アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ

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王宮での断罪②

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 耳を塞いでいた第二王子バカが気を取り直したのか、キっと顔を上げて叫んだ。

「こんな暴挙、母上が黙っていないぞ!」

「王妃殿下にはこの決定を覆す力はございません」

 昔っから都合が悪くなると、王妃様のスカートの影に隠れるのよね。
 王妃様ってば、このバカを猫っ可愛がりして、やる事なす事全部肯定してきたから、諫言など聞きゃあしない。
 ちょっとでも注意しようものなら、「母上に言いつけてやる!」だもん、十八歳になった今でも。
 王妃様が第二王子をこんなバカに育ててしまったんだと思うわ。
 長男のジェラルド殿下はまともな腹黒なのに。
 慣例通り乳母に育てられたから、王妃様毒親の悪影響がなかったんだろうね。

「王妃様はこの度、北の離宮ですることになりましたの。既に王都を旅立っておられますわ」

「そんなの聞いてないぞ!」

 でしょうね!
 第二王子バカに騒がれるのを防ぐために、秘密裏に動いていたらしい。
 だけど、普通にしてても気づかなかったかもね。
 公務はテキトー、はたまた仮病で欠席。太鼓持ち侍従たちと『馬鹿次男ズ』とつるんでばっかりだから。
 それに奴ら、昨日は王子の私室に籠って今日の打ち合わせをしてたんだってよ。
 そのままお泊りした馬鹿どもが王宮を出た後、王妃様の護送部隊が出発したそうだ。

 今回の護送、王妃様のご実家の侯爵家とか派閥の貴族家が奪還に動くかもしれないと、一個小隊の騎士に守られて移動している。
 それらの段取りと指揮をしているのが第一王子のジェラルド殿下。
 『北の離宮』があるのは辺境の飛び地にある王領だけど、そこまでではなく王都を出るまで部隊に帯同する予定だそうだ。

 この大広間ホールと繋がっている小広間ホールには、卒業生たちの父兄が集っているんだけど、そちらから騒ぐ声が聞こえてきた。
 王妃様の派閥の人達でしょうね。

「同じ宮殿にお住まいなのに、お別れのご挨拶もなかったのですか。寂しいことですわねぇ」

 もちろん、王妃様とバカ息子が顔を会わせないよう、連絡を取り合えないよう王城内で働く者たちが結託して隔離していたのだ。

 馬鹿どもが自分たちの事ばかりにかまけている間に、様々な事が決定し施行されている。
 情報は大事よ。我が家の諜報員は広範囲に散っているし、王家の諜報員や忍者みたいな『影』部隊も暗躍しているから、バカどもの行動も知っている。
 つまり、わたしの行動も知られているって事なのよねぇ。あーあ。

 本来なら、宰相の息子であるシューサイが情報を取得して立ち回らなければならないのに、貴族学院の事だけにしか目が向いてなかった自身の愚かさを後で嘆くがいいさ!

「ウソだ! デタラメだ! 母上は王妃だぞ!? この国の最上位の女性なんだ! 北の離宮に行くわけがない!!」

 『北の離宮』というのは、罪を犯した王族が幽閉される宮殿。
 昔には気を病んだ王族が収監されたりもしていたんだって。
 マザコン王子が地団太を踏むのも仕方がない。
 いや、衆人環視の中で地団太を踏むっておこちゃまか!

「王妃様におかれては、『公金横領罪』など、大小様々な罪が暴かれました。ここでは詳しくは申せませんが、国王陛下が強権を以て『北の離宮』行きを決定されましたの」

「そんな乱暴な!」

 すぐに反論したのはシューサイ。さすがマニュアル男。
 通常なら罪を問われたら、裁判まで貴賓牢に収監されるし、王族なら私室に監禁される。それなのにそこをすっ飛ばして幽閉措置を取る強硬手段。
 これらは国王陛下が『超法規的措置』という強権を発動したため。

 ――『王位簒奪』を謀っていた事が分かったから。
 
 第二王子ジェイソンを玉座に就けようと色々画策してた一端で、昔から命を狙われていた第一王子。
 実子なのに酷くない? どういう心境なのかさっぱりだわ。
 で、更に、今度はわたしたち兄妹にも刺客を放ってくれたのよ。
 犯人誰だよって探るじゃない? すぐ分かったわ。リズボーン家なめんなよ!
 
 ということで、首謀者のアサマシィ侯爵家(王妃様の実家)には、既に捕縛の手が回っている。
 現在同時進行でお送りしています。ハイ。 

 あらぁ、小広間ホールからも悲鳴が聞こえてるわー。
 まさかこんなに早く行動に移されるとは思っていなかったんでしょう。
 残念! こんなパーティーに呑気に参加している場合じゃなかったと後悔してももう遅い!
 広間の扉は既に騎士たちにより封鎖されているんだもん。

 第二王子バカの罪は、『公金横領・職権乱用』、あと一番重いのが『王位簒奪』。
 旗頭にされて、無自覚に振舞っていた上、先ほどの「未来の国王だぞ」宣言。
 王太子が第一王子のジェラルド殿下に決定した後だから、まさに「簒奪企ててます」という意味に採られるわよね。
 はぁ、おバカ。でもここはあえて触れない。話が進まないからねー。

「罪の証拠も証人も物証も揃っているそうですわ。それでも反論があるならば、国王陛下に奏上して下さいませ」

 言えるもんならな!

「だいたい、王妃殿下が熱望されてこの祝賀パーティーは王宮で開催されたというのに、当のご本人がご臨席されていないなど、おかしいと思いませんでしたの?」

「そ、それは……後でご来場されると思っていたから……」

 シューサイの返答は歯切れが悪く尻すぼみだ。
 今更になって、状況確認を怠っていたことを悔やんでいるのかもしれなわね。
 お そ い っ て!

「ああ、ついでに言っておきますわ。
 わたしくと第二王子の仮初の婚約は半年前、既に白紙となってますの。
 ですから『婚約破棄』、『嫉妬に駆られて』と言われても婚約者ではございませんので困ってしまいますわ」

「「「「……え、ええ!? 白紙ぃぃ!?」」」」

 想定通り知らなかったようだ。
 仮契約書を破棄する時、王家側は国王陛下と侍従長、近衛騎士しかいなかった。
 一応、陛下は本人にちゃんと伝えるって言ってたけど、恐らく伝わらないだろうなーと思ってたよ。
 どうせあのバカは他人の話をまともに聞かないし、王妃様の横やりが入るだろうから。
 筆頭公爵家の後ろ盾は、是が非でも失いたくなかっただろう。

 わたしと第二王子バカの仮婚約は、どちらかに良縁が舞い込めば白紙にする、というゆるーい契約だったのよね。
 それで半年前、わたしに隣国の第三王子との縁談が持ち上がったから、そこで白紙にされたのよ。
 まぁ、その第三王子との縁談は見送られたんだけど、ジェイソンと再婚約とはならなかったからホッとしている。

 得意満面にこんな所で婚約破棄を突き付けたのに、そもそも婚約はなかった事にされているってね。いい面の皮。
 次から次へとバカどもには想定外な事を聞かされて、どうやら頭真っ白になっているみたいね。呆然と口が開きっぱなしのアホ面さらしてまぁ。

 でもここで時間を食ってる訳にはいかないんだよ。まだまだ話はこれからだからね!

「それはさておき、」

「おけるのかっ!」

 すかさず誰かのツッコミが入ったけどスルー。

「セシルさんへの虐めを訴えておりましたけれど、ここで断言いたします。事実無根であることを証明しますわ! では、オリビア様、後はよろしく」

 四馬鹿次男ズとセシルを見据えてから、わたしは背後に控えていたコールマン侯爵令嬢オリビア様を振り返った。
 彼女、わたしの側近なのよ。嫋やかな美人で、例えるなら白百合。学院の成績も常に五位以内だった才媛。
 なんだけどぉ、あのシューサイの婚約者だったのよねぇ。
 既に双方の当主同士の話し合いも済み、シューサイの有責で、こちらは本当の『婚約破棄』となった。
 その時のすがすがしい笑顔ったらねぇ。

 淑女の微笑みを浮かべ、美しいカーテシーをしてから、オリビア様は侍女からリストと魔導具を受け取った。

「わたくし、オリビア=コールマンから、ライアー男爵家令嬢の偽証を告発いたします」

「オリビア! 貴様、」

「バカディ公爵家令息様、あなた様とは既に他人、名前を呼び捨てになさらないで下さい。不快ですわ」

 オリビア嬢に食って掛かろうとしたシューサイだけど、すっごく冷たーい一瞥でぴしゃりと言い放たれて、「ぐっ」とか息をのみ込んだ。
 いつまでも“俺の女”みたいに思ってんじゃないわよ! ばーか!

「改めまして。ライアー男爵令嬢の訴える数々の被害、その日時と学院内に設置されている映像記録用魔導具の映像に齟齬がございます。まずは――」

 シューサイの事など脇へと追いやり、粛々と検証を進めていくオリビア様は、仕事の出来る女官然としているわ。カッコいー。

 オリビア様が持つリストは、シューサイが証拠だとバサバサ振っていた書類の写し。
 机の上に無防備に放って置くから、諜報員がらくらく書き写してきたものだけど、結構あっさり少なめ。
 何故なら、原本に書かれていた内容がろくでもなかったからって聞いたわ。
 いついつ、セシルがどういう被害に遭ったのか、それはいいんだけど、それ以外の内容が大半を占めていたそうだ。
 セシルがどのような状態であったか、どんな風に悲しんでいたか、それがシューサイたちにどのように見えたとか、“悪役令嬢”のわたしへの罵詈雑言などなど。
 とてもじゃないけど、その無駄な文章を省いて写したそうだ。そしたら紙一枚で済んでるっていうね。

 それを証拠って言ってたんだよ、アイツ。

「こちらはその当時の証拠映像となります。学院内の各所に、防犯目的で設置されている監視映像魔導具【CAMERA】の、該当日時の記録をお借りしてまいりました」

 オリビア様が魔導具を起動すると、人々の頭上、空中にちょっとした立体映像が現れる。

「〇月〇日の放課後、ライアー男爵家令嬢の教科書が、何者かに破られ捨てられたとの証言ですが、実際はこちらです」

 そこに投影されていたのは、誰もいない教室で、きょろきょろと辺りを確認した後、おもむろに教科書とノートを数冊取り出し、一心不乱にセシル自らが破っている姿だった。
 呆気に取られる衆目。
 映像がそれから少し進むと、教室にシューサイがやって来て、うって変わって涙ながらに駆け寄っていくセシル。
 “誰か”に教科書とノートが破られたとしくしく訴えるセシルを、最初驚いていたがすぐに優しく慰めるシューサイ。
 映像はここで終了。

 シューサイが慌てて該当記録を探している。
 無駄な文章が多いせいか手間取ってるわ。

「次は〇月〇日、昼休みの終わり頃、庭園の噴水へ、“ある方”に突き落とされて風邪を引いた、との証言ですが実際はこちらです」

 映像には、スキップしながら噴水までやって来たセシルが、自らドボンと噴水池に飛び込み、バシャバシャと水遊びを楽しむ姿が映っていた。
 五分ほど経ってから自分で噴水池から脱出し、スカートの裾をぎゅっと絞っている辺りでナルシス登場。
「何があったの!?」 「に突き落とされたんですぅ」 「それってリズボーン公爵令嬢!? なんて女だ! すぐに乾かさないと風邪をひいてしまう。よし、僕が魔法で乾かしてあげるよ!」 「ええっ!? 大丈夫ですぅ。寮の部屋で着替えるからぁぁぁ」

 なんて会話があって、セシルは脱兎のごとく駆け出した。
 うん、正解だ。ナルシスに魔法を掛けられたら、乾くどころか黒焦げになるだろう。

 さて、次の現場に移り、今度は階段落ち。
 もちろんセシルは自分で落ちた。あっぶねーなぁ。
 自分でもさすがに怖かったんだろう、踊り場でうろうろした後、半分まで降りてまたうろうろし、最終的に下から五段目からとぅと飛び降りた。
 ざわつく衆目。
 セシルが痛い、助けてーと叫ぶところで映像は終了。
 実はこの十分後くらいにやっとノーキングが登場してセシルを助け起こしているんだけど、もうそこは重要じゃないから割愛。

 他にも“わたしたち(四馬鹿次男ズの婚約者たち)”が徒党を組んで、校舎裏に呼び出したセシルを罵倒し殴ったという日の映像でも、セシル一人で転んでイターイとか叫んでいるだけ。

 本来なら、わたしに足を引っかけられて転んだ、という偽証の証拠映像も出したかったんだけど、これは初期の頃の上、回数が多かったから諦めたの。
 見事にスカーと、わたしにぶつかる事なくいきなり単独で転ぶ映像が残っているから、いつでも提出可能だ。

 まぁ大事なのは、全て自作自演であることが映像として残っているって事よ!
 わざとらしいほど、きっちり映像に納まっているのよねー。ふふふ。

「以上の証拠映像によりライアー男爵家令嬢が、リズボーン筆頭公爵家令嬢、エイプリル伯爵家令嬢(ノーキングの元婚約者)、メイ伯爵家令嬢(ナルシスの元婚約者)、それとわたくしを冤罪で貶めようとしたことは明白。
 そしてこれらの虚言を事実として突き付けた皆さまには、マリアージェ公女殿下に対する不敬罪が適用されるでしょう」

 第二王子以外はね。
 腐ってもまだ表向き王族だからなー。

「こんなの捏造だ!!」

 はい、二度目の捏造宣言頂きました。
 シューサイ、自分がやってるから他人もやるだろうって方向に直結させんな!
 セシルに教師を篭絡させて、試験問題を流出させたことバレてんだからな! その教師は免職だぞ!
 自分が不正をして試験で一位を取ったから、わたしが一位になったら不正だと騒ぐという実に小者らしさよ。
 それに監視映像の件でテンパってるのか、証言リストの流出にまで思い至ってない。バカが。

 わたしは鼻で嗤ってやったけど、オリビア様はカチンと来たようだ。

「捏造などと、王宮魔導師団技術研究所に言いがかりをつけるとは、バカディ公爵家令息様は魔導具に造詣が深いご様子。
 では、この監視映像魔導具【CAMERA】の映像をどのようにすれば捏造映像を創れるのか、ぜひここでご教授願えないでしょうか。
 幸い高位貴族家のお歴々が揃っておいでですもの、きっと証人になって下さいますわ」

「なっ……! それは……そうだ、わたしは専門家ではない! だからその映像を王宮魔導師団技術研究所に分析させろ!」

 思いもかけないオリビア様の追及だったのだろう。ちょっと突っ込まれるとしどろもどろ。
 今までは淑女の微笑みで、「まあそうですの」「さようでございますか」「かしこまりました」なんて返事しか返してなかったみたいなのよ。
 自慢話しかしない相手の相槌なんてそんなもんだろうが、ばーか!

「学院に設置されている【CAMERA】は、王宮魔導師団技術研究所で製造された刻印が入っているものばかり。
 記録された映像も魔法干渉がないことは既に研究所で分析・認証済みの上、技術研究所所長と魔導師団団長の承認印を頂いておりますわ。
 だからこその証拠としてここにあるのです」

 魔導師団団長はアフォネン伯爵。ナルシスのお父さんだよー。
 みんなちらっとナルシスを見たよね。
 見ただけだけど。こいつ、何も知らねーだろうなって、すぐ視線外したわ。

 わたしは侍女に目配せして、【CAMERA】の一つを受け取る。
 台座に乗った丸い水晶のような見た目で手の平サイズ。長時間録画できるよう動力部の魔石の効率化には苦労したわー。魔導具師が。
 出来た当初はもっと大きくて、録画時間も三十分程度だったのに、王宮魔導師団技術研究所と提携して改良を重ね、今や小さいのに半日録画出来るのよ!

 現在、王宮や貴族議会会館、貴族学院などに防犯カメラとしてたくさん設置されているの。もちろん、この会場にも設置されているわ。

「バカディ公爵令息、こちらにしっかり魔法刻印がされてますわ。
 これは偽造防止も兼ねている物ですから、映像に手を加えたり出来ませんのよ」

 わたしはシューサイの目の前に、ずいっと突き出してやる。
 『この刻印が目に入らぬかー!』てな具合。

 ちょっと仰け反ったシューサイは、思い余ったのか、忌々し気にわたしの手ごと【CAMERA】をパシっと払い除けた。
 うぉっ、ちょっと、それ高いのよ!


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