた。
「わあ、可愛いですね! これ、何ですか?」
「マドレーヌっていうお菓子だよ。昨日アルフィールお嬢様が来られた時も出てたけど……シャルちゃんは食べてなかったね。初めて?」
「はい! 昨日は見たことないお菓子がいっぱいありましたけど、食べれなかったので嬉しいです!」
ワクワクが抑えきれないまま、躊躇なく手を伸ばそうとしたけれど、イールトさんが立ったままなのに気付いて首を傾げた。
「イールトさんは座らないんですか?」
「俺? 俺はいいよ」
「えっ、座ってくださいよ。今は私たちしかいませんし。一緒に休憩しましょう?」
「……じゃあ、少しだけ」
イールトさんは手際よく自分の紅茶も入れると、私の向かいに腰を下ろした。好きな人と同じテーブルでお茶出来るなんて、幸せすぎる。
にやけそうな顔に気付かれたくないから、初めての焼菓子……マドレーヌに手を伸ばす。一口かじれば、しっとりとした食感と甘さが広がって、自然と頬が緩んだ。
「やっぱりシャルちゃんは、自然のままがいいね」
不意にかけられた声に、ハッとする。うっかりまた大口を開けて食べてたかもしれない……!
「あ……そうですよね。私、全然うまく出来なくて」
「いや、そうじゃないんだ。ただ……アルフィールお嬢様の口真似は、失敗だったかなって思って」
「そういえば、さっき笑ってましたよね? 酷いです!」
「しまったな、気付かれてたか」
イールトさんは楽しげに笑うと、柔らかな眼差しで言葉を継いだ。
「でも本当に、アルフィールお嬢様の真似はしなくていいよ。シャルちゃんの場合は……そうだな。使用人と話す時は、友達と話す感覚を意識した方がいいと思う」
「友達、ですか。分かりました。やってみます」
「うん。頑張って」
正直に言えば、友達はほとんどいない。同年代の子たちと遊ぶ暇なんてなかったから。でも、孤児院の子どもたちとは遊んでいたから、その時の気持ちになればきっと気楽に話せるようになるだろう。……頑張らなきゃ。
密かに気合いを入れていると、イールトさんはゆっくりカップに口を付けた。イールトさんもアルフィール様みたいに手付きが優雅で、見惚れてしまう。
「どうかした?」
「あ、いえ……えっと」
どうしよう。見つめてたのを気付かれた! どうにかして、誤魔化さないと……!
「さっきの。さっきの話なんですけど、私が聖魔法を使えるって、本当なんですか?」
咄嗟に出た質問は、実際に気になっていた事だからちょうど良かった。本当に質問したかっただけなんです、って顔をして返事を待ってみる。
するとイールトさんは、どこか寂しげに視線を落とした。
「そうだよ。シャルちゃんは聖魔法を使える」
「使える人は限られてるのに、どうして分かるんですか? もしかして、それもヒロインと関係が?」
「うん。アルフィールお嬢様のお話だと、ヒロインは回復魔法を使えるそうだよ」
やっぱりそうか。そういうことなら……。
「じゃあ、私がもし回復魔法を使えなかったら、ジミ恋のヒロインじゃないってことですよね」
そう。私が本当に聞きたかったのはこれだ。私がヒロインだというのが何かの間違いだったなら、王子様と結婚する意味がなくなるんだ。
けれどイールトさんは、苦笑して頭を振った。
「いいや。シャルちゃんは使えるよ。もうすでに使ってるから、ヒロインなのは間違いない」
「私が魔法を使ったっていうんですか? いつ?」
「馬車の事故の時。シャルちゃんは回復魔法で俺を助けたんだよ」
イールトさんは真面目に話してるみたいだけど、到底信じられない。だってあの時……。
「イールトさんは無傷だったんじゃないんですか?」
「違うよ。本当は死にかけてたんだ。シャルちゃんが魔法をかけてくれなかったら、俺は間違いなく死んでたよ」
思いがけない話に、息が詰まる。でも嘘だなんて言えない。
だって私は、それが本当の話なんだって分かる。母さんが死ぬはずだった馬車の事故だ。イールトさんがボロボロになってたのも見た。顔が真っ白でぐったりしてて、どんなに声をかけても目を覚さなくて、呼吸も浅かったイールトさんの姿が……。
「シャルちゃん、しっかり! 俺は大丈夫だから」
「は、はい……」
いつの間にか、息ができなくなってたみたいで。イールトさんが立ち上がって私の背をさすってくれた。
どうにか返事をすると、イールトさんはホッと息を吐き、冷たくなっていた私の手を握った。
「君が助けてくれたんだ。ありがとう、シャルちゃん。……お礼を言うのが遅くなってごめんね」
「いえ……。母さんを助けてもらったわけですから。イールトさんが、無事で良かった」
「うん、ごめん」
じわりと涙が目に滲んで。こぼれ落ちそうになる雫を、イールトさんはハンカチでそっと拭ってくれた。
心配そうに私を見るイールトさんの目は優しくて。私の手を包み込むように温めてくれるイールトさんの手は、大きくて安心出来る。
(やっぱり好きだよ……。でも、私は本当にヒロインなんだ)
胸がギュッと締め付けられるように苦しくなって。気付いたら、ポロリと言葉が溢れていた。
「私、王子様と結婚なんてしたくないです」
私が本を落としたからか、イールトさんは口調を崩し、紅茶を入れ直してくれた。一気に肩の力が抜けてホッと息を吐いていると、イールトさんは貝の形をした焼菓子と一緒にカップを置いてくれた。
「わあ、可愛いですね! これ、何ですか?」
「マドレーヌっていうお菓子だよ。昨日アルフィールお嬢様が来られた時も出てたけど……シャルちゃんは食べてなかったね。初めて?」
「はい! 昨日は見たことないお菓子がいっぱいありましたけど、食べれなかったので嬉しいです!」
ワクワクが抑えきれないまま、躊躇なく手を伸ばそうとしたけれど、イールトさんが立ったままなのに気付いて首を傾げた。
「イールトさんは座らないんですか?」
「俺? 俺はいいよ」
「えっ、座ってくださいよ。今は私たちしかいませんし。一緒に休憩しましょう?」
「……じゃあ、少しだけ」
イールトさんは手際よく自分の紅茶も入れると、私の向かいに腰を下ろした。好きな人と同じテーブルでお茶出来るなんて、幸せすぎる。
にやけそうな顔に気付かれたくないから、初めての焼菓子……マドレーヌに手を伸ばす。一口かじれば、しっとりとした食感と甘さが広がって、自然と頬が緩んだ。
「やっぱりシャルちゃんは、自然のままがいいね」
不意にかけられた声に、ハッとする。うっかりまた大口を開けて食べてたかもしれない……!
「あ……そうですよね。私、全然うまく出来なくて」
「いや、そうじゃないんだ。ただ……アルフィールお嬢様の口真似は、失敗だったかなって思って」
「そういえば、さっき笑ってましたよね? 酷いです!」
「しまったな、気付かれてたか」
イールトさんは楽しげに笑うと、柔らかな眼差しで言葉を継いだ。
「でも本当に、アルフィールお嬢様の真似はしなくていいよ。シャルちゃんの場合は……そうだな。使用人と話す時は、友達と話す感覚を意識した方がいいと思う」
「友達、ですか。分かりました。やってみます」
「うん。頑張って」
正直に言えば、友達はほとんどいない。同年代の子たちと遊ぶ暇なんてなかったから。でも、孤児院の子どもたちとは遊んでいたから、その時の気持ちになればきっと気楽に話せるようになるだろう。……頑張らなきゃ。
密かに気合いを入れていると、イールトさんはゆっくりカップに口を付けた。イールトさんもアルフィール様みたいに手付きが優雅で、見惚れてしまう。
「どうかした?」
「あ、いえ……えっと」
どうしよう。見つめてたのを気付かれた! どうにかして、誤魔化さないと……!
「さっきの。さっきの話なんですけど、私が聖魔法を使えるって、本当なんですか?」
咄嗟に出た質問は、実際に気になっていた事だからちょうど良かった。本当に質問したかっただけなんです、って顔をして返事を待ってみる。
するとイールトさんは、どこか寂しげに視線を落とした。
「そうだよ。シャルちゃんは聖魔法を使える」
「使える人は限られてるのに、どうして分かるんですか? もしかして、それもヒロインと関係が?」
「うん。アルフィールお嬢様のお話だと、ヒロインは回復魔法を使えるそうだよ」
やっぱりそうか。そういうことなら……。
「じゃあ、私がもし回復魔法を使えなかったら、ジミ恋のヒロインじゃないってことですよね」
そう。私が本当に聞きたかったのはこれだ。私がヒロインだというのが何かの間違いだったなら、王子様と結婚する意味がなくなるんだ。
けれどイールトさんは、苦笑して頭を振った。
「いいや。シャルちゃんは使えるよ。もうすでに使ってるから、ヒロインなのは間違いない」
「私が魔法を使ったっていうんですか? いつ?」
「馬車の事故の時。シャルちゃんは回復魔法で俺を助けたんだよ」
イールトさんは真面目に話してるみたいだけど、到底信じられない。だってあの時……。
「イールトさんは無傷だったんじゃないんですか?」
「違うよ。本当は死にかけてたんだ。シャルちゃんが魔法をかけてくれなかったら、俺は間違いなく死んでたよ」
思いがけない話に、息が詰まる。でも嘘だなんて言えない。
だって私は、それが本当の話なんだって分かる。母さんが死ぬはずだった馬車の事故だ。イールトさんがボロボロになってたのも見た。顔が真っ白でぐったりしてて、どんなに声をかけても目を覚さなくて、呼吸も浅かったイールトさんの姿が……。
「シャルちゃん、しっかり! 俺は大丈夫だから」
「は、はい……」
いつの間にか、息ができなくなってたみたいで。イールトさんが立ち上がって私の背をさすってくれた。
どうにか返事をすると、イールトさんはホッと息を吐き、冷たくなっていた私の手を握った。
「君が助けてくれたんだ。ありがとう、シャルちゃん。……お礼を言うのが遅くなってごめんね」
「いえ……。母さんを助けてもらったわけですから。イールトさんが、無事で良かった」
「うん、ごめん」
じわりと涙が目に滲んで。こぼれ落ちそうになる雫を、イールトさんはハンカチでそっと拭ってくれた。
心配そうに私を見るイールトさんの目は優しくて。私の手を包み込むように温めてくれるイールトさんの手は、大きくて安心出来る。
(やっぱり好きだよ……。でも、私は本当にヒロインなんだ)
胸がギュッと締め付けられるように苦しくなって。気付いたら、ポロリと言葉が溢れていた。
「私、王子様と結婚なんてしたくないです」
0
あなたにおすすめの小説
困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
(第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる