Decalogus

百尾野狐子

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異世界生活六日目だけれど、私は未だに天蓋ベッドの住人だった。
なんと、私は熱を出した。
異世界生活三日目の朝、私の世話をしてくれている少年侍従アンジュ君が朝の御用聞きに来てくれても、私は起き上がる事が出来なかった。
慌てたアンジュ君はカイル様を呼び、私の額に触れたカイル様は城に常駐しているそうなお医者様を呼んで私を診察させた。
診察方法は熱で朦朧としていたのでハッキリ分からなかったけれど、触診などはせず、不思議な光と模様を見た覚えがあるので、恐らく魔法のようなモノで診察してくれたみたいだ。
診断は過労と栄養失調。え?いやいや、何で栄養失調?そりゃあ、仕事が忙しくて三食しっかり食べてはいなかったかもしれないけど、いい年をした大人が栄養失調って、かなり恥ずかしいのですが。
過労はまぁ、色々ありましたから、理解は出来るのだけど、まさか自力で起き上がれないくらい熱を出すなんて何年ぶりだろうか。
この世界には薬もあるし、ゲームにも出てくるポーションなんかもある。お医者様は、ポーション使用をカイル様に提案していたけれど、カイル様は承諾しなかった。なんでも、ポーションは確かに即効性があるのだけれど、人間が本来持つ免疫力を妨げるリスクがあるらしく、ポーションは本当に危機的状況になった時に使用した方が良いとの事だった。
そんなわけで、私は人の手で看病される生活を送る羽目になった。
人の手とは、基本はアンジュ君の手なのだけれど、食事の介助、清拭、着替えはカイル様の手を借りて行われた。
この城の主であるカイル様の手を煩わせるなんて畏れ多くて、遠慮させて頂きたかったのだけれど、何故か私以外の人間全員が、カイル様が私のお世話をする事に何の疑問も抱いていなかった。
「…ケイコ殿、痛くは無いか?」
「…はい…」
六日目の夕方、何とか一人で立ち上がって用を足せる状態になっていた私だけれど、変わらずカイル様が清拭をしてくれていた。
心地好い熱さのタオルで優しく背中を拭かれ、違う種類の熱が身体に溜まって行く。
もうとにかく恥ずかしい。
恋人いない歴年齢の清く正しい三十路女にとって、イケオジ様の魅惑の低音ボイスを耳元で聞かされて、その逞しい身体に支えられながら優しく身体を拭かれるなんて羞恥心で死ねる状態だろう。
「…ん…っ…」
カイル様が背中の腰付近を拭いてくれた時、身体がビクンと小さく跳ねて思わず声が出そうになった。自分では知らなかったけれど、私はどうやら体の後ろに性感帯が多くあるらしく、少しの接触で声が漏れそうになる。くすぐったいのとは少し違う、ギューッとした甘くて痛い感覚は、もしかしなくても性的に感じているのだろうか。
本来ならば断固拒否する筈なのに、私はカイル様の手で背中どころか胸も脚も、全て拭かれてしまっている。恥ずかしいと思っている事を知られるのが恥ずかしくて、カイル様の成すがままに拭かれてしまっている。ああ、もう、嫁に行けないわ。行くつもりもないけれど、こんな、出会って間もない男性に体の隅々まで見られてしまっているなんて、自分が信じられないわ。
「…あっ…カ、カイル様、そこは…っ」
カイル様は当たり前のように私の股の間も拭いてくる。
「回復したら、大浴場で湯浴みをすると良い」
耳元で囁かれる言葉が、股の間で生まれる熱に妨げられて遅れて脳に届く。
「大浴場…」
「そうだ。この部屋にも浴室はあるが、ゆったりと浸かれる大浴場は、ケイコ殿の心身にも良い筈だ」
私の下の毛を掻き分けるように、ゆっくりとタオルを滑らせ、襞と襞の隙間さえも丁寧に拭いてくれる。その優しい手付きには、いやらしい意図は見えず、本当に身体を清潔に保つためだけにしているのだと分かる。それなのに、私は、その動きに性的に感じてしまっている。
清拭して貰って気持ちいいけれど、疲労困憊してぐったりとしている私を、カイル様は引き続き優しく世話してくれている。清拭の後は着替えで、その後は食事の介助。弱った胃腸に優しいリゾットのようなモノを手ずから食べさせてくれた。
いやいや、何でこの方はこんなに甲斐甲斐しいのだろうか。
アンジュ君に聞いたところ、カイル様は辺境伯と云う地位の大貴族だそうな。貴族の階級はそれほど詳しくないけれど、確か辺境伯は侯爵と同等か若しくは上の立ち位置だったような。私兵を持つ事を許され、有事にはその兵でもって国の為に戦う要。オクタグラム領は、このアステル王国の国境沿いにあり、王都から遠く離れている辺境だけれど、カイル様の手腕で富んだ領地らしい。
アンジュ君はカイル様を尊敬、敬愛、盲信しているらしく、私にカイル様の話をするのが嬉しいようで色々な事を教えてくれた。
カイル様が国一番の武人で、魔法も剣術もなんなら体術も抜きん出て強く、更に賢くて優しくて格好良いって事を教えてくれた。
女性の少ない国でも、カイル様のお手付きになりたい女性が絶えず、色々トラブルが起こった為に現在は女性の使用人が城内に一人もいないとの事だ。
奥様がいる筈なのに、お手付きになりたい女性が絶えないなんて凄いと思っていたら、どうもカイル様の奥様は既に鬼籍に入られているようで、アンジュ君も会った事は無いらしかった。
つまり、カイル様は、現在独身と云う事。奥様を亡くされていると聞いてとても胸が苦しくなったけれど、同時に僅かに安堵した自分がいた事に嫌な気持ちになった。けれど、その事実を知ってからは、カイル様に清拭されても罪悪感は感じなくなった。罪悪感は感じなくなっても、羞恥心は無くならない。いや、だから、カイル様、そんな優しい瞳で私を見ないで下さい。髪は洗えずにいるので、余り触れられたくないのに、そんな映画のワンシーンのように髪を一房取って唇を寄せたりしないで。カイル様が私に好意を抱いているのかと誤解しちゃいますよ。
「ケイコ殿…良い眠りを」
魅惑の低音ボイスが更に深くなる囁きに誘われるように、私は目を閉じる。
早く回復して、穀潰しを卒業したい。そのためには、今はしっかりと食事をして睡眠が必要だ。
回復したら、私はとりあえずこの国の事を勉強させて貰う予定になっている。今の状態では、オクタグラム領を出ても直ぐに神殿に発見されるか、路頭に迷ってしまう。カイル様は、この国で生きて行ける術を学ぶ提案をしてくれた。
本当に、カイル様には感謝しかない。足を向けて眠れないわ。できればこの先も、日本に帰れるその日までカイル様のお側で彼の役に立つ人間になりたいわ。
決意も新たにしながら、私はその夜もぐっすり眠った。

「…っ…あ…やぁ…」
いや、確かに、カイル様の役に立つ人間になりたいとは思っていたけれど、これは想像していたのとは違う役立ち方だと思うな。
「…ケイコ殿…痛くないか?」
「あ、ん…っ…い、痛くは…無いですが…ん…っ」
カイル様の逞しいカイル様が、私の股の間を何度も行き来している。グチュグチュといやらしい粘膜の擦れる音が、私の耳にも届いて羞恥心を更に煽る。
後ろからカイル様のカイル様を股ぐらに射し込まれて、抜き差しをされている。張り出した先端が私の性感帯を無慈悲に抉るように擦りあげ、反射的に体が何度も跳ねる。
「駄目、ダメ、あ、やだ」
下腹の奥がギュウッと引き絞られるように疼き、発火したように熱くなったと思ったら、腰がガクガクと痙攣して何かが奥から流れてきた。
「ケイコ殿…ケイコっ…」
大浴場の広い浴槽の縁に両手を突いて身体を支えていた私は、力の抜けた腕に頭を乗せて腰を上げた状態のまま揺さぶられた。低く私の名を口にした後、カイル様は身体を強張らせた。私の股ぐらに射し込まれていたカイル様のカイル様から勢い良く迸る乳白色が、私の太股や浴槽のお湯の中に放たれた。背後から覆い被されるように抱き締められ、カイル様は私の濡れた髪に唇を押し当ててくる。
何でこんな事になったんだろう。
私は、ただ、カイル様のお薦めに従って大浴場で身体を綺麗にしに来ただけなのに。
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