拗らせ王子は悪役令嬢を溺愛する。

平山美久

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未定

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私は2人を見てからふっと
視線を元に戻した。

別に2人が一緒にいるのなんて
気にしない。見ない。聞かない。

胸がずんと重たくなるのを感じても
彼を私の視界にいれない。

私の態度にも周りはどうして?
というばかりになってなおさら騒ぎだしていった。

そんな中当の本人、アインス様は
わざと大きな声で話していく。

「今日の昼はゆっくり過ごせたな。一週間しかふたりだけでのんびりできないと思ったが今日もできたと思うと今日は最高の日だな。」

ズキズキと胸が痛んでいく。

私が療養かねて一週間休んでいた間にも
アインス様はサラさんと2人でランチを
楽しんでいたんだわ。
一週間、会いたい、寂しいと思ってたのは私だけだったのね。

そう思うとまた涙が溢れそうになって
そのまま椅子から立ち上がって近くにいた人に
病み上がりでしんどいから医務室に行くわと告げ教室を後にした。

いくらか長い廊下を足早に歩いていくと
授業開始の鐘がなりそれまで
騒がしかった学園は先生の声だけを残し
静かになっていった。


はじめてサボっちゃった。


途端にゆっくり足になってトボトボとガランとした長い廊下を歩いていた。


どこ行こうか。
このまま廊下をただ歩いていたら疲れてくるし
もし先生に見つかったら家に報告されちゃう。
怒る親ではないけど申し訳なくはなるわ。


ふとこないだ倒れた時にアインス様たちが座っていたベンチを思い出した。


あそこなら奥にあるし見つかりにくいよね。


そう思うと踵を返して中庭の奥のベンチを目指した。

ふぅと息を吐いてベンチに座る。
木の下のベンチは中庭に照りつける
太陽の日差しがちょうど木に隠れて
暑さを感じなかった。
風がひゅーっと心地よく吹いて
ここってこんなにステキな場所だったんだなと改めて思った。

学園に入りたての頃は
それこそアインス様にはもっと賢くなってもらわないとと意気込んで
今よりもっと厳しく接していた。

授業をサボろうとする彼を全力で止めたり
宿題を私に押し付けようとするものだからそれを怒って終わるまで
遊びに行かさなかったり。
それになにかとちょっかいをかける彼に色々注意してた。

そんな私を疎ましく思った彼にはよく
怒られてたっけ。
そんな毎日、毎日、アインス様に
費やしていたら時々疲れちゃって
たまにの放課後にアインス様が帰るのを
見送った後自分の馬車が来るまでの間
ここのベンチでゆっくりとした時間を過ごしていた。

それは少しの時間だったけど
アインス様の婚約者、シェニーではなく
ただのシェニーになれる唯一の時間だった。

でもサラさんが転入してきて数ヶ月後に
2人がここでランチをするようになってからはたとえ放課後で2人がいなくても
ここに来るのは躊躇っていた。

少しでも2人がいた形跡を見たくなかった。
2人が仲良く話をしているところを想像してしまう自分が嫌だった。
そう思うと放課後に自然とここに足を運ぶことはなくなった。


木の隙間から差す光はキラキラ輝いているのに私の心だけはどんよりと暗くて厚い雲がかかったようだった。

私は左手を掲げてまた薬指をじっと見つめていた。


アインス様はあの時のことを
覚えていますか?
私は今でもずっと忘れていません。

高く掲げていた左手をそっと下ろし
薬指の部分に優しくキスをした。

この想いは本当に時が経つにつれ
消えていってくれるのだろうか。
いつか思い出として笑ってあんなことも
あったねと思える日が来るのだろうか。

忘れたい気持ちと忘れたくない気持ちが
交差して耐えきれなくなって
また一粒雫が頬を伝っていた。



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