ヒロインと呼ばれても〜自称悪役令嬢に王子をお勧めされましたが、私の好みは貴女の従者様です

春日千夜

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第二章 諦めない70日間

55:秘密を勝手に明かしました

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「そのメイドは公爵邸でよく見かけたな。髪や目の色もイールトに似ている。イールトの妹か?」

 王宮のメイドさんたちが紅茶の準備を進める中、第一王子は興味深げに問いかけた。
 ちらりとリジーを窺えば、直答していいか迷っているみたいだ。ここは私が代わりに答えた方がいいんだろうな。

「そうです。彼女はリジーと言います。リジー、ご挨拶を」
「イールトの妹、リジーでございます。元はアルフィールお嬢様にお仕えしておりましたが、今はシャルラ様付きのメイドをしております」

 リジーが丁寧に挨拶する中、カップを並べ終えた王宮のメイドさんたちに、ジェイド様が下がるように伝える。私たちとリジーしかいなくなった所で、ラステロ様が盗聴防止のシールドを張ると、第一王子は話を続けた。

「それは公爵家から派遣されている、ということでいいか?」
「その形を取っておりますが、今のわたしはシャルラ様に誠心誠意お仕えさせて頂いております」

 これはきっと、リジーをこの場に残して良いのか判断しようとしてるんだろう。私は安心してもらえるよう笑みを浮かべた。

「リジーは私の味方です。アルフィール様が無事王子妃になられることを望んでます。殿下に提案した事も、リジーと一緒に考えたものなんです」
「そうか。それならいいだろう」

 第一王子はゆったりと頷くと、カップに口をつけた。シールドもあるし声は聞こえないだろうけれど、ギリギリ私たちの姿を見れる位置にメイドさんたちがいる。私はイールトさんから教えられたマナーを意識して紅茶を飲んだ。

「今日もシャルラちゃんのクッキーは美味しいね。でもやっぱり、あの時と同じにはならないかぁ」

 クッキーをかじったラステロくんが、ニコニコとしながら話す。本題に入る前の雑談という事なんだろう。貴族のマナーって本当に面倒だけど、緊張していたからちょっぴり助かった。
 すると、立ったまま紅茶とクッキーを味わっていたゼリウス様が不思議そうにクッキーを見つめた。

「俺はこのクッキーで元気が出るが」
「もちろんボクだってそうだよ。でも聖魔法は付与されてないからさ」

 ゼリウス様はさり気なく、給仕用の小テーブルにある余りのクッキーが盛られた皿の隣に移動している。
 まさかあれ全部、一人で食べる気じゃないよね? まあ今日はイールトさんのために作ったわけじゃないから、どうでもいいけど。

 私がそんな事を考えていると、ジェイド様が、くいとメガネを上げた。

「子爵家の厨房に何かヒントがあるのかと思ったが、それも違うのか。ポーションと違って安価に作れるし、腹にも溜まる。あれが量産出来れば、父も喜ぶと思うのだが」
「そう言うな、ジェイ。宰相殿は働きすぎだ。疲労回復のクッキーよりまともな休みが先だろう」
「そう仰るなら、もう少し仕事を回してもらいますか?」
「それは勘弁してくれ。せっかくアルフィールとの時間が取れるようになったのだから」

 ジェイド様の言葉に第一王子は苦笑しながら、クッキーを摘んだ。何度も作ってるからか、私の手料理は警戒されなくなっている。それでも必ず、ゼリウス様が最初に食べてるんだけどね。

「そういうわけだ、シャルラ嬢」
「……はい?」

 クッキーをのんびりと味わっていたかと思ったら、第一王子は唐突に私に話を振った。私が首を傾げると、ラステロくんが楽しげに笑った。

「殿下は、シャルラちゃんにお礼を言ってるんだよ。フィーちゃんとたくさん会わせてくれたから」
「あ……それじゃあ」

 期待を込めて第一王子を見つめると、第一王子は優雅に微笑んだ。

「私とアルフィールの仲を応援しようという君の気持ちを信じよう」
「ありがとうございます!」
「それでだ。早速だが、なぜ私の願いを叶えようと思ったのか改めて話してもらおう。君は知ってるんだろう、アルフィールが婚約解消を願う本当の理由を」

 思わず喜びを顔に出せば、第一王子は目を細めた。柔和な笑みを浮かべたままなのに、その目からは獲物を捉えるような鋭さが感じられる。
 ちらりとリジーを見れば、リジーは背中を押すように小さく頷いてくれた。私は緊張を飲み込み、腹を括った。

「はい、知ってます。ただこれから話すのは、とても信じられない事かと思います。それでも聞いて頂けますか?」
「もちろんだ。全てを信じるとは約束出来ないが、何を話しても罰しないと約束しよう」
「ありがとうございます」

 これでようやくまた一歩進める。私はリジーの手も借りて、ジミ恋についての話を始めた。
 ただ話すのは、全てではない。アルフィール様に前世の記憶がある事やジミ恋がゲームだという事は、あまりに込み入った話すぎて、今ここで話しても伝えきれないだろう。
 だから私とリジーは、アルフィール様は未来を見ているのだと話を少し変えて伝えた。

「私の婚約者のままでいると死んでしまう未来が見えた、か。やはり、アルフィールには先見の力があったのだな」

 そう簡単に信じてもらえるなんて、思っていなかったのに。意外な事に第一王子たちは、あっさりと納得した様子だった。

「あの、信じてくれるんですか?」
「ああ。これはごく限られた者しか知らない話だが、メギスロイスには時折未来を知る者が現れるからな」

 メギスロイス公爵家は、王家との繋がりが深い歴史ある家だ。その長い時の中で記録に残るだけで五人、先見と呼ばれる未来視の力を持った者がいたらしい。

「おそらく特殊魔法の一種ではないかと言われているが、記録が古すぎて実際どうなのかは分からない。ただ言えるのは、記録に残る五人中四人が、危険人物としてされているという事だけだ」
「残りの一人はどうなったんですか?」
「王家が管理する事になり、生涯幽閉の身となったそうだ」

 未来を知れる力は脅威をもたらす。公爵家の人間だったとしても看過できない事があったのかもしれない。もしかしたら、ただ恐れられただけなのかもしれないけれど。

(公爵家の出来事だもの。きっとこれは、アルフィール様のお父様も知ってる話なんだろうな。だからアルフィール様は絶対に秘密にするように言われてたんだ)

 今更ながら、勝手に話してしまって良かったのだろうかと不安に飲まれた。どうせ話すにしても、こんな事ならちゃんと前世の記憶があると伝えた方が良かったんじゃないだろうか。だけど今更訂正も出来なくて、冷や汗がじわりと滲み出す。
 するとどうやら、心配と後悔に襲われたのは私だけではなかったようで。急にリジーが跪いた。

「お願いいたします! お嬢様のお命は、どうかお許しください! お嬢様には、悪意など一切ございません! それに」
「そう慌てるな。先ほど約束しただろう。何を聞いても罰しないと」
「ですがっ!」
「早く立て。メイドらに不審に思われる」
「……はい。申し訳ありません」

 第一王子の冷ややかな声に、リジーは顔を青くしたまま立ち上がり、給仕用の小テーブルに向かった。
 きっと落としたスプーンか何かを拾った体を装おうとしてるんだろうな。小さく震えながら新しい紅茶の準備を始める姿は、遠目から見れば何の問題もなく見えるだろう。

「改めて伝えておくが、私がアルフィールを罰することなどあり得ない。むしろ、先に私に話してくれて助かった。感謝する」

 先ほどとは打って変わって、第一王子は穏やかに話した。アルフィール様をあれほど大事にしてるから、大丈夫だとは思うけど……。

「それは信じていいんですよね?」
「当たり前だ。私の命に変えてもアルフィールは守る。もちろん、幽閉などもしない。私の大事な妃となるのだから」

 うん、そうだよね。第一王子ならそう言ってくれると思った。ホッとすると強張っていた肩の力が自然と抜けた。
 するとジェイド様とゼリウス様が、呆れたように声を挟んだ。
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