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第二章
グルームダンジョン
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ぼたっ、ぼたぼたっ。
薄暗がりの中で、何かが落ちてくる音、そしてすかさず、
「ぎゃあ─────────!!!」
女の悲鳴がこだまする。
途端に、
「ウー、ワンワンッ!」
「ウワァン、ワォン!」
犬達の、けたたましく吠える声があとに続く。
悲鳴の主は、もちろんマナである。
巨大な吸血ヒルが洞窟の天井から、ぼたり、ぼたりと落ちてくるたびに、ココの魔法防壁を鉄壁に強化して防御しているというのに、恐怖のあまり、悲鳴をあげずにはいられない。
そして、マナが悲鳴をあげるたびに、犬達もつられて怖くなるらしく、一緒に警戒の吠え声をあげる。
「マナさん、大丈夫ですから落ち着いて」
毎回、セイさんが声をかけてくれるが、わかっていても無理なのだ。
マナは、ヒル自体を見るのも初めてだったが、その姿は、通常のものよりも数十倍は大きいと思われる。
実に体長20cmはあろうその虫は、全体に茶褐色で縦縞模様が入っており、背中に突起状のぶつぶつとした瘤がある。
それが落ちてきた途端、魔法防壁にへばりついて、軟らかそうな体をうねうねと蠢かせながら、目一杯に広げた吸盤状の口で吸い付こうとする様が、目の前で繰り広げられる。
最初は、落ちてくる音にびっくりしただけだったが、その姿と蠢く様子を見て、ぞわぞわと鳥肌が立ち、悲鳴が思わず口をついで出てしまうのだ。
「うぎゃぁ────!!!」
黄色い悲鳴などという可愛いものではなく、心の底からの野太い悲鳴。
合わせて、こちらもマナの様子に怯えて吠えまくる犬達。
たぶん、このコ達もトラウマものだろう。
前に進むにつれ、魔法防壁の周り中がヒルだらけになっていく、うごうごと蠢きのたうち、ぼたり ぼたり と、後ろに落ちて折り重なり合う。
フレッドもセイも、できる限り必死に切り捨ててくれてはいるが、数が多過ぎて、自分達の周りを処理するので精一杯でもあるのだ。
なのにマナは、
「この虫を、ハンマーで潰すなんて無理ですぅ」
と、涙をだらだらと流して抵抗する。
最初こそ、
「無理しないで、俺達で処理しますから」
と、言っていたセイもキツそうだ。
フレッドはというと、こちらはとっくに顔色が青ざめて、それでも無言で剣を振るい続けている。
「ごめんなさい……。 わたし、もう、限界かも……」
そう言ってマナは、おもむろに生活魔法の火を掌の上にだすと、ブーストして激しく燃え上がらせながら、魔法防壁の表面を這わせるように、その火を纏わりつかせる。
すると、その熱に触れた蛭達は一様に身を捩り、表皮が沸騰したかのようにボコボコと泡立って、臨界点を越えると急激に焦げて縮こまっていく。
防壁外にいるセイ達は、虫の焼け焦げる嫌な臭いに顔をしかめる。
「中、少し熱くなっちゃうね……」
マナは、すでに焦点の合っていない虚ろな目でそう呟くと、魔法バッグの中から、雪山に繋いだ換気口を取り出す。
そして、
「セイさん、フレッド! ごめんなさい。 それで耐えて!」
と、言いながら、換気口をひとつずつセイとフレッドに投げ渡す。
「ココ、二人にも魔法防壁!」
(う、うん)
そして、すかさずブーストして鉄壁に強化する。
生活魔法の火をブーストして、ブーストして、ついでに風魔法を起こして、こちらも3度ほどブーストをかけて、ほとんど火炎気流と言ってもいいほどに強化すると、
ゴォオオオオオオ────────!!!
という激しい音と共に、洞窟内をワンフロア一気に焼き払う。
セイとフレッドは鉄壁に強化された魔法防壁内で、ひんやりと涼しい冷風を換気口から感じながら、ただ呆然とその様子を見守るばかりであった。
「ごめ、ごめんなさい。 ひぐっ、でも、もう本当に限界で。 うっ、すみませんでし、うぐっ」
「ああ、もういいから、大丈夫だから。 それにしても、他に冒険者がいないのが前もってわかっていたからって、あんな乱暴なやり方で薙ぎ払うとはね」
フレッドは、あるていど温度が下がるまで待つと、すぐにマナの所に駆け付けたのだが、魔法防壁内のマナは涙をだらだらと流し続けたまま、座り込んでいた。
声をかけた途端に泣きながら謝っているが、まともに言葉にならない。
セイも近付いてくると、
「マナさん、大丈夫ですか? 全部やっていただいて申し訳ないのですが、ドロップ品の引き寄せはできそうですか?」
と、優しく聞いてくる。
マナは、無言でコクンとうなずくと、すぐに引き寄せで、吸血ヒルのドロップ品を周囲に集める。
「ありがとうございます。 回収は、俺達でしますので、少し休んで下さいね」
セイとフレッドが忙しく回収作業を始める横で、マナは、またコクリとうなずいてそのまま放心して座り続ける。
「吸血ヒルの階層はまだあるんだけど、この調子だと無理そうかな?」
「しかし、唾液腺は、まだ半分にも満たないですよ」
フレッドもセイも、心配そうにマナを見つめる、
「だ、大丈夫です。 あの、さっきの火で焼いちゃうやり方でも、ドロップ品に問題がないようでしたら、ヒルの階層に着いたら、すぐ焼いていいでしょうか?」
「いや、それは構わないけど。 マナ、君、魔力は平気なの?」
「わたしの魔力、多い方だと思うんですが」
「うん、確かに魔法バッグの中の様子を見るに、かなり膨大なんだとは思うけど。 さっきのあれは、生活魔法だよね?」
「はい、攻撃魔法には、適性がなかったようなので」
「だったら、あんな使い方したら、普通は、あっという間に魔力切れで、ぶっ倒れてるところなんだよ」
「そうなんですか?」
「例えば、攻撃魔法の火属性の適性があって、あの火炎流みたいなのを起こしたら、ある程度の魔力は使われるけど、さほどの消費にはならない。 でも、生活魔法であの規模の魔法を使うと、適正ありの場合の10倍以上は魔力の消費をしてる事になる」
「はぁ」
「だから、あんな規模の火の魔法を適性なしで使って、ぴんぴんして泣きじゃくって、しかも、まだやっていいか聞いてくるとか、あり得ないんだって」
「すいません……」
「いや、謝らなくていいから。 …はぁ───。 君の非常識さに、僕達はもっと慣れていかなきゃいけないね」
大きな溜息をついてはいるが、それでも、フレッドはどこか楽しそうだ。
「フレッド、ドロップ品は火で焼いたあとに出てきますから、品質には問題ないですよね」
セイは、唾液腺をまじまじと見ながら問いかける。
「まぁ、平気だと思うよ。 じゃないと、他の魔法使い達は商売あがったりだからね。 焼こうと煮ようと、あとに残るドロップ品は影響されないから、思う存分やってくれ」
「では、次の階層で、また同じようにやりますね」
マナが、やっとで立ち上がりながら言うが、
「いや、残念ながら、次の階層は吸血蝙蝠のフロアなんだ」
「吸血蝙蝠も焼いては?」
「うーん、できれば他の階層は俺達で対処したい。 マナの魔力がいくら多くても、そんな使い方をしていたら、いつ魔力切れを起こすかわからないし。 洞窟内の植物なんかも根こそぎ焼き払う状態だから、全てのフロアの生態系を全滅させるのは本意じゃないからね。 マナには、吸血ヒルのフロアでだけ、頑張ってもらいたい」
「なるほど、わかりました。 では、蝙蝠はなるべくわたしもハンマーで叩けるように頑張ります」
「うん、まぁ無理はしないでね」
そうして降りた2階層の、吸血蝙蝠の跋扈するフロアで、こちらでは、また別の問題が起こっていた。
(マナ、こいつらやばい)
ココが、静かに話しかけてくる。
「どうしたの?」
(このこうもり達、みんな狂犬病にかかってる)
「うぇ、ほんとに?」
(うん、きもちわるい)
ココ達は、みんな狂犬病の予防注射を受けているから、もし噛まれたとしても大丈夫なはずだけど、噛まれないに越した事はないよね。
「ココ、じゃあわたしとココ達と、魔法防壁を別にしよう。 わたしは、なるべく蝙蝠倒すから、ココ達は、防壁の中でみんな離れないようにしてね」
(わかった)
わたしだけ魔法防壁を別にすると、離れた犬達はちょっと震えている。
「フレッド! セイさん! この蝙蝠達、狂犬病に罹ってるそうです! 絶対に噛まれないで下さーい!」
そう叫んで、辺りを見回す。
ふたりは、
「わかりました」
「マジかよ」
と、言いながらも、警戒を強めてくれたと思う。
そこら中を飛び回っているが、その中の1匹が、急にわたしの間近に襲いかかってくる。
羽を広げた全長が、1mはありそうだ。
顔面は鼻が醜く反り上り、上顎から覗く犬歯はぎざぎざの剃刀のよう。
そして口元からは、涎が垂れている。
あの犬歯で皮膚を切り裂かれたら、ひとたまりもないだろうな。
飛んでいるだけあって、体の軽さからか、ハンマーで叩いてもあまり手応えは感じない。
ぺしょん
ポシャン
という感じで、まるで紙風船でも叩いているようだ。
でもこれは、わたしの力が、強くなり過ぎているせいかもしれないけど。
叩かれて仲間がどんどん倒されているのに、なおかつ襲いかかってくるのは、お腹が空いているからなのか、あるいは狂犬病のせいなのか?
さすがに、ここの蝙蝠を全部倒すのは無理なので、最後の階段前まで来ると、補助魔法の引き寄せを使ってドロップ品を回収する。
震える犬達と、もう1度一緒の防壁内に戻して、
「よく頑張ったね」
と、撫でながら褒めてあげる。
(こわかった)
と、ココもちょっと涙声だ。
犬達を落ち着けて、すぐ次の階層に降りる。
「次は、何が出るんでしょう?」
そう聞くまでもなく、階段部屋の向こうから、敵の一団が走ってこちらに向かってくるのが見える。
「あれは、ゴートサッカーです」
セイさんが、刀を抜きながら教えてくれるが、二足歩行で緑色の体、目は大きく見開かれているが、濁った瞳孔は開き、白目部分は血走って真っ赤だ。
そして何より、あの口。
あれは、さっきまでの恐怖の対象、吸血ヒルの吸盤のような口にそっくりだ。
さらに悪い事に、吸盤状の口の中に、ぐるりと鋭い歯も見える。
背は低く、120cmほどだろうか、それが5匹、群れて走ってくる。
するとフレッドが、武器をコンパウンドボウに持ち替えて、あっという間に5匹連続で打ち抜く。
「あまり知能は高くないから、向かってくる奴を倒していけば大丈夫」
そう言って、前へと歩を進める。
それにしても、ここのダンジョンって、どうしてこう気持ちの悪い魔物しかいないんだろう。
薄暗がりの中で、何かが落ちてくる音、そしてすかさず、
「ぎゃあ─────────!!!」
女の悲鳴がこだまする。
途端に、
「ウー、ワンワンッ!」
「ウワァン、ワォン!」
犬達の、けたたましく吠える声があとに続く。
悲鳴の主は、もちろんマナである。
巨大な吸血ヒルが洞窟の天井から、ぼたり、ぼたりと落ちてくるたびに、ココの魔法防壁を鉄壁に強化して防御しているというのに、恐怖のあまり、悲鳴をあげずにはいられない。
そして、マナが悲鳴をあげるたびに、犬達もつられて怖くなるらしく、一緒に警戒の吠え声をあげる。
「マナさん、大丈夫ですから落ち着いて」
毎回、セイさんが声をかけてくれるが、わかっていても無理なのだ。
マナは、ヒル自体を見るのも初めてだったが、その姿は、通常のものよりも数十倍は大きいと思われる。
実に体長20cmはあろうその虫は、全体に茶褐色で縦縞模様が入っており、背中に突起状のぶつぶつとした瘤がある。
それが落ちてきた途端、魔法防壁にへばりついて、軟らかそうな体をうねうねと蠢かせながら、目一杯に広げた吸盤状の口で吸い付こうとする様が、目の前で繰り広げられる。
最初は、落ちてくる音にびっくりしただけだったが、その姿と蠢く様子を見て、ぞわぞわと鳥肌が立ち、悲鳴が思わず口をついで出てしまうのだ。
「うぎゃぁ────!!!」
黄色い悲鳴などという可愛いものではなく、心の底からの野太い悲鳴。
合わせて、こちらもマナの様子に怯えて吠えまくる犬達。
たぶん、このコ達もトラウマものだろう。
前に進むにつれ、魔法防壁の周り中がヒルだらけになっていく、うごうごと蠢きのたうち、ぼたり ぼたり と、後ろに落ちて折り重なり合う。
フレッドもセイも、できる限り必死に切り捨ててくれてはいるが、数が多過ぎて、自分達の周りを処理するので精一杯でもあるのだ。
なのにマナは、
「この虫を、ハンマーで潰すなんて無理ですぅ」
と、涙をだらだらと流して抵抗する。
最初こそ、
「無理しないで、俺達で処理しますから」
と、言っていたセイもキツそうだ。
フレッドはというと、こちらはとっくに顔色が青ざめて、それでも無言で剣を振るい続けている。
「ごめんなさい……。 わたし、もう、限界かも……」
そう言ってマナは、おもむろに生活魔法の火を掌の上にだすと、ブーストして激しく燃え上がらせながら、魔法防壁の表面を這わせるように、その火を纏わりつかせる。
すると、その熱に触れた蛭達は一様に身を捩り、表皮が沸騰したかのようにボコボコと泡立って、臨界点を越えると急激に焦げて縮こまっていく。
防壁外にいるセイ達は、虫の焼け焦げる嫌な臭いに顔をしかめる。
「中、少し熱くなっちゃうね……」
マナは、すでに焦点の合っていない虚ろな目でそう呟くと、魔法バッグの中から、雪山に繋いだ換気口を取り出す。
そして、
「セイさん、フレッド! ごめんなさい。 それで耐えて!」
と、言いながら、換気口をひとつずつセイとフレッドに投げ渡す。
「ココ、二人にも魔法防壁!」
(う、うん)
そして、すかさずブーストして鉄壁に強化する。
生活魔法の火をブーストして、ブーストして、ついでに風魔法を起こして、こちらも3度ほどブーストをかけて、ほとんど火炎気流と言ってもいいほどに強化すると、
ゴォオオオオオオ────────!!!
という激しい音と共に、洞窟内をワンフロア一気に焼き払う。
セイとフレッドは鉄壁に強化された魔法防壁内で、ひんやりと涼しい冷風を換気口から感じながら、ただ呆然とその様子を見守るばかりであった。
「ごめ、ごめんなさい。 ひぐっ、でも、もう本当に限界で。 うっ、すみませんでし、うぐっ」
「ああ、もういいから、大丈夫だから。 それにしても、他に冒険者がいないのが前もってわかっていたからって、あんな乱暴なやり方で薙ぎ払うとはね」
フレッドは、あるていど温度が下がるまで待つと、すぐにマナの所に駆け付けたのだが、魔法防壁内のマナは涙をだらだらと流し続けたまま、座り込んでいた。
声をかけた途端に泣きながら謝っているが、まともに言葉にならない。
セイも近付いてくると、
「マナさん、大丈夫ですか? 全部やっていただいて申し訳ないのですが、ドロップ品の引き寄せはできそうですか?」
と、優しく聞いてくる。
マナは、無言でコクンとうなずくと、すぐに引き寄せで、吸血ヒルのドロップ品を周囲に集める。
「ありがとうございます。 回収は、俺達でしますので、少し休んで下さいね」
セイとフレッドが忙しく回収作業を始める横で、マナは、またコクリとうなずいてそのまま放心して座り続ける。
「吸血ヒルの階層はまだあるんだけど、この調子だと無理そうかな?」
「しかし、唾液腺は、まだ半分にも満たないですよ」
フレッドもセイも、心配そうにマナを見つめる、
「だ、大丈夫です。 あの、さっきの火で焼いちゃうやり方でも、ドロップ品に問題がないようでしたら、ヒルの階層に着いたら、すぐ焼いていいでしょうか?」
「いや、それは構わないけど。 マナ、君、魔力は平気なの?」
「わたしの魔力、多い方だと思うんですが」
「うん、確かに魔法バッグの中の様子を見るに、かなり膨大なんだとは思うけど。 さっきのあれは、生活魔法だよね?」
「はい、攻撃魔法には、適性がなかったようなので」
「だったら、あんな使い方したら、普通は、あっという間に魔力切れで、ぶっ倒れてるところなんだよ」
「そうなんですか?」
「例えば、攻撃魔法の火属性の適性があって、あの火炎流みたいなのを起こしたら、ある程度の魔力は使われるけど、さほどの消費にはならない。 でも、生活魔法であの規模の魔法を使うと、適正ありの場合の10倍以上は魔力の消費をしてる事になる」
「はぁ」
「だから、あんな規模の火の魔法を適性なしで使って、ぴんぴんして泣きじゃくって、しかも、まだやっていいか聞いてくるとか、あり得ないんだって」
「すいません……」
「いや、謝らなくていいから。 …はぁ───。 君の非常識さに、僕達はもっと慣れていかなきゃいけないね」
大きな溜息をついてはいるが、それでも、フレッドはどこか楽しそうだ。
「フレッド、ドロップ品は火で焼いたあとに出てきますから、品質には問題ないですよね」
セイは、唾液腺をまじまじと見ながら問いかける。
「まぁ、平気だと思うよ。 じゃないと、他の魔法使い達は商売あがったりだからね。 焼こうと煮ようと、あとに残るドロップ品は影響されないから、思う存分やってくれ」
「では、次の階層で、また同じようにやりますね」
マナが、やっとで立ち上がりながら言うが、
「いや、残念ながら、次の階層は吸血蝙蝠のフロアなんだ」
「吸血蝙蝠も焼いては?」
「うーん、できれば他の階層は俺達で対処したい。 マナの魔力がいくら多くても、そんな使い方をしていたら、いつ魔力切れを起こすかわからないし。 洞窟内の植物なんかも根こそぎ焼き払う状態だから、全てのフロアの生態系を全滅させるのは本意じゃないからね。 マナには、吸血ヒルのフロアでだけ、頑張ってもらいたい」
「なるほど、わかりました。 では、蝙蝠はなるべくわたしもハンマーで叩けるように頑張ります」
「うん、まぁ無理はしないでね」
そうして降りた2階層の、吸血蝙蝠の跋扈するフロアで、こちらでは、また別の問題が起こっていた。
(マナ、こいつらやばい)
ココが、静かに話しかけてくる。
「どうしたの?」
(このこうもり達、みんな狂犬病にかかってる)
「うぇ、ほんとに?」
(うん、きもちわるい)
ココ達は、みんな狂犬病の予防注射を受けているから、もし噛まれたとしても大丈夫なはずだけど、噛まれないに越した事はないよね。
「ココ、じゃあわたしとココ達と、魔法防壁を別にしよう。 わたしは、なるべく蝙蝠倒すから、ココ達は、防壁の中でみんな離れないようにしてね」
(わかった)
わたしだけ魔法防壁を別にすると、離れた犬達はちょっと震えている。
「フレッド! セイさん! この蝙蝠達、狂犬病に罹ってるそうです! 絶対に噛まれないで下さーい!」
そう叫んで、辺りを見回す。
ふたりは、
「わかりました」
「マジかよ」
と、言いながらも、警戒を強めてくれたと思う。
そこら中を飛び回っているが、その中の1匹が、急にわたしの間近に襲いかかってくる。
羽を広げた全長が、1mはありそうだ。
顔面は鼻が醜く反り上り、上顎から覗く犬歯はぎざぎざの剃刀のよう。
そして口元からは、涎が垂れている。
あの犬歯で皮膚を切り裂かれたら、ひとたまりもないだろうな。
飛んでいるだけあって、体の軽さからか、ハンマーで叩いてもあまり手応えは感じない。
ぺしょん
ポシャン
という感じで、まるで紙風船でも叩いているようだ。
でもこれは、わたしの力が、強くなり過ぎているせいかもしれないけど。
叩かれて仲間がどんどん倒されているのに、なおかつ襲いかかってくるのは、お腹が空いているからなのか、あるいは狂犬病のせいなのか?
さすがに、ここの蝙蝠を全部倒すのは無理なので、最後の階段前まで来ると、補助魔法の引き寄せを使ってドロップ品を回収する。
震える犬達と、もう1度一緒の防壁内に戻して、
「よく頑張ったね」
と、撫でながら褒めてあげる。
(こわかった)
と、ココもちょっと涙声だ。
犬達を落ち着けて、すぐ次の階層に降りる。
「次は、何が出るんでしょう?」
そう聞くまでもなく、階段部屋の向こうから、敵の一団が走ってこちらに向かってくるのが見える。
「あれは、ゴートサッカーです」
セイさんが、刀を抜きながら教えてくれるが、二足歩行で緑色の体、目は大きく見開かれているが、濁った瞳孔は開き、白目部分は血走って真っ赤だ。
そして何より、あの口。
あれは、さっきまでの恐怖の対象、吸血ヒルの吸盤のような口にそっくりだ。
さらに悪い事に、吸盤状の口の中に、ぐるりと鋭い歯も見える。
背は低く、120cmほどだろうか、それが5匹、群れて走ってくる。
するとフレッドが、武器をコンパウンドボウに持ち替えて、あっという間に5匹連続で打ち抜く。
「あまり知能は高くないから、向かってくる奴を倒していけば大丈夫」
そう言って、前へと歩を進める。
それにしても、ここのダンジョンって、どうしてこう気持ちの悪い魔物しかいないんだろう。
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