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第2章
その10
しおりを挟む「今日は随分機嫌がいいみたいだな。」
ルンルン気分になって
お茶を飲んでいたらアベルが
話しかけてきた。
お茶があまりにも美味しくて
楽しい気分でお茶を飲んでいたけれど
一緒に飲んでいるのはアベルだったことを思い出す。
いつも不機嫌みたいだと
遠回しに言われたみたいでムッとする。
しかし
長年淑女として教育された身。
顔には出しません。
「そんなこともありませんが今日は特にこのお茶が美味しくて。」
「そうか。いつもお前専用に作っているからな。…気に入ってるようでよかった。」
ボソリと
最後のほうは聞こえなかったけども
アベルの言葉に疑問符が浮かぶ。
(このお茶は私のために作られたやつ?)
アベルの言葉が気になってリリアは
自然と問い返していた。
「私専用ですか?」
「王宮では異国のものや新種の茶葉が届く。試しにブレンドして前に
お前に出したらすごく喜んでいた。それからお前が来るたびこのお茶を出すようにしている。」
「え?アベル様がこの味を考案になられたのですか?」
アベルの言い方ではこのお茶は
アベルが考えたブレントティーだと
言っているように聞こえたので
思ったことをそのままに聞けば
「わ、私ではなく王妃だ。王妃はお茶を飲むのが好きだから…その…王妃が」
珍しく動揺して口どもるアベル。
持っていたティーカップから
お茶がこぼれそうになって
慌ててお皿に置く。
その姿があまりにも珍しく
リリアは目を丸くしながら見ていた。
「…そうだったんですね。」
このお茶が自分専用だと言われて
心までポカポカと温かくなるような気がしてくる。
カップの中に揺れるお茶を見ていると
アベルが徐に話してくれる。
「…幼いころにリリアが王宮に来た時に出したんだ。…覚えているか?」
どこか不安そうにしながら
聞いてくるアベル。
「…すみません。覚えてないです。」
幼い頃の記憶はほとんど
思い出したけれど
今アベルに聞かされたことは
覚えていなかった。
なんだか申し訳なくて俯いてしまう。
「そうか。…覚えていなくて当然だ。」
アベルはそう言ってどこか
悲しげに笑って見せた。
その笑顔はいつもの貼り付けたような
笑顔ではないことにリリアは
動揺してしまう。
リリアにとってアベルとの
記憶は全く思い出せない。
記憶喪失になる前はアベルと
色んな話をしたりこうやって
お茶を飲んでいたのだろうか。
それからまた沈黙になってしまい
しばらく二人は黙々とお茶を飲んだ。
「もうそろそろ遅い。支度をして帰りなさい。」
淡々とアベルが言うので
リリアはお礼を言ってから王宮を出た。
結局会話をしたのはお茶のことだけで
アベルとの距離は縮まることはなかった。
埋まらないアベルとの距離は
どうしようもないのだと
リリアはどこかで諦めていた。
その夜夢を見た。
リリアが幼いころ王宮で
本を読んでいるシーンだ。
王宮で本を読んでいたことあったっけ?
と訝しんでいたら
そこにアベルがやってきた。
幼いアベルは今よりも
キラキラと輝く金の髪に
大きな青い色の瞳を輝かせて
リリアに近づいてくる。
「リリア!今日は毎日調べ物をしているリリアに
少しでも癒されるようにお茶を用意したよ!」
たったとかけてきたアベルの手には
お茶が入ったティーカップ。
走るものだからお茶も左右に揺れて
溢れそうになる。
「もうー!アベル!お茶を持って走ったら溢れるじゃない!何考えてるの!?」
リリアは読んでいた本を閉じて
慌ててアベルに近づいていく。
「ごめん!でも毎日考え事してるリリアのために僕がお茶を用意したんだ!飲んで!」
近づいてきたリリアにアベルは
屈託なく笑いながらティーカップを
差し出してくる。
リリアはそれを躊躇いなく受け取り
グイッと一口飲んだ。
「美味しい!とっても美味しいわ!」
あまりの美味しさに
顔が綻べば
アベルも同様に緩々と顔が綻んでいく。
「リリアのために疲労回復のブレンドティーを作ったんだー!」
「疲労回復って本を読みながら調べ物してるだけよ?」
「そうだけど、夢のために頑張るリリアに何かできないかなって!」
「嬉しいわ!ありがとうアベル!
このお茶なら王都で絶対に流行るわ!」
とリリアが言うとアベルは
首を横に振った。
「このお茶はリリア専用だよ。僕が自ら作ったんだから。」
このお茶はリリアにだけしか絶対に出さない。リリアのためだけのお茶だよ。
と言ったアベルはリリアの頭を撫でた。
「しょうがないわね。じゃあこのお茶は私専用ね。誰にも出してはダメよ?」
リリアも呆れながらもどこか
嬉しそうだ。
「勿論だよ!」
そうやって二人は笑い合った。
目が覚めると
夢のことは思い出せなかった。
しかし懐かしくて
心が温かくなる夢を見たと思う。
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